#103 MY SWORD
エドソンは目の前で起こっている光景を理解出来ないでいた。
自分が攻撃を加え続け、既に瀕死の状態にあった。ファンが立っていられる可能性など万に一つもない筈だ。
「バカな 何故…………!!!」
(!! いや待て、あいつのが僕と同じ種類の魔法ならまさか…………!!!)
「ア、アリス お前まさか………………!!!!」
「ええそうです。 気付いたようですね。」
エドソンはファンが立っている謎を解き明かした。
アリスはファンを包み込んだ風に治癒魔法を付与して負傷を回復させたのだ。
彼がその結論に至ったのは彼自身が操った石に魔法を付与できるからである。
しかしそれでも腑に落ちない点があった。
「……しかし、お前なんかが治癒魔法をどうやって覚えた!!
まさか妖精の力に目覚めたからだとでも言うんじゃないだろうな!!」
「そのまさかですよ。
あなた達と違って私達は学園の授業をちゃんと受けていましたから、治癒魔法の術式は頭に入っていました。それを妖精の力に目覚めて魔力が増えたことで使えるようになっただけの事です。」
「………………………!!!!」
「…………とはいえ私もそろそろ限界が近いのでね、後は彼に任せます…………。」
「!?」
それを言ったのを最後にアリスは両膝を付いた。意識は失っていなかったが、力を使い果たしていた。
しかし彼女に止めを刺す訳には行かない。
エドソンの注意はファンに集中した。
「………アリスさん、僕の為にありがとう。
あとは僕に任せてゆっくり休んで。」
「……青春ごっこは結構だけど、僕に勝てる保証があるの?」
「勝てるかどうかじゃないよ。彼女の頑張りに全力で答えるだけだ!!!」
エドソンは思考を巡らせていた。
今のファンの力の程が全く分からなかった。
(………こいつは瀕死の状態からグスに勝てるだけの実力がある。ユーカはもう戦えないだろう。
だけどこいつにさえ勝てたら僕達の勝利だ!!!!)
アリスの治癒魔法でどれほど回復したのか分からない以上、自分に出来る事は全力で戦うことだけだった。
***
(ここで僕が負けたらアリスさんの頑張りもお兄様の苦心も全て 水の泡だ。
そんな事は絶対にあっちゃいけない。絶対に負けられない!!!)
ファンは実兄のそして聖騎士の血に全てを掛けて戦いに臨む決意を固めた。
「………行くぞ。」
先手を打ったのはエドソンだった。
石造りの床から大量の礫を作り出して宙に浮かべ、自身の周りで回転させる。
「全部防いで見せろ!!!」
「!!!」
《礫弾幕》!!!!!
「!!!!」
遠心力がたっぷりと乗った大量の礫が弾丸となってファンに襲いかかった。
「くっ!!!」 「!?」
礫の大群を防ぐでは無く躱す選択を取った。
この状況でエドソンが次に出す攻撃は一つしかない。
(これならどうだ!!?) 「ッ!!」
ファンの目の前に巨大な石の壁がそそり立った。 一瞬動きが止まるがすぐに体勢を立て直し、次の攻撃に出る。
「ッ!!?」
(隙を見せたな!! これならどうだ!!?)
ファンは手を大きく振るう構えを取ってエドソンに向き合った。
その手には手の平大の騎士之盾が展開されている。
(お兄様 見ててください
これが僕の 聖騎士の剣です!!!!!)
「騎士之盾 《擲》!!!!!」
「!!!?」
腕を振るって円盤状の障壁を投げつけた。
騎士之盾は高速で回転しながらエドソンの首に向かって直進する。
ザシュッ!!!!!
「!!!!! ガッ…………!!!!!」
身体を捻って首への直撃を避けたが、高速回転した騎士之盾は脇腹を切り裂いた。
(………………!!!!
馬鹿な!!! これが防御魔法から生まれた技の威力か……………!!!!?)
脇腹から血を吹き出しながらエドソンは膝を付いた。激痛に耐えながら彼は今 目の前の下級生が繰り出した攻撃に驚愕していた。
(な、なんてやつだ……………!!!!
盾を薄くして回転させて刃物にするなんてこれが エクス・レインの血筋が成せる技なのか……………!!!!!)
「その出血で動くのは命取りだと分かってるでしょう? そこに倒れている彼女を連れてここから離れて下さい。」
「!!!!!」
下級生のその言葉はエドソンの心を深々と抉った。
「…………なめるな。」
「?」
「七本之牙の一員がこんな所で負けてられるか!!!!!」
「!!!!?」
床から石を搾り出し、脇腹に当てて変形し、密着させて傷口を圧迫した。
「…………………!!!!」
「……………はァ はァ はァッ…………………!!!
…………どうだ!!! 魔法の使い方は僕の方が上だぞ!!!!」
(…………少し強引だが、ひとまずこれで まだ戦えるぞ………………!!!!)
エドソンは止血を成功させた。
その目にはまだ闘志が滾ってきた。