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1話

 俺、村上太郎は極普通のありふれたトラックドライバーのオッサンだった。


 毎朝四時に起床、五時には会社を出発し、前日に積んでおいた荷物を配送先まで運ぶ。


 午前中に三軒配送し、コンビニで昼飯を食べ、短い仮眠を取り、午後には別の荷物を積んで夕方までに配送する。

 その後明日の分の荷物を積んで帰社。

 明日の運行計画書や納品書などを受け取り、点呼を取って退社。

 牛丼屋で夕飯を済まし酒も飲まず八時には帰宅し風呂に入ってテレビを見て十時に就寝


 妻子はいたが長時間勤務且つ休日は寝てばかりの俺に見切りをつけたのか、妻は他に男を作って子供達と出て行った。

 それからは二人居た子供達にも会ってはいない。


 以来延々独り身だ。

 そもそもこの業界で出会いもロクになければ交際に割ける時間も無い。

 妻も前の仕事で出会った。

 その会社が倒産しなければ人生ももう少し変わっていただろう。

 そんな訳で再婚する気にもならず時々安風俗で発散させて休日はひたすら家で寝てる。

 そんな生活を繰り返し五十歳を過ぎた。


 丁度その時期は繁忙期で忙しかった。

 上司である配車係は朝の点呼で、


「くれぐれも事故の無いように」


 とおなじみの話をする。

 誰だって事故を起こしたくて起こす訳じゃない。

 重大事故を起こせばそれこそ一生が台無しになってしまう。

 だが云ってる当の配車係が無茶な運行計画を押し付けたり、納品先で全品手降ろしなどさせられての過労など事故を誘発する原因はいくらでもある。


「最近は異世界に行きたがる奴が飛び込んでくるらしいからなぁ」


 俺より若いオタク趣味な奴が冗談交じりに云ってたが、それこそ冗談じゃない。

 トラックに轢かれてなんで異世界にいけるのか。

 トラックメーカーはクレームをつけてもいいんじゃないか。


 別にファンタジー物が嫌いと云う訳でも無い。

 中学生の頃は異世界を舞台にしたロボットアニメとかも見てたし。

 でもまるでトラックの運転手が何も考えずに主人公を轢いてる訳じゃない。

 召喚されましたとかで良いじゃないか。


 そんな事を思いながら俺は自分のトラックを発進させる。

 今日は自動車の部品を四時間掛けてメーカーの工場へ持っていく。

 眠気覚ましにトラック運転手御用達のFMラジオを聴きつつ明け方の国道を走っていると先の橋の端に人が紙を掲げて立っていた。


 高速のインター近くに長距離トラック目当てのヒッチハイカーはよくいるが、ここにはそんなもん無いなと思い、何処に行きたいんだと紙をみると、


『異世界』


 と書いてあった。


 は? なんじゃそりゃ?


「最近は異世界に行きたがる奴が飛び込んでくるらしいからなぁ」


 そう云ったオタク趣味の同僚の顔が浮かんだ。

 そいつは俺のトラックを見るなり顔をほころばせるとこちらに飛び込んできた。


「!!!!」


 まさか本当にトラックに轢かれて異世界に行こうなんて馬鹿がよりにもよって俺の前にあらわれるとは!


 俺は慌ててブレーキを踏んだが積荷を満載しているトラックは容易には停まらない。

 次に急ハンドルを切る。

 もう積荷の状態がどうとか知った事じゃない。

 寸での所でそいつをかわす。


 ホッとする間も無い、かわした向こうは落差十メートル以上ある川だ。

 俺のトラックはガードレールを易々と突き破り落下していく。


 最後に脳裏に浮かんだのは二人の子供の最後に分かれた時の顔だった。


「あれっ、ここは…」


 目を覚ますと何も無い真っ白な空間にいる事に気が付いた。


「? …………夢?」


 ここ最近の激務の所為で疲れが貯まって夢まで殺風景になったかなどと漠然と考えてると。


「夢じゃないんだなぁ」


 どこからか子供の声が響いてきた。


 嫌、やっぱ夢だろ、どうせならもっと色艶のある夢がいいよなぁ、例えば異世界で可愛い子に囲まれて無双ハーレムとか、最強の魔法使いや剣士になって国を治めたり、はたまた神様になって世の中を好き勝手に改造したりとか……。




「なるほど、君の夢ってのは良く判ったよ、うん、実に好都合だ」


「好都合? 何の事です?」


 ついいつもの仕事の癖で敬語を使ってしまった。

 そういやトラックで人を避けて橋から落ちたはずだ。

 重症を負って意識不明なのか? それでこんな夢をみてるのだろうか?

 それにしてもこの声の主は心の中を読んでるのか? 夢とは言えお約束だなぁ。


「君は僕の求めてた条件にぴったりの人間なんだよ」


「どういう事ですか? と云うかあなたはどなた様で?」


 俺は声の主の姿を探した。


 すると目の前に小学校低学年位の男の子が不意に現れた。

 無地の襟付きシャツに短パンの何処にでも居そうな子供だ。



「初めまして、僕は君たちが云う所の所謂『神様』って奴です」


 男の子はちょっと胸を張って言った。


「……」


 俺が疑いの目で見ると


「まぁ俄かに信じられないのは解るよ。まだ夢だと思ってるだろうし」


 男の子はやれやれといった感じで言った。


「いや、自称神様は色々見てきましけど流石に子供はですねぇ……」


 まぁ古代ギリシャ人みたいな服にへんな杖持ったヨボヨボの爺さんとかは無いだろうけど真逆のビジュアルにギャップを感じざるを得ないのは事実だ。


「まぁ本当は姿なんてどうにでも出来るし実体なんて有って無いようなモノなんだけどね」


 そう言うや『神様』はヨボヨボ爺さん、インドの女神っぽい姿、白い狐、巨大な大仏と次々姿を変え、また元の子供の姿に戻った。


「あーいわゆる霊体とか高エネルギーナントカって奴ですか?」


 SF小説的な解釈で聞いてみる。


「う~ん、近いけど正解でもないかな。ちょっと説明はし難いかな」


 近かったのか。

 まぁ夢だしそんな詳しく神様の本質を知りたい気はしないし。

 目が覚めたら何か変なものがインストールされてても嫌だし。


「で、その神様が私に何の御用なんでしょうか?」


 夢なんだし深く突っ込んでも仕方ない。

 取りあえずその神様とやらに合わせる事にした。

 割かし鮮明な夢というのは滅多に見れない経験だ。

 よっぽど疲れとストレスが溜まってるんだろうなぁ……。


「手っ取り早く言うと君に仕事を頼みたいんだ」


「仕事……ですか?」


 ちょっと気分が下がった。

 なんか夢なのに現実的な話に……てか神様が仕事依頼って?


「うん、ある世界を僕らの代わりに管理して欲しいんだ。」


「はぁ……」


 異世界に送るを飛び越えて管理ときたもんだ。

 だが俺は管理職じゃない。

 運行管理者にならないかと云う話は何度かあったが上下に挟まれてすぐ胃に穴が開きそうなのでその都度お断りしたが。



「じゃ神様になれと?」


「流石にそれは無理なんだけどね、『神の代行者』としてその世界に行ってもらいたい」


「どういう事でしょう?。宗教でも興して我を崇め奉れと?」


「そうじゃないんだ、かいつまんで説明すると僕等が管理してる世界はそれこそ何百億とある。君も世界樹って聞いた事あるだろ?」


「そりゃ勿論、小説やゲームじゃメジャーですからねぇ」


 世界樹、よくユグドラシルとか宇宙樹なんて言われてる奴だ。

 同僚のオタク趣味の奴ほどでは無いが俺も昔はその手の奴が好きだった。

 プラモデルがバカ売れしたロボットアニメや宇宙戦艦やら。

 今でも休憩の合間にスマホでちょこちょこその手のものは見ている。


「君たちのいる世界を司っているのが世界樹。その世界樹が産み出す気、所謂プラーナが僕等の世界、天国とか神界とか君達が呼んでる世界を維持している。

 ただ中にはその気が今一つ良くない世界もある。まぁ育ちが悪いって所だね」


「じゃその世界樹の世話をすると?」


「ちょっと違うね。世界樹とは云っても別に樹の姿をしてる訳じゃない。君に判る様に言えばその世界自体が世界樹なんだ。代行者はその世界樹を活性化させる刺激なんだ。異能の力を持った代行者がその世界にいるだけでその世界樹は活性化を始める。活性の内容は色々さ。戦乱だったり科学の急速な進歩だったり。そう君のいた世界もそんな風に活性化した世界の一つさ」


 要は肥料か何かって事か。


「じゃ自分はただそこに居るだけでいいので?」


「それでも十分だけど折角異能の力を持つんだ。存分にその力を振るってくれても構わないよ」


「じゃぁ世界征服とかしても?」


「勿論さ。君が暴れまわっても世界が崩壊したり滅亡したりなんて事は起こらないから安心して良いよ。そもそもそんな人物はここに呼ばないよ」


 ここでふと嫌な事が頭をよぎった。


「神様、もしかして自分って本当に死んだのですか?」


「うん、仕事中に異世界に転生したいって願った自殺志願者を避けてね。で君の魂が代行者の素質にぴったりだったからこうして呼び出した訳。断っておくけどトラックに乗ってれば誰でもなれるって訳じゃないよ」


 やっぱ夢だろ、全然死んだって実感無いし。まぁ死ねば実感もへったくれも無いか。


「そう、この仕事を頼めるのは死ぬのを自覚しないで死んだ人間だけなんだ。そして自分の今までの人生に未練は無いけど生きる事に未練がある人、意外と少ないんだよ。」


 それはもろに異世界で新たな生を受けるのを許容できる人間の事だろう。

 まぁここでパニックを起こしたり暴れたりするようなのは問題外って事か。

 まぁ良いか、折角面白そうな夢だ。

 とことん乗ってみるか。


「判りました。で受けるに当って幾つか質問して良いですか?」


「どうぞどうぞ」


 さて人生の終わりに、いや新たな人生の始まりの最初の交渉は神様とだ。

 まぁあっちは考えが読めるから下手な小細工は無しで聞きたい事と出来る事を確認するだけだが。


「まずこの姿で異世界に行くので?それとも赤ん坊で?」


「胎児に転生させると母体が持たないんでね。そのままだよ。ただし年齢とかは替えられる」


「それから、寿命とかは普通? 死ねばゲームオーバー?」


「まさか。神の代行者だから寿命は無いし、死ぬ事も無い」


「無人の荒野に何万年とか勘弁ですが……」


「まぁ人類は滅多に絶滅しないから大丈夫だよ、それに気に入った人間を眷属化して永遠に仕えさせる、何て事も出来る」


 う、何気に重大な事云ってる気がする……。まぁそんな何万年先の話考えても仕方ないか。


「後、能力とか魔法とかは何が使えるます?」


 やはり異世界といえばチート能力だよなぁ。

 正直全く何の取り柄もなく見知らぬ異世界に送られるとか勘弁してほしい。

 取り柄も学も無いからそれなりの生活を送るだけで一苦労しそうだ。

 フォークリフト技能とか役に立ちそうも無いだろうし。


「勿論さ。君が使えるのは『創造』の神技

スキル

。『創造』は君たちが良くゲームとかで云う所のスキルや魔法、そして擬似という制限はあるけど生命すらも自在に作り出せる」


「……それってそのまんま神様じゃないですか」


 本当だとすればかなり凄い。

 魔法やスキルを自由自在に操れる。

 勿論あればの話だがステータスを変える事も出来るし確かに不老不死も想いのままだろう。


「勿論純然たる神様じゃないから制限はある、まず君はその世界、つまり世界樹の破壊は出来ないし新しい世界樹を創造する事も出来ない。出来る事はその世界の中で神の代行者としての権能を振るうだけ。勿論元の世界にも帰れない」


 まぁそれはそうだろうな。


「生物も生み出せるのはホムンクルスやゴーレム等の擬似生物だけ。生殖能力のある生物は無理。物も単純組成の例えば剣とか鉱物とかは作れるけど複雑な機械や電子部品も作れない」


「全くの全能って訳じゃないんですね」


 前職はトラック運転手でしたが異世界でもトラック運転手やってます~トラックで始める異世界流通革命~はだめなようだ。


 とは云え生物やゴーレムを生み出せるという能力はそれだけで十分凄そうだ。


「そこでもう一つは『叡智』の神技

スキル

。これは君を補佐してくれるAIと思ってくれ。今の世界とこれから行く世界のあらゆる知識を調べる事が出来る。『創造』と組み合わせれば大概のことはできるよ。」


 要は頭の中に超高性能なスパコンがあって豊富なデータベースを自在に検索できるって事か?何気にその能力も凄いな。

 異世界モノでありがちな現代世界の技術を再現とか苦労要らずじゃないか。

 応用すれば文明を急速に発達させる事も出来るだろう


「そう、それに君の持つ『創造』の力の補佐をしてくれる。君がイメージした物の細かい部分は『創造』が補佐して生成されるんだ。まぁ喋ったりとかはしないけど視覚で情報を伝えたりは出来るよ」


 おお、お約束のステータス画面表示とかか。


「あとその世界に自分以外の代行者とか転生者はいますか?」


「まさか。一つの世界樹に代行者は一人。二人もいたらそれだけで世界樹は崩壊しちゃうからね。転生者に関しては僕の知る所では今現在はいないけど可能性が全く無い訳じゃない。ただいたとしてもそう云う人間は神の神技なんて持ってないから出来る事はたかが知れているよ」


 それは安心だ。

 昨今の仮面ヒーローよろしく似たような能力持ちと戦うなんて面倒事は願い下げだ。



「さてそろそろ君の魂を転生させる時間が来た。これを過ぎると君は本当に死んでしまい、その魂は永遠の闇に沈むけどどうするね?」


「勿論代行者をやらせて戴きます」


 否も応も無いどうせ死ぬのだったら生き返れる方が良いに決まってる。

 まぁ夢から醒めるだけだろうけど。


「じゃぁ君を新たな世界に送るね?容姿について何か要望は?」


「うーん、どうせあとで変えられるんでしょうけどとりあえず子供じゃ不便そうですから二十五歳くらいで。あと頭髪はマシマシで」


 微妙に頭髪とか加齢が気になるお年頃だからなぁ。折角ならもう少し若い時分の姿が良いよね。

 あと嫁と知り合ったのがその年だったってのもある。

 根拠はないが俺のモテ期に期待をした訳だ。


「判った。では新世界をよろしく頼むよ。判らないことは『叡智』を使って調べてね。丁度良い具合に出来もしない召喚儀式を行ってる所があるからそこに送ってあげる」


「召喚儀式?」


 やっぱそんなのがあるんだ。


「うーん、あんないい加減な魔法儀式で出来る訳無いのによっぽど切羽詰ってるんだろうね」


 神様はちょっと呆れ気味に云った。


「それじゃ行ってらっしゃい」


 次の瞬間オレの視界は光で埋め尽くされ、その後真っ暗になった。

いつもお読みいただきありがとうございます。

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