#11 Wave impact
『ダメージは五分。
両雄、再び向かい合った!!
準決勝への切符を掴むのは、果たしてどちらか!!?』
哲郎は全身が焦げていたが、すぐに適応するだろう。レオルも右目を治し、身体のダメージの治癒に取り掛かる。
「テツロウ・タナカ。貴様のおかげで準決勝、そして決勝に向けた攻撃のシミュレーションに入れそうだ。」
「!!?」
レオルが右手を上げた。その瞬間、テツロウの上空周りにいくつもの魔法陣が展開させる。
『こ、これはまさか━━━━━━━』
「食らうがいい!!!!
《閃光機銃》!!!!!」
その魔法陣から一斉にレーザーが放たれ、哲郎に襲いかかる。
『出たァーーーー!!!!
レオル選手が、前大会で放ったとされる大技、《閃光機銃》が炸裂ゥーーーーー!!!!!
テツロウ選手、万事休すか!!!?』
場内が熱狂する中、哲郎は冷静に構えをとった。
『おっと テツロウ選手、両手で手刀を構えました!! テツロウ選手、この猛攻をどう迎え撃つ!!?』
哲郎は襲いかかるレーザーに軽く触れた。
そのまま身体をきりもみ回転させる。
「ハイヤッッッ!!!!」 「!!!!?」
哲郎が身体を振るい、回転でレーザーの軌道をずらした。レーザーはあらぬ方向に飛ばされ、四方八方を舞う。
ズダダダダダン!!!!
「きゃっ!!!」 「うわぁっ!!!」 「危ねぇ!!!」
ずらされたレーザーは観客席にも飛んでいく。観客席とは障壁があるため、観客には危害はなかった。
飛ばされたレーザーはレオルにも向かっていく。しかし、レオルはそれを見切り、躱した。
「そうか………。ならばこれはどうだ!!?」
「!?」
レオルが人差し指と中指を伸ばしつけて哲郎に向けた。
「《白雷》!!!!」
「!!!?」
グサッ
哲郎の胸に白い雷が細い槍となって突き刺さる。
『な、何という速さだ!!!
ラグナロク 最速とも揶揄される白雷がテツロウ選手の胸を貫通!!!
これは勝負あったか!!!?』
しかし、哲郎は難なく立っている。
それをレオルは何の同様もなく見ていた。
『テツロウ選手、何のダメージも見せず立っている!! 何という耐久力だ!!!』
耐久力ではなく 適応力だが。
「白雷!!!!」
「ッッ!!!」
次の攻撃は難なく避けた。
最初は不意をつかれて攻撃を受けたが、ゼースの電光石火に適応した動体視力なら、見切るのはやってやれないことではない。
レオルは白雷を避けられても動揺を見せない。
同じ攻撃が2度 通用しないということは分かっていた。
『テツロウ選手、攻撃を避けて 攻めの構えをとった!! ここから逆転劇が始まるのか!!?』
哲郎が地面を蹴り、レオルとの距離を詰めた。
『テツロウ選手、ここに来て間合いに入った!!!』
「愚かな!!!」
レオルが再び手を白雷の構えで向けた。
バシッ 「!!?」
哲郎がレオルの手を弾いた。不意をつかれて一瞬 隙ができた。
その隙を見逃さず、哲郎はおおきく振りかぶって
バチィン!!!!! 「!!!!?」
渾身の掌底突きを叩き込んだ。
『レ、レオル選手 グロッキー状態になってしまった!! 一体何が起きたのでしょうか!!!?』
場内も戸惑っている中、ノア・シェヘラザードだけが冷静に答えを出した。
今のは、魚人武術に似ている と。
マーシャルアーツとは、人間族などの魔法の使用が苦手な人種が 魔法に対抗するために発明した技術である。そして、それは獣人族や魚人族も例外ではない。
魚人武術 その基礎技のひとつに【魚人波掌】というものがある。
ホキヨクが使ったような肉体を鍛え上げ、相手の身体を破壊する 獣人族の格闘に対し、魚人武術では、生物は液体という考えに基づいている。
【魚人波掌】とは、生物に含まれる水分に衝撃を伝える技術である。
人間に含まれる水分が60%であるなら、自分の筋力の1.6倍の衝撃を体内に打ち込むことができる。1番水に携わってきた魚人ならではの技術といえる。
そして、人間はこれをさらに改良した。
魔王などの魔人族と戦う使命を持つ勇者 が中心になって、魚人族が伝えたこの【魚人波掌】を恐ろしく改良したのだ。
人間族は長年の試行錯誤で衝撃の媒体を水分から魔力に変えたのである。
つまり、相手が優れた魔法の使い手であればあるほど伝わる衝撃は大きなものになる。
魔人族の天敵と言うべき技だ。
レオルは全く動かなくなってしまった。
目は虚ろになって、体が小刻みに震えている。
追い討ちをかけるように哲郎は彼の腹にパンチを打ち込み、そして全身のバネを使いレオルの顎を両足で蹴り上げた。
レオルは吹き飛び、外枠に叩きつけられた。
『レオル選手がダウンだー!!!!
テツロウ選手の逆転劇が、ここから始まるのか!!!?』
レオルがはね起き、哲郎と向かい合った。
口から血が漏れ、顎も赤くなっている。
「驚いたな………少々貴様を甘く見ていたようだ。 まさかあの【魚人波掌】を対 魔人族用にして放つとはな………」
それでもレオルは不敵に笑っている。
まだ 引き出しがあるようだ。