天才ジャンパー大木②
「はい、小島です。暑い中ありがとうございます。大木さんですね」
いつもの落ち着いた話ぶりで小島が返す。大木は少し緊張した顔で頷いた。
「早速ですが、ご対象の人物はどなたでしょうか?」
小島はいつものように話した。
「望月修。今の日本のエースです。俺とは幼馴染で同じチームに所属してました。3年前俺はアイツと同じ試合に出てたんですが、アイツから手渡させた飲み物を飲んでドーピング検査に引っかかったんです。俺は絶対にそんなものに手は出さない。間違いなくアイツが薬を入れたんです。あの事件以来一度だけ会って話しました。お前が入れたんだろって問いただすと、俺じゃない、お前にはがっかりだって。それだけですよ。でもどう考えてもアイツなんです。ジャンプは極力1グラムでも軽くしなくてはいけない。その日口にしたのはそれだけだし、それまでは検査で出なかったんですよ。だからアイツなんです。望月を殺してください」
そういうと、小島は表情を変えず、いつもの重要事項を告げ、面談を終えた。
大木が追放されてから、日本ジャンプ競技界は低迷している。たしかに望月は日本のエースではあるが、世界大会に出られるというレベルで大木ほどの輝きとはほど遠い。それほどまでに大木の存在は大きかったのだ。
この依頼受けるべきか、小島の判断はどうだろうか。
18時30分。御苑はまだ暑い。向かいのカフェで涼んでから事務所に帰ることにしよう。