#106 Chance to recovery
ガリウムに攻撃を与えたナイクという男は依然として悠々と立っていた。
「…………あなたにかける時間などないのです。 このまま倒させてもらいますよ。」
「…………………!!!」
ラドラが召喚した人形の魔物達との連戦に続き既にナイクの作り出した刃物の攻撃を受け続けて身体は既に限界に近い状態にある。
自分が不利な状態にあるのは間違いない事だ。
(……………確かにダメージはかなり受けたが、それでも俺の身体には少しだけだがまだ彼女達の肉体強化魔法の効果が残っている。
これにかけるしかない!!!)
ガリウムが己を鼓舞している時に ナイクは既に魔法を展開する準備をしていた。
「行きますよ!!!
《武器錬成》!!!」
「!!!」
ナイクが展開した魔法陣から大量の刃物が現れ、ガリウムに向かって飛んでくる。
それに対しガリウムは拳で顔面を防御し身体を屈めて低い体勢を取る。
(来るなら来い!!!刃物に自動追尾の魔法が掛けられてることは分かっている!!!)
自分に自動的に照準を合わせて向かってくる刃物に対する有効打は既に見つけていた。
「フンッ!!!」 「!!?」
刃物の鋒が顔面に突き刺さる直前に身体を翻して飛んでくる刃物を躱す。
直進する刃物はガリウムに反応するより早く向こう側の壁に突き刺さって自動追尾の魔法の効力を失った。
「!!!」
(こいつを喰らえ!!!!)
刃物に避けられた事に気を取られている間にガリウムが眼前に迫っていた。
拳の狙いをナイクの顔面に定めている。
「フンッ!!!!!」
「!!!!」
ガリウムの拳がナイクへと炸裂し、衝撃音が響き渡った。
しかし、拳に伝わってきた感触は人間の皮膚を捉えた物では無かった。
「!!!」
ガリウムの拳はナイクの魔法陣から出てきた金属の棒に阻まれた。
そしてその斜め上から魔法陣を発射台にして刃物が飛んでくる。
ガリウムはその刃物を後ろに飛んで躱す。
しかしそれによって拳でしか攻撃の手段を持たない彼にとって命取りになる【間合い】をナイクに与えてしまった。
「!!?」
ガリウムが着地した場所に魔法陣が光った。
そこから金属の棒に尖った刃物が付いた【槍】が襲いかかる。
ガリウムは槍を横に飛んで回避する。
「………………………。」
もう既にラドラが生み出した人形の魔物を何体も倒し心身共に限界が近づいている筈だが、全く心が折れる気配がない。
その事がナイクには不可解に感じられた。
(………とはいえ不安定なのは間違いない。
心を揺さぶりさえすれば……………。)
「そこまでして諦めようとしないのは、負い目があるからか?」
「!!!?」
口調を変えて揺さぶりをかけると、ガリウムの表情が目に見えて曇った。
(……………やはりそうか。)
「そうだろうな。我々に不覚を取って、さぞエクスに迷惑をかけたのだからな。」
「…………………!!!!!」
「しかし運が良いよな。
あのテツロウに助け出されやっと挽回のチャンスを貰えたんだ。負けられないよな。」
ガリウムの表情からは目に見えて冷静さが消えていった。
(心に隙ができた!! 今だ!!!)
動揺を誘う事に成功しできた心の隙をついて心臓部に狙いを定めて刃物を射出した。
顔面が隙だらけになった所に隙をついた攻撃は絶対に反応できない━━━━━━━━━
ガキンッ!!! 「!!?」
ガリウムは胸へと飛んでくる刃物を拳で叩き落とした。
(………………!!!
あれに反応するのか……………………
まさか!!!)
ガリウムが自分の不意を突いた攻撃に反応できた理由は一つしか無かった。
(心が動揺していないのか………………!!?)
忠誠を誓った相手への失態という彼にとって最大の心の溝を着いてもなお、ガリウムの心は動揺していなかったのだ。
「…………お前たちの言う通りだ。」
「何!?」
ナイクが冷静さを失いかけている中、ガリウムは悠然と口を開いた。
「確かに俺はお前達に不覚を取り、あの人形のように利用されるところだった。
だが、それは過去の話だ!!!」
「!!?」
「テツロウ君が俺を助けてくれて戦う力を貰って 今俺はここに立っている!!!」
ガリウムは拳を構え直した。
エクスに負い目は感じていても、それを意に返す暇もなくあるのはただエクスの役に立って汚名を返上してみせるという決意だけだった。
「今の俺の心は絶対に折れない!!!
倒したかったら力でねじ伏せてみせろ!!!!」
「!!!!」
ナイクはこのラドラが気に入った相手を完全に倒すには彼の言う通り力でねじ伏せるしかないと理解した。
「………そうか。
ならばこいつを喰らえ!!!!」
ナイクが作り出した魔法陣から数え切れない程の刃物が発射された。