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15 蒼赤の守り

 未だにぐったりとして目を開けないアカリを部屋に運び込み、ベッドに寝かせたレスはすぐに、ミハエルの執務室に向かう。アカリは今、リーナが看病してくれている。最初にリーナがアカリを見た時は、サッと顔を青ざめさせていた。今にも泣きそうな表情ではあったが、レスがただ気絶しているだけだというと少し落ち着きを取り戻していた。


 レスとアカリを転移魔法で送ってくれたドミニクはというと、二人を教会まで転移させるとすぐに「では、これで」と言って去って行ってしまった。早すぎてレスが声を掛ける間もなかった。


 教会から風を纏って駆けたレスは、数分で王城のミハエルの執務室前に到着した。ノックもせずにレスはその扉を開ける。


「おい、ミハエル話が!……あ?」


「せめてノックをしろ。帰ってきたと言うことは、調査は終わったのか」


 ミハエルは二人の人物と会話の途中だったようだ。レスはその二人の顔を見て表情を険しくした。


「よー! 相変わらず忙しねー奴だなおい。そんなに元気が有り余ってるなら俺の隊にいい加減来いよ。お前が来れば兵達が喜ぶ!」


「何を言うか。彼には私の隊に是非来てもらいたい。レスの魔法を使いながらの剣捌きには、目を見張るものがある。それに、彼が指導した兵はとても質がよくなる。あなたの所は技量よりも力重視でしょう? ここはなんとしても私の隊に加わっていただきたい」


「なんでお前らがいるんだよ!」


 部屋にいたその二人は、この国の王室警護を担う将軍達だった。


 声も背も大きい男はクレイグ・エルノート。赤を基調とした鎧を身に着けており、他の兵士達が使っている細身の剣十本を横並びにしてようやく、という程の刃を持つ大剣を背に担いでいる。快活で豪快な彼のことを、兵達の間では太陽よりも暑い(暑苦しい)男と囁かれているとかいないとか。


 一方の蒼い鎧を身に纏う女の方は、アイリス・クロネリー。彼女は名だたる武人を輩出してきたクロネリー家の出身だ。彼女の肢体はスラリとしており、筋肉とは無縁のように見えるが、剣の腕も力も並の兵士ではまるで刃が立たない。


 彼女の持ち味は人並み外れた俊敏さで、クレイグの持つ大剣とは異なり、レイピアを使っている。金糸のような美しい髪と白く陶器のような肌を持つ彼女は以前、彼女に遭遇した侍女の一人が、アイリスに微笑まれただけで卒倒したという話もある。キリッとしたその目に間近で見つめられれば、ほとんどの者が心を射貫かれる事だろう。


 二人は身に纏うその鎧の色から蒼赤(そうせき)の守りと言われている、この国で一番の武人達だ。


「俺は今の北門守備兵長でいいんだよ! それより、ミハエルに重要な報告があって来たんだ」


 レスの言葉を聞き、三人はさっと表情を引き締める。


「俺たちは退出した方がいいか?」


「いや、ここで話を聞いてもらって構いません。レス、報告を」


 ミハエルはレスを促す。レスはサッと姿勢を正した。


「森にて魔物の活性化の原因となる巨大な魔物を討伐は完了した。ただ、その際に勇者が膨大な魔力を放出。その状態で魔物を射た結果、魔物は光の粒子となって消失したのを確認した。その後勇者は気を失って俺が部屋に連れて行ったが、まだ目は覚ましてない。以上」


「膨大な魔力? 彼女はそんな魔力を持っていなかった筈…いや、もしや女神から授かったネックレスか?」


「恐らく。あの石が急に光り出して、あいつの身体を包み込み、その膨大な魔力を纏わせた矢であの魔物を倒した。あまりにも魔力が一気に溢れるもんだから、飛ばされないようにみんな必死だったよ」


 暴風が吹き荒れるほどの魔力はミハエルでも、ましてやドミニクでもそこまでの魔力を持っていない。誰が見ても一般人と変わらない魔力量だったアカリが、溢れてもまだ有り余る魔力を纏ったということは女神の力があってこそだろう。


「今回召喚された勇者殿はなかなか複雑だな」


「勇者殿は女性で、武術の経験は無いとか」


 二人は勇者召喚には立ち会っておらず、アカリのことを見たことがない。二人はアカリがどのような人物か興味があるようだった。


「村の魔物を討伐する兵士には、勇者の事を広めないように言っているのですが、噂好きの者がいるようですね。後で手を打ちましょう……。

彼女は今までの勇者達と違って、女神の加護を授かっていない可能性が高いのです。また、剣すらも持ったことがないと本人も言っていました。今はレスに何か武器で扱えそうなものがないかと見て貰い、弓を扱っています。まあ、まだ命中率は低いですが」


 今までレスとアカリが村に向かった際に、同行する兵士達にはアカリの事を周囲に他言しないようにと伝えてあった。だが、それでもお喋りがいたようだ。


「女神の加護は今回の魔物討伐の際に用いられた、莫大な魔力なのでは?」


「いえ、それは違うと思います。今までの勇者達は女神の加護を受けると、ステータスの一部として見ることができたと全ての記述に残っています。ですが、勇者であるアカリ様はステータスには女神の加護というものはありません。

ただし、彼女は夢の中で女神と出会い、ネックレスを授かっています。それが今回の件に関係しているのではないかと思っているんです」


「なるほどな。その加護が受けられていない可能性があるというのは、あの(・・)一件が関係あるとお考えで?」


「……そこは分かりません。とりあえず、今はアカリ様が目覚めるのを待ちましょう。では、レスも揃ったので少し話を少々変えます」


「はあ? 俺の報告は終わったんだから用はないだろ」


 レスは一気にゲンナリした表情になる。面倒な作戦や話し合いはレスが嫌うものなのだ。ミハエルはやれやれと呆れた顔になる。


「あのな、お前はもう少し自分の実力を評価してくれ。お前はここにいる将軍達に匹敵する魔力と剣技を持っているんだ。今は魔物の動きも活発になっている。協力してくれ」


「…………わーった。何の話だよ」


 渋々だが、レスは話を聞く気になったようだった。ドアの前から机の前まで移動する。


「では、改めて魔物の活性化と対応についての話です。今回はレスにノズールの森に調査に行って貰い、魔物の討伐ができました。ですが、すでに西だけでなく北や南にも魔物が出現しています。今は西のように大きな被害は出ていませんが、魔物の力が強くなってきている。

 今、魔物の討伐に向かって貰っている兵士だけでは力が足りなくなる可能性がある。そこで、王室警護の兵から数十名を魔物の討伐任務に当てて貰いたいのです」


「それは構わない。実戦での経験を身に着けさせるいい機会だ」


「私の方も同じ意見です」


「ありがとうございます。そして、これとは別にレスに頼みがある。西のアルフォード領に行ってきてくれ。アカリ様も一緒に」


「アルフォード領? 何でまた。まさか……」


 レスはドミニクの事がすぐ頭をよぎった。やはりドミニクが魔物と関係しているのかと思ってしまう。


「いや、レスが思っているようなことじゃない。ただ、今は西の方の魔物の動きが活発だ。だが、なぜかアルフォード領だけが被害に遭っていない」


 スッとレスの目が鋭くなる。


「つまり、アルフォード領に何かある可能性があるって事か」


「可能性だけどな。私の方でも今、様々な面から調査をしているが、現地に行って町の様子や噂を集めて欲しい」


「分かった。引き受けよう。だが、なんであいつを連れて行く必要がある。俺と数人の部下で十分だろ」


「もし、このアルフォード領が魔物の活性化と関わっていた場合、巨大な力を持つ魔物がいる可能性がある。なら、今回大きな力を使うことができたアカリ様の経験の場となる」


「……分かった」


「あ、あと。今回の件の報告書ができあがってから出発するように」


「げ」


 ニコリと笑うミハエルの言葉に、レスは苦虫を十匹は噛み潰したような顔をしたのだった。




次は3月21日21時です。

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