#109 Wave magnum
「!!!!!」
「テ、テツロウ君!!!!!」
哲郎に絡みついていた泥が固まって圧縮し、哲郎の身体を押し潰した。
唯一見える顔からは穴という穴から血が吹き出す。
「ああ。 力みすぎちまったか?お前にも聞かなきゃいけない事があんだよ。
あの時俺は確かにお前をひっ捕らえて完璧に拘束して地下に連れてきた。そのお前がどうやって錠から逃れた!!?」
「…………………!!!!」
ワードの顔は笑っていたがその口調からは怒りが伝わってきた。
ミリアのような拉致監禁されていた女子生徒が逃れ出たのもガリウムが錠から逃れて自分達に反旗を翻しているのもエクスがここを突き止めたのも そもそもの原因は哲郎にある。
「だいぶ お前に好き勝手やられたが、お前からわけを聞き出してミゲルとお前を捉えればこの失態も不問になる!!
洗いざらい喋って貰うぜ!!!!」
「……………………!!!!」
「それから一つ気になることもある。
お前がエクスから受け取っていた物があったよな。それを何かしらの方法で隠し持っていた 違うか!!?」
『!!!!』
哲郎とミゲルはワードが自分達の作戦会議を見られていた事 そして虚を突かれて動揺を示した。
「………どうやら図星のようだな。
俺達が徹底的に調べたのにどうやって持ち込んだ!!?そいつを答えりゃそこから出してやるぜ!!!」
『……………!!!』
【適応】の能力を駆使した事まではバレていないが、それも時間の問題だった。
喋らずともこのままでは近かれ遠かれ二人とも意識を刈り取られてしまうだろう。
「………喋らねぇつもりならそれでも構わねぇぜ。こんなに良質な素体を二つ持って帰ればそれもまた挽回には十分だろうからな。」
ワードは自信に見合うだけの絶対的な優位を取っていた。哲郎は全身を拘束され、ミゲルも首を掴まれて身動きと魔法の使用を封じられている。
「さぁ選べ二人とも!!
知ってることを全て話すかこのままラドラ様の傀儡になるかをな!!!!」
『…………………!!!!』
(ま、まずいぞ……………!!!
この泥に対する策を何とか出さないと 僕達二人とも………………!!!)
全身を圧迫されたダメージは既に適応していたが、拘束されて身動きが取れない。このままでは意識を奪われてラドラの魔の手に嵌ってしまう。
それを避けるにはこの状態から逃れる策を出す必要があった。
しかし哲郎は焦っていた。泥は水分を完全に抜かれて 魚人波掌の振動はほとんど伝わらないし、そもそもこの状態では攻撃を出すこともできない。
「まずは手の近いミゲル・マックイーン、お前から行くか!?」
「!!!!」
ワードはミゲルの首に巻き付けた泥の塊に魔力を込め、全力で締め付けた。
首筋付近の頸動脈を圧迫され、あっという間に意識を持っていかれそうになる
その最中、彼が聞いたのは『ビシッ』という何かにヒビが入る音だった。
(………………?? 何だ……??)
「!!!!? バ、バカな!!!!」
二人が視線を送ると、哲郎を拘束していた泥の塊がひび割れていた。
魚人波掌 造 《衝波響》!!!!!
『!!!!?』
哲郎は固まった泥からの脱出に成功した。
《造》とは、魚人波掌の衝撃を身体の動きを変えて全身から打ち出す魚人武術の高等技術である。
固まった泥には水分こそないが、内部には微細な亀裂が沢山入っている。
哲郎はそこに衝撃を流し込み、一気に破壊したのだ。
「!!!?」
ワードが呆気に取られ、気が付くとそこには既に哲郎の姿は無く、自分とミゲルの間まで急接近していた。
膝抜き 漣を使って一気に距離を詰めたのだ。
哲郎は身体を屈めて掌底を上に打ち出す体勢を取っていた。
上に陣取った敵に対して迎撃するための魚人武術の構え 《鱓の構え》だ。
《魚人波掌 鯉滝昇》!!!!!
『!!!!?』
全身のバネを使ってミゲルの首を締めている細長い泥の塊に渾身の掌底を叩き込んだ。
水分を沢山含んでいる泥から衝撃がワード自身へと伝わる。
瞬間的にそれを察したワードは泥から手を離した。次の瞬間には泥の塊は内部から破裂する。
(こ、このガキ なんて無茶苦茶しやがる!!!)
「!!!」
ミゲルが既に攻撃の構えに入っていた。
今 ワードの前方にある泥の塊と入れ替わって距離を詰める気なのだ。
接近するミゲルを捕まえようと泥の触手を展開する。
(甘いッ!!!)
「!!!!?」
泥の塊と入れ替わったのはミゲルではなく哲郎だった。 高身長のミゲルを捕えるつもりで伸ばした触手は哲郎の頭上の空を切る。
ゴッ!!!!! 「!!!!!」
哲郎が全身の筋肉を使ってワードの顎を蹴り上げた。