1話 VRゲーム、始めます!
モチベーションを無理やり上げる為に書いてから1ヶ月程度後に投稿することにしました。
フルダイブタイプVRゲーム。今でこそ有り触れた言葉となったこの言葉は遡ること1世紀前には空想上の産物と言われていたものだ。
今から60年前、とある天才がフルダイブタイプVRゲームに必要不可欠であった人間の脳に外部から信号を送ることによって電子世界上に人間を誕生させるという今聞いても訳の分からない研究を成功させた。
この研究はそこから50年の間に多くの失敗による悪夢を生み出しながらも着々と進められ、漸く現在流行しているフルダイブタイプのVRゲームを生み出した。
現実とほぼ変わらない感覚を得るまでに進化したVR技術、その中でも近年稀に見る高評価を得ているのが[マッドネス・チャプター・オンライン]。通称MCO、マコー、あるいは抹茶。
近年の現実とほぼ変わらない感覚に加えて単なるフレーバー程度であったNPC達ひとりひとりに高度なAIを用いることでほぼ100%現実の異世界を創り出した。
それはβ版終了を皮切りに情報発信が許されたβプレイヤー達の、超絶的な興奮とともに晒された数々の情報は人々の関心を一気にMCOに向けることとなる。
その結果製品版として発売したMCOには1万もあるはずの枠にその3倍の人間が国内外から奪い合う状況に陥っていた。
更にそれに合わせて多くの新型VR筐体も同時に国外に売れ出し、まさにプチVR景気とでも言える状態。
更に多くのユーザーからの要望も相まって発売から僅か半年でサーバー増設と第2、3陣の参入も行われた。噂ではサーバー増設の為に融資が行われただとか、MCO運営とは無関係な人間がクラウドファウンディングによって費用を確保して運営に渡したとか色々と情報が飛び交っている。
そして先月、待望の第4陣の参入も決定し、この私雛居有理香もその中の1人としてMCOをプレイすることとなった。バンザーイ!
だがしかし、完璧すぎるほどに完璧なVRMMOと言われているMCOにもたった1つだけ不人気な点もある。
それは……
ポーションがクソ不味い‼︎‼︎‼︎
そう、VRMMOのみならずHPの存在するゲームには必ずと言っていいレベルで実装されている回復アイテムの代表格、ポーション。
そのポーションが悲しいほどに不味いのである。その不味さは現在のMCOの回復職達の異様なまでのパーティ就職率と、ポーションを作ることのできる調合師の公式スレの異様なまでの過疎さが証明してくれている。
聞くところによるとその味は一度口にすればHPの回復と引き換えに口の中一杯に、薬草の独特のエグ味が水で薄められる事によって生み出された冒涜的なものが広がる。
その味を何とかして消そうと調合師達によって数多くの努力が行われたが結果は御察しの通り、全くの無駄だった。
代表的なものは塗り薬と粉薬で。塗り薬は塗れる様に半固形状にした所為で薬草の匂いが強まった上、塗るとヒリヒリする。粉薬は口が渇く、使った後しばらくは食べるもの全てがポーションの味しかしなくなるという事でお蔵入りとされた。
最終的に努力してもどうにもならなかった為、調合師は唯一不味くても需要のあるMPポーション作りに従事している。
救いがあるとすればMPポーションだけは何とか飲めるレベルのお陰で魔法職や過労死寸前のヒーラー達の味覚への負担が小指ほどでも軽減されている事だろうか。
ここまでを見て分かる通り、調合師は絶対になりなくない。なりたくないのだ。……なりたくなかったのだ。
この流れで分かってくれるだろう。私はなってしまった、あれだけなりたくないと言った調合師に。
ことの発端は今から遡る事少し、私のキャラクターメイクの時点になる。
〜数十分前〜
やっとMCOができる。友人のほーちゃんはβ勢なので毎日毎日私がプレイできないゲームの話を楽しそうに聞かされて私はうんざりしていたが、今日から私もMCOでたっぷり冒険できる。
なぜなら今は春休み、うちの大学は2月半ばの学年末テストを最後としてそこから先は4月までオールフリーだ。なので課題も気にすることなく遊べる。
逸る気持ちを抑えて、MCOを起動しよう。私はVR筐体であるヘッドギアを頭に被り、ベットに横なる。たっぷりと楽しみたいのでトイレも済ませてある。
MCOを始めると初回のみオープニングムービーを見ることができる。このオープニングムービーはMCOの公式サイトでも配信しているが、その場の臨場感とともに360°周囲を見渡せるのはこのゲームオープニング版だけだ。
戦士職であろうプレイヤーがドラゴンに飛びかかったあたりでオープニングムービーが終わるが。非常に見応えのある映像だった。公式サイトでも見たがゲームオープニング版はその場の熱気や、ドラゴンの出す威圧感など。それらが忠実に表現されている為、満足感はこちらの方が圧倒的に上だ。
オープニングムービーが終わったところで視界は一度暗転し、白い部屋が目の前に広がる。
[ようこそマッド・チャンク・オンラインへ。先ずはキャラクターメイクから始めます]
容姿に関してはほぼほぼ現実重視でいいだろう。変えるとすれば目の色や髪の色ぐらいだ。
私のアバターは蒼目蒼髪にしてバストサイズもちょびっとだけ上げておく。
次にジョブ選びだ。MCOではメインジョブが1つにサブジョブが2つ設定できる様になっている。しかも実はこのゲーム、VRMMORPGでは珍しいことにステ振りがない。というかステータスとして見れるのはHPとMP、後は特定のアーツ使用時にMP的扱いをするSPだけだ。それ以外の6種類のステータスはない。スキルに関しても必要そうな物一式は生活魔法や初期魔法といった魔法に置き換えられている。
そのHP、MP、SPもジョブによって設定されているのでステ振りが苦手な私でも安心して進められるような設計だ。
私はメインジョブに『召喚師』、サブジョブの1枠に『料理人』は決まっているが残るサブジョブ1つが決まらない。私は早い所始めたいのでこれ以上時間をかけたくない。
運営はそういう時に有難いものを作ってくれていた。それがランダムチョイスだ。これはサブジョブの1枠限定でシステム側がオススメのジョブを選んでくれるという素敵システム。代償としてその選ばれたサブジョブは固定となるので引き直しはできない。だが、特に選ぶ事のない人達にはその代償も無いに等しいので私としては嬉しい仕様である。
サブジョブの選択欄からランダムチョイスを選択し、諸々の確認を手早く済ませる。それでは、ランダムチョイスルーレット〜ォ、スタートォ!
最後のサブジョブの欄が目まぐるしく変わっていき、次第にその変わる速さは収束していく。私は更なるワクワク性を求めて目を瞑っているので何が選ばれたかは結果が出るまで見ない。最後に選ばれた事を知らせるティンッという音が鳴って、私は目を開いた。そしてその結果は……
『調合師』|・ω・`)ノ ヤァ
あ、ごめん。素敵システムとか言ったけどクソシステムだったわ。
〜現在〜
以上が一連の出来事である。…うん。もう少し考えるべきだった。後悔しても意味はないと思って入る。だけどそれが意味をなさないレベルで調合師はデメリットなのだ。
先ず第3の街であるサーディスに入るためにはメインジョブのレベルが20以上、サブジョブが共に15以上でそれぞれのギルドから発行される通行許可証がないと街に入ることすらできない。
「ゆ、ゆりちゃん?」
こうやってorzして項垂れている私の耳に、戸惑いの声が聞こえる。私が聞き覚えのある声だったので、顔を上げると純白の鎧に身を包んだ女性プレイヤー、β勢の友達。ほーちゃんであろうプレイヤーが立っていた。
「ほーちゃん、何?」
人違いだったら困るので、ほーちゃんと呼んでみると反応したので彼女はほーちゃんで合っているようだ。
パッと見たほーちゃんのアバターもリアル準拠っぽい。
「こんなところで項垂れてどうしてなのかなーって」
「私は今、我が身の不幸を呪ってる最中だよ」
「な、何があったの?」
「ん」
ほーちゃんには見てもらった方が我が身の不幸をより分かってくれるだろう。ステータスを鑑定してもらう為にフレンド申請を送る。
MCOではステータス鑑定の魔法はあるがプレイヤーに対して使う場合には予め受ける側のプレイヤーから許可をもらう、又はフレンドである事が必要となる。
なので私からほーちゃんにフレンド申請を送った。ほーちゃんはその申請を許可して私とフレンドになり、ステータス鑑定の魔法で私のステータスを見たようだ。
「……ワァオ。ゆりちゃん、これって……」
「最後の1枠思いつかない
そうだランダムチョイスを使おう
結果クソ」
真面目にこれからどうしようかな……
私はほーちゃんを余所目に空を見上げて現実から目をそらすことにした。
あぁ……空が青いなぁ……