#102 Fairy fly to the great sky Part5 ~Railgun~
自分に止めを刺す
アリスはユーカに向かってそう宣言した。
そして徐に両手を広げ 前方に掲げる。
「はあああああああ」
「……………………??!」
しばらく経っても何も起こらず、ユーカは顔を動かした。
しかし アリスの口元が少し緩んだのを見てそれが罠であると気付く。
(!!! しまった!!!)
「もう遅いですよ。」
ユーカの顔から風が巻き起こり、彼女を包み込んだ。
(…………………!!!
やっぱりあの少しの風を大きくするのはキツい でもやるしかない!!!!)
力に目覚めて少ししか経っていないが、自身の魔法の弱点は感覚で理解していた。
小さな風を大きくするにはかなりの魔力を消費してしまう。 しかしそれもファンが身を呈して自分を守って負ったダメージに比べたら問題にはならない。
「はああああああああああああああ!!!!!」
(ヤバいヤバいヤバい!!!!
何とかして脱出しなきゃ!!!!)
身体にかかる負担によってアリスの鼻から一筋の血が垂れた。
それでも戦意を失う事はなく、ユーカの周りを竜巻で囲む。
「はあっ!!!!!」
「うわあああああああああああああ!!!!?」
巨大な塵旋風がユーカを囲んで吹き荒れ、ユーカはその風に巻き込まれて空中を高速で回転する。
『…………………!!!!』
「無駄です。 今の私に分かる事ですが、その中は軽く見積っても風速60mは超えている。 脱出は不可能です!!!」
風に振り回されるユーカを他所にアリスは石造りの床に視線を送った。
指を振って小さな風を起こし、それを地面に打ち出して床を破壊した。
砕けて出来た手のひら大の床の破片を手に取り、再びユーカの方を向いた。
突風に振り回されて視界を遮られていたユーカだが、アリスが何をしたのかは理解出来た。 そして、彼女がこれから何をやろうとしているのかも直感した。
「………あなたの名前は分かりませんが、終わらせる前に一つだけ聞いておきたいことがあります。
今の私とロイドフ どっちが強いと思いますか?」
『!!!』
アリスがこれから繰り出す攻撃にはもうひとつの意味があった。
公式戦で不覚を取ったロイドフ・ラミンという存在を乗り越えて新しい自分を確立する第一歩でもあった。
「…………と言ってもこの風の中で答えられるわけ ありませんよね。
では さようなら。」
『!!!!!』
アリスはそう言うと軽い力で破片を風の中に投げ込んだ。 止めを刺すにはそれだけで十分だった。
石が竜巻の中を進む距離は竜巻の中の何十倍にも跳ね上がる。その間 石はずっと追い風によって加速し続ける。
エドソンが心ゆくまで戦える石造りの空間が今は自分に牙を剥く凶器へと姿を変えた。
ユーカは体勢を崩したまま竜巻から吹き飛ばされた。そこに風で大いに加速が乗った石が弾丸となって彼女に襲いかかる。
(…………………!!!
こいつさえ防げば!!!!)
ユーカは杖を突き出して魔法陣で防御を試みた。 風魔法以外で彼女が唯一使える防御魔法だ。
「……………それも読んでますよ。」
「!!?」
アリスが指を振ると、石の弾丸は軌道を変えてユーカの下方向に滑り込んだ。
「!!!!?」
「これもエクス寮長に教わったことです。
相手の不意を突く事こそ勝利の鉄則だとね!!!」
ロイドフの時は出来なかったが、今の自分には簡単に出来る。
彼女自身が自分の成長を実感していた。
「!!!!!」
ユーカの鳩尾に石の弾丸が突き刺さった。
(そ、そんな………………!!!
私が 七本之牙の私がなんで ロイドフにも勝ってないやつなんかに……………!!!!)
薄れゆく意識の中でユーカは自問自答を繰り返した。 しかし答えを出すには時間はあまりにも少なかった。
ユーカの身体はきりもみ回転しながら竜巻の壁を越えて反対側の壁まで吹き飛んで激突した。
「!!!! ユーカ!!!!」
天井付近で大きな土煙が巻き起こり、そこから落ちてきたものを見てエドソンは取り乱した声をあげた。
「ば、ばかな………………!!!!」
竜巻に遮られた空間から帰ってきたユーカは無惨な姿に変わり果てていた。
外傷は腹部への打撃と頭部と口からの出血だけではあったが、そこには七本之牙の誇りは微塵も無かった。
「!!」
背後に気配を感じて振り返ると、部屋を分断していた竜巻は既に消え、そこには悠々と立ち尽くす一人の風の妖精の姿があった。
「……………………!!!!
アリス・インセンス……………!!!!」
「………見ての通り、あなたの仲間は片付けました。 それと私の本名は【アリス・インセンス・ジュナイプ】というんです。
これからは間違えないでください。」
「……………!!!」
「それと何か誤解しているようですが、あなたを倒すのは私ではありませんよ。」
「何!?」
アリスはエドソンの後方を指さした。
その方向を向いたエドソンの目に信じられない光景が飛び込んできた。
「………………!!!!?
バカな…………………!!!!!」
「敵は1人片付けました。
後は任せましたよ。」
エドソンの後方でファンが立っていた。