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2話

 そうして俺は異世界に転生した。


 気が付くと二十畳ほどのだだっ広い部屋にいた。


 壁周りは石積みで高い位置に松明が何本も置いてある。

 夢にしてはリアルすぎる床の石の冷たさに手元を見ると円の中に何やら幾何学模様や見慣れない文字が彫ってある。

 もしかしてこれ魔法陣か?


 拘束もされてないし、服装は仕事してた時のポロシャツとカーゴパンツ姿だ。

 財布もスマホもちゃんとある。 



 ふと右側に木造りの扉を見つけ開けようとしたがびくともしない。

 外から何かで閉じられてるようだ。


 両手で頬を二回叩き、やはり夢でないのを自覚する。

 何だろ? 寝てる間に誰かに誘拐されて閉じ込められた?

 でも誰が何の為に?


 そこの扉も開けられなかったし。


 目を瞑ってあの神技の事を考える。

 確かスキル『叡智』で調べろって……。

 すると頭の中にイメージが流れ込んできた。


『転移完了、これより神技及び身体能力の最適化を始めます。なお終了までは元の世界と同じ能力しか使えません』


 視覚化って云うからてっきり目の前に文字とか絵とか現れるのかと思ったが単にイメージが認識できる形で頭の中に流れ込んでくる感じだった。

 しかしその最適化とやらが終わらない限り元の世界と同じただの人って事なのか。


 不意に扉が開いた。

 女が二人中に入って来た。

 二人とも金髪碧眼でかなりの美形だ。

 一人は騎士風の鎧に身を包んでおり後ろ髪だけ伸ばしている。

 もう一人は肩まで伸ばした髪で、濃い緑のドレス風の服の上にローブを着込んでいて、手にはなにやら水晶のような石を嵌めた杖を握っており、魔法使いと云う感じがピッタリのいでたちだ。

 ファンタジー世界の騎士と魔法使いと云った感じだが、面立ちといい服装と云いどこかお姫様っぽい雰囲気を醸し出してる。


 二人が部屋に入ると再び扉が閉まった。


 しばらく二人は俺をじっと見つめている。

 たまらず俺は


「こ、こんにちは」


 と極めてフレンドリーな挨拶をした。


 二人は俺の挨拶を無視してこちらを見続けていたがやがて相談を始めた。が。


「ワルジナ カレオヲオ?」


「……ンレブリヌ」


日本語じゃないさっぱり何を云ってるのか判らない。

 異世界転生で早速け躓いた感バリバリだ。

 言葉がわからないんじゃ文字通り話にならない。

 何とかして言葉が判らないかな……。


 不意に頭の中にスキル『叡智』のイメージが湧いた。


『神技最適化完了、続いて身体能力の最適化を始めます』


 続いて『神技作成――言語変換』のイメージが湧く。

 すると


「どう見てもただの人だろ、コレ。しかも何云ってるか判らないし」


「……やっぱり失敗」


 おお! 言葉が判るようになったぞ。

 なるほど、何となく神技がどういう物か分かってきた。

 多分イメージしたものがその通りになるんだな。

 で、『叡智』が細かい部分を補佐してくれる。

 だから漠然と念じれば良い訳だ。


「あの……こんにちは」


 あらためて挨拶しなおすと二人ともギョッとした顔になった。そりゃそうだろ。


「な、なんだ普通に喋れるのか……」


 鎧娘がつぶやく。


「……あの、貴方様はアイス・ファン様?」


 ローブ娘が尋ねてきたがなにそれ…。


「いや、俺はムラカミ・タロウって名前ですが……」


 それを聞いて少女達は絶句した。


「やはりアイス・ファンじゃないのか……失敗だな……」


 鎧娘が溜息をつきながらに呻く。


「……やっと成功したと思ったのに……」


 ローブ娘も盛大にガッカリしている。


 しかしアイス・ファンって誰だ?さっぱり解らん……。


 と、又頭の中に『叡智』のイメージが浮かんできた……そして


『アイス・ファン…この世界の通称東大陸の一部で信仰されてる架空の英雄神。召喚の儀式によって顕現し多くの軍勢を打ち倒す力を発揮すると信じられている』


 成程ね。その英雄神とやらをこの二人は召喚しようとしてたが架空の神だから当然実現しない。

 そこに俺が送り込まれた訳か。

『神様』も冗談キツイな。


「……この人どうする?」


 ローブ娘がばつの悪そうな顔でこっちを見る。

 恐らく間違って召喚した単なる人って認識なんだろうなぁ……。


「うーん、間違いとは云え召喚された男だ、もしかしたら何か特別な力を持ってるのかも知れない」


 そう云うと鎧娘は腰の剣をスッと抜いた。


 オイオイなんか物騒な方向に話が進んできたような……。


「ムラカミ・タロウとやら、貴殿は武技や魔法の心得は有るか?」


 剣を構えながら鎧娘が尋ねてくる。


「い、いや、そう云うものは余り得意では……」


 つか魔法なんて手品くらいしか知らんがここで云ってるのは絶対違うだろうな……。

 自慢じゃないが産まれてこの方武道なんて高校の授業の剣道くらいしかやってないし。


「貴殿の力、見せてもらおう。本気で掛かってこねば命を落とすと覚悟してもらう。」


 オイオイオイ!この鎧娘は脳筋かよ!転移していきなり戦闘とか勘弁してくれよ!


 どうする?まだロクに力の使い方も判ってないのに戦闘なんかしたら下手すりゃ又死ぬぞ……。

 あれ、しなないんだっけ?

 取りあえず時間を稼がない事には……。


「ちょ、ちょっと待ってくれ!」


 俺は慌てて手を前に出して振った。


「何だ?」


 剣先をこちらに向けたまま鎧娘の動きが止まった。

 取りあえずチャンスだ。


「いきなり人を呼び出しといて剣を向けるなんて随分だとは思わないか?」


 心の中で冷や汗を掻きながら精一杯の虚勢を張って尋ねる。


「何が云いたい?」


 鎧娘がジリジリと間合いを詰めながら聞いてくる。

 俺もジリジリと間合いを取りながら、しかも必死で考えながら答える。


「云いたいじゃなくて聞きたいんだ。まずここが何処であんた達は誰なのか。そして何で俺をこんな所に呼び出したのか」


 取り敢えずは疑問の基本三点セットだ。3Wだかなんだか英語の時間に習ったような気がするがとにかく現状側から無い事にはその次の判断が付かん。


 その間に取り敢えず使えそうなスキルを創造する。

 手持ちに武器がないから格闘術がいいか。


『創造――究極格闘』


 と念じる。

『叡知』が「格闘技構築中」とイメージを送ってくる。

 早く完了してくれよな。


「ここはエンター王国、私たちはそこの人間、何で呼び出したかは魔法陣の召還だ」


 答えになってねぇ。

 つか何一つ判らないじゃないか。


「いや、もっと具体的にだな……」


 その時『叡智』が「作成完了」のメッセージを送ってきた。


 とりあえずスキル格闘奥義の作成には成功した。

 しかし向こうは剣を持っていて圧倒的にこちらが不利だ。

 なんとか剣を奪うなり向こうか出来ないかと考える。


 すると『無刀取り』というイメージが湧いてくる。

 そういえばどこかの流派にそういう技があったな。


「てええええええい!」


 姫騎士が上段から裂帛の気合いで打ち込んでくる。

 俺はすかさずかがみながら踏み込むと振り下ろされる姫騎士の両手に向かって伸びを利用してアッパーカット気味の掌打を放った。


「なっ」


 姫騎士の持っていた剣は掌打に弾かれて俺の後ろの方に落ちた。


 一瞬あっけにとられた表情していた姫騎士だがすぐにパンチの連打そしてキックまでも打ち込んでくる。


 軽装の鎧とはいえそれなりの重量があるはずなのにそれを感じさせないしなやかな動きに驚きつつ回し蹴りを掴んだ瞬間その足を軸に回転し相手を倒す


「あうっ」


 倒れる姫騎士に流れ的には四の字固めを決めたかったが鎧のせいでこっちが痛そうなのでやめて代わりに脇固めを決める。


「くっ、は、はなせ!」


 お約束の殺せじゃないことに若干がっかりしつつ。


「すまんがあんたたちと戦うつもりは……!」


 言い終わらないうちに火の玉が俺たちに飛んできた。

 慌てて姫騎士を掴んでいた腕を離し転がりながら火の玉を避ける。


 どうやら隅っこにいたローブ娘から放たれた魔法のようだ。

 呪文らしきもの詠唱し終わると火の玉がまた出てくる。


 それを避けると剣を拾い直した姫騎士がまた切り込んでくる。


 だめだこいつら話を聞く気が全くない。

 格闘技スキルのおかげで致命傷を食らうことは無いが、このままでは全く埒があかない。

 魔法を作ろうにも攻撃を避けながらではとても集中できない。


 何せ姫騎士に技を掛けようとすれば火の玉が飛んでくる。

 二人のコンビネーションはかなり高い。避けるだけで精一杯だ。


 とその時扉の外から


「おやめなさい!」


 と力強くそれでいて澄んだ声が聞こえた。

 それを聞いた途端2人の動きが止まる。


 重々しく扉が開き声の主が駆け込んできた。

 青い瞳にプラチナブロンドの長い髪、非常にととのった中にも愛くるしさをもったその相貌はまさに王女と呼ぶにふさわしい。

 中にいる2人もかなりの美少女なのだが彼女はワンランク上を云っている。

 変わったところではまとっているドレスが良くあるシルク地の艶々した物ではなく何となく粗末な感じのドレスだ。

 だがそれを差し引いて有り余るほどの美しさだ。


 だが顔色は蒼白で狼狽と怒りの表情が浮かんでいる。


「リネ……どうして」


 姫騎士が戸惑いの表情を浮かべながら尋ねた。


「ティア! 英雄神様にいきなりの腕試しを挑むなど無礼が過ぎます!」


「しかし、こいつはどうして見てもアイス・ファンじゃない。ならば……」


「だからといっていきなり剣を向けてどうするのですか! 貴方は騎士でしょうに!!」


「っ……すまない」


 姫騎士、ティアと云うのか。

 が、リネとやらの剣幕に押され頭を垂れた。


「謝罪するならまず英雄神様にでしょう」


 リネはティアと俺を罰の悪そうな顔で見ると、


「すまなかった」


 と頭を下げた。


「リネ!」


「っ! すみませんでした!」



「ライラも」


「……大変ご無礼を働きました。申し訳ありません」


 ローブ娘も頭を下げた。


 どうにかリネとやらのお陰で落ち着けそうだ。


「取り敢えず謝罪は受け取って置くよ。であんた達は一体何者で、そもそもここは何処なんだい。」


 リネの目が大きく見開かれた。


「この二人はそれも説明してなかったのですか……」


 なんか二人が必要以上に縮こまってる。

 どうも怒らせるとダメな人らしいな。


「大変失礼しました、英雄神様。私、エンター王国第一王女でリネ・エンターと申します。」


「私はティア・クイック。リネの従兄弟で近衛騎士団長をしている」


 姫騎士が名乗り続いてローブ娘が


「……ライラ・タージ。同じくエルメリアの従兄弟で王国魔導士筆頭。」


 成程、三人は一応王家の血筋な訳ね。


「その英雄神様は止めてくれ。俺は、ムラカミ・タロウ……名前が先ならタロウ・ムラカミか」


「分かりました、タロウ様。ここはエンター王国の首都マーセナリーにある私たちの居城です。」


「で、アイ何とかがどうとか云ってたが、何の話なんだ?」



「……アイス・ファンとは我がエンター王国の開祖ルシウスの窮地に顕現し、開国を助けたと云う伝説の英雄神。城の書庫にルシウスが使用した召還魔法の書がありそれを使って何度も術を試してようやく成功したと思ったら貴方が現れた」


 と、ライラが説明した。

 まぁ神様があんなのじゃ無理だって云ってた位だからその本は眉唾モンだろう。

 しかし……。


「でなんでそのアイス・ファンを呼ぼうとしたんだ?」


 リネが切り出す。


「今、我がエンターは隣国レヴィオン帝国の侵略を受けています。帝国は西方二都市を占領し、今まさにこのマーセナリーに迫ろうとする勢いなのです」


「国王以下主だった貴族達は総力を挙げて西のルネス平原に防衛陣を構え、帝国軍を迎え撃とうとしてますが帝国は五千以上の軍勢に対し我が方はわずか二千人程……」


 なるほど、明らかに多勢に無勢、

 で俺を召喚したってわけだ


「しかし、他所に援軍を頼むとかしなかったのか」


「もちろん古い盟約に従って各国に援軍を求めましたが皆帝国の矛先が自分に向くのを恐れて断られました。唯一帝国と対峙しうる兵力を持つ南のメルビィ王国も内政に問題を抱えているらしく色良い返事をもらえませんでした」


 で、国王から総出で防衛戦に出払ったって訳か。そりゃ英雄神に頼りたくもなるわ。


「例え英雄神アイス・ファン様では無くとも召喚の儀で呼ばれたお方、よくぞおいで下さいました」


 リネがひざまずき、深々と頭を下げた。


「そこで召喚しておきながら身勝手なお願いと承知の上ですが、何卒そのお力をお貸し願えませんでしょうか」


 王女様がうるうる顔でお願いしてくる。


「うーん」


 おもわず腕組んで考えちまった。

 心情的にはもちろん力を貸してやりたいがこちとらまだ転移したばかりで能力がどうなのかさっぱりわからない状態ではいそうですかとは安請け合い出来ない。


「勿論それなりのお礼は致します、ただ現在王国は帝国との戦争により困窮しており、多くの謝礼をお支払いすることが出来ません。」


 ん?なんか世知辛い話になってきたな。

 英雄神って金で動くものか?


「も、もし引き受けてくださるのでしたら、わ、私を……差し上げます。」


 最後の方はゴニョゴニョになってたが真っ赤になりながら王女は云った。


 うわあ、王女様渾身の人身御供発云来たわあ。


「「リネ!!」」


 ティアとライラが同時に叫んだ。


「お前第一王女だろ、云ってる意味解ってるのか?王室を離脱するって事だぞ!」


「その時は第二王女のライラが継げば良いことです。」


「……この人を召喚したのは私なんだから、私が……」


 そう云ってるライラも顔を赤くしてゴニョゴニョする。


「いや、二人にそんな事はさせられない。ここは私が、その、あの、なんだ」


 やはり顔を赤らめながら明後日の方を向きしどろもどろになるティア。

 まぁ三人ともウブ丸出しなのは仕方ないのか、などと思いつつ。


「とにかく、いきなりの事で気持ちの整理がついてないんだ。ちょっと落ち着かせてくれないか。」


 転移してからまだ一時間も経ってないだろうに展開が急過ぎる。

 自分の能力を含め色々考える時間が欲しい。


「そうですね、大変失礼しました、ではちょうど晩餐になりますのでご一緒にお召し上がりください。こちらへ」


 そんな時間だったのか。と云うかそう云われて初めて腹が減ってきた。


 俺は三人の後に付いて部屋を出た。

いつもお読みいただきありがとうございます。

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