#118 The crazy marionettes
「………あの時と違って素直じゃないな。この私が誰かを褒め称えるなんて滅多にないぞ。」
「………褒めるなら一緒に戦ってくれた彼らを褒めて下さいと言ってるんですよ。」
哲郎はラドラと正面から話したのは初めてだったが、この男がたくさんの生徒を拉致監禁し人形へと変えた。そしてグス達を唆していじめへと走らせたのもこの男だ。
気を許すつもりなど少しも無かった。
「……ところで、」 「?」
「そこの彼らは一体なんですか?」
「ああ。これの事か。」
哲郎は天井近くに括り付けられた大量の人形を指さした。人間を変えて作ったものであろう人形達をラドラはこれと揶揄する。
「これは私の作品の一つさ。
魔法の才能もない劣等生達を私の元で友好活用できるようにしてあげたまでのこと。
勉強不足な君に一つ教えてあげよう。この世界の人間は二種類に分類される。
支配する側とされる側 そしてそのされる側も少なからず誰かを支配下に置く。それが世界の仕組みだ。
君のように仲間や友達を作りたいなら地元にでも帰って仲良くぼそぼそと暮らしていればいいんだよ。 ましてや冒険者になるなんてとんでもない。」
「…………………………」
ラドラの言葉は哲郎の信条を真っ向から否定するものだった。
「第一君に何の義理があるんだ。
君が受けた依頼はグスのいじめ問題を解決するものだった筈だ。そこまでしてエクスに協力する理由はなんだ?」
「依頼はまだ終わってませんよ。グスを止めたとしてもあなたは必ずこの学園に害をなすはずです。それでは依頼をこなした事にはならない。
ここであなたを止めて初めてこの依頼は完遂するんですよ!!」
「……ただの少年が一端の冒険者気取りか。
それと言っておくけど、私と戦いたいなら条件がある。」
ラドラは椅子に座ったまま指を鳴らした。
地面にいくつもの魔法陣が浮かび上がって、そこから地下通路で戦った二つ首の人形が現れる。
「私と戦いたいならこいつらを退けてここまで来ることだ。それが出来ないなら君もああなる。」
ラドラは天井の人形を指さして口元を緩めた。
「……その程度の足止めでどうにかなると思うんですか?僕はあなたの信頼するお仲間を三人倒したんですよ?」
「…………………」
二つ目の発言は本心ではなくラドラから冷静さを奪うためのものだったが、彼の表情は変わらなかった。
指を哲郎の方へと向け、人形の怪物を攻撃させる。人形は空高く飛び上がって上空から哲郎へと襲いかかる。
「……無駄だと言っているでしょう。」
「!?」
突進してくる怪物の懐に潜り込み、胸の中央を渾身の掌底突きで攻撃する。
人形の身体は少しの間震え、そして二人の人間へと姿を変える。
「もうこの手の人形とは何回も戦ってるんです。特性は見切りました。
この人形の心臓部分にはあなたの魔力が集中している。だからこの部分を攻撃すれば一発で人形化は解ける!!」
「…………………」
魔法の特性を破って見せてもなお、ラドラの表情はまるでこうなることを予測していたかのように冷静だった。
たった今変化を解いた人形とは別の人形の魔物が次々と襲いかかる。哲郎は人形の頭に手を添え、人形の背中を前転して足に力を込めた。
魚人歩行術 《水鉄砲》!!!!
「!?」
人形の促進力を自分の方向に向け、爆発的な加速でラドラへと急接近する。蹴りの射程に入るや否や、哲郎はラドラの首筋に狙いを定めて足を振り上げた。
「……言うだけのことはあるな。
まぁ それ以上の感想なんてないが。」
「!!?」
哲郎の蹴りが直撃寸前で止まった。
目を凝らすと足、そして全身が細い糸で縛られている。
(操り人形の糸か!?)
「所詮 能力は使いようだよ。」
「うわっ!!?」
振り回される糸に操られ、哲郎の身体は宙を舞って再び元の位置まで飛ばされた。
体勢を立て直して着地するが、またラドラとの距離を詰めなければならなくなってしまった。
「………!!」
「『振り出しに戻った』なんて甘い事を考えてるんじゃないのか?」 「!?」
「そんな生易しいものじゃない。
君はもう『詰みに嵌っている』んだよ。」
いつの間にかラドラの右側に巨大な人形の腕が形成され、その掌に巨大な魔法陣が形成されていく。
哲郎はその魔法陣の形に見覚えがあった。
「ま、まさか……………………!!!!!」
「ああ。その通りだよ。
根源魔法 《皇之黒雷》さ。」
ラドラの言葉の直後、魔法陣から黒い雷が束になって哲郎に襲いかかった。