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四 終末への足音

 神々はロキを捕縛し永遠の罰を与えた。

 大岩の洞窟。その名の通り洞窟内部にある巨大な岩にロキの身体を縛り付け、絶えず毒液を滴らせる大蛇をロキの頭上に巻き付けたのだ。

 普段はロキの妻、シギュンが器に毒液を受けてロキに当たらないようにしているのだが、器が毒液で一杯になりそれを捨てに行く時だけは、ロキに直接毒液が降りかかる。

 その痛みは筆舌に尽くし難く、身悶えるロキによって大地は大きく揺れ、人間の世界においてその揺れは地震と称されるのだった。


 だが、ロキに裁きを与えたとて根本的な解決には全く繋がらない。

 光の神バルドルを失った世界からは光と優しさ希望が消え、代わりに闇と悪意と絶望が凄まじい勢いで世界を蝕んでいった。

 風の冬、剣の冬、狼の冬と呼ばれる終わりのない冬が三度続き、その間夏は一切訪れず、あらゆる方向から氷雪が吹き荒れる。

 この間には数え切れない程の戦乱が巻き起こり、親兄弟ですら殺し合う血で血を洗う争いがひたすらに続く。

 人間の間では倫理や道徳が崩壊し、暴力だけが支配する時代がずっと続き、生物は死に絶える。


 そんな中でもオーディンは戦死した人間の魂を神々の館ヴァルハラに招き入れ、神の軍の戦士(エインヘリアル)として鍛え上げるのだ。

 無論、遠くない未来に確実にやってくる終末の戦争に備えて。


 



 やがてずっと逃げ回っていた月と太陽が、ずっと追い掛け回していた狼に飲み込まれてしまう。

 すると天からは星々が落下するという天変地異か起こり、大地震によって山々は崩れ去り、あらゆる樹木が根こそぎにされ、地上の建物が倒壊する。


 そして時が来る……。


 

 神々のもとで足枷の(いまし)め受けている灰色の巨狼がいた。

 その名をフェンリルといい、あのロキと女巨人アングルボザとの間に生まれた子である。


 フェンリルがまだ小さな狼だった頃、神々は予言によりフェンリルが将来とんでもない災いをもたらすことを知った。

 すると神々は幼いフェンリルを手元に置いて育てることにしたのだが、日に日に大きくなっていく姿を目の当たりにし、強力な足枷をつけて縛ってしまおうと考える。

 フェンリルは二度に渡り頑丈な足枷を砕いたが、三度目に用意された足枷は特別な物だった。

 見た目は絹のようでしなやかなのだが、その足枷で束縛したが最後、二度と外れぬという魔法の足枷、グレイプニルだったのだ。


 さすがにフェンリルもその足枷を付けようとする神々に疑念を抱いたが、嘘偽りのない保証として調停の神であり軍神チュールが、大きく開いたフェンリルの口に右腕を差し入れた。

 信用したフェンリルだったが、グレイプニルは身体に食い込むとフェンリルの力をもってしても外すことができないほど頑丈な(いまし)めとなった。

 騙されたと知ったフェンリルは大暴れするが、神々はその姿をみて大笑いし、フェンリルは最後の足掻きにチュールの右腕を食いちぎるのだが最早手遅れである。

 その後フェンリルは岩に縛り付けられると地中深くに埋められ、唯一自由に動く口の中には剣を突っ込まれ、開けっ放しを余儀なくされるという屈辱を味わう。

 

 そして神々への憎悪を日々募らせ、世界が混迷を極めた時、遂に魔法の足枷(グレイプニル)(いまし)めを破り復讐に燃える巨狼は解き放たれたのだ!


 上顎は天に、下顎は大地に接するほどに大きく広げられたフェンリルの口からは凄まじい咆哮が全世界に響きわたった。

 その叫び声に真っ先に呼応したのが、人間が住む世界ミズカルズを取り巻く大蛇で、その大きさはミズカルズを一周しても尚自らの尾を咥える事ができるほど。

 大蛇の名をヨルムンガンドといい、この怪物もまたロキとアングルボザの子供にして巨狼フェンリルの弟である。


 海底深くで眠っていたヨルムンガンドが動き出すことによって、海の水は大洪水となって陸地に襲い掛かり瞬く間に一帯を海洋へと変貌させた。

 すると今度はニヴルヘイムの女王ヘルが集めた死者の爪から作られた船が、巨人族と死者の軍勢を満載して巨人の世界(ヨーツンヘイム)から出向し、ヨルムンガンドによって高潮が荒れ狂う海の上に浮かぶ。


 灼熱の大地(ムスペルヘイム)からはムスペルの子らと呼ばれる炎の巨人たちが馬に跨り出陣し、創世記から存在しながら沈黙を貫いてきた灼熱の大地(ムスペルヘイム)の王スルトが、太陽よりも明るい剣を煌めかせ先頭を進む。


 そして、永遠の罰を与えられたはずのロキの縛めも解かれ軍勢を従えると、全ての者たちが集う決戦の地ヴィーグリーズ平野を目指すのだった。






 一方神々の見張り番である神ヘイムダルは、そのよく利く目と耳によりこの事態を感知するや、世界樹(ユグドラシル)の根元に隠してあった角笛(ギャラホルン)を吹き鳴らして神々に招集をかけた。


「ついに来たか……」


 ヘイムダルの鳴らす角笛(ギャラホルン)の音を聞き全てを察したオーディンは静かに呟く。

 鎧に身を包み手には一撃必殺の秘槍グングニルを掲げ、八本足の愛馬スレイプニルに跨り、出陣の準備を粛々と行う。

 他の神々も同様で、自らの武器を握り戦闘準備を整えると、それぞれが神々の館(ヴァルハラ)の五四〇ある扉の前に立ち出陣の刻を待つ。

 戦いの女神(ヴァルキューレ)神の軍の戦士(エインヘリアル)も扉の前で待機する。


 やがて、遥か彼方から漆黒の森を彷彿とさせるロキと巨人族の大軍勢が迫り来るのを視認したオーディン。


「出陣だ」


 神々の軍勢もまた、決戦の大地ヴィーグリーズ平野へ向かった。

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