第9話善と悪
カブトムシは二人の意思を尊重して、飼うこととなった。俺としても、この動物がどういう経由でこの世界にやって来たのか、気になるので飼うことに賛成だった。
ただ、問題はいくつもあった。
一つは餌の問題。住む世界が違ければ、当然与えられる餌も変わってくる。日本みたいに昆虫ゼリーなどあるわけがないので、別の物を用意しなければならない。
二つ目が一番問題だった。
「こ、こちらに持ってこないでください! いくらユズでも私怒りますよ?」
「落ち着いてください、ユフィ様。私は今何も持っていませんから」
ユフィが極度に虫が嫌いだという事。カゴと言う名の箱の中に入れておけば、触れる事はないので大丈夫だと思ったのだが、見るだけでも無理らしい。
「それなのによく森の中歩けたよな」
「ま、まだあそこには虫は、す、少なかったですから」
まあ多分だけど、昨日はそんな事も忘れてしまうくらい緊張していたから、気にならなかっただけなのかもしれない。
ともかく、ユフィが苦手な以上飼育にも気をつけなければならない。
「わ、私には近づけないでくださいね、絶対に!」
ユフィにはそう釘を刺されながらも、カブトムシは主にキャトラとユズの二人が面倒をみる事に決まった。
そしてそれとほぼ同じ頃に、最初にポロが目を覚ました。
「あれ、ボク……」
「よかった、目を覚ましたんだな」
「ツバサ……。あの後、ボク達はどうなったの?」
「あの怪物は一時的に撃退したよ。ほら、チビィもこの通り無事だし」
「撃退って、あの状況からどうやって?」
「詳しい話はまたするよ。とりあえず無事なら良かった」
「う、うん」
その後しばらくして無事チビィも目を覚まして、一連の海での事件は一旦終着した。
二人が目を覚ました後は、道具作りとユフィ達が構想してくれた設計図を元に、どの辺りに何を作るかなどを考えて、枠組みを作るグループに分かれて作業を再開。
「ツバサ、頼まれたもの作ったけど、こんな感じでいいのか?」
「ノコギリはああいう木を切るものだから、もう少し刃を鋭くしてくれないか?」
「分かった」
「ツバサさん、この資材はどちらに」
「そこに置いて置いてくれ。あとユフィは、ユズとともに少し頼まれごとをしてくれないか?」
「頼まれごと?」
「今から言う資材を、危険じゃない範囲で集めてきてもらいたいんだけど」
俺達は出会って二日、もしくは半日しか経っていないとは思えないくらいに、連携のとれたチームワークで、作業を着々と進めていく。
力仕事は男の俺が主に請け負って、皆がそれぞれの形でそれを支える。出会った当初は不安が多かったものの、ここに来て少しだけ協調性が生まれ始めていた。
「ツバサよ、一つ聞きたいのだが」
「ん?どうした?」
「貴様は何故この場所に、拠点とやらを立てる」
「何故も何も、生活するために必要だからだろう」
「そもそもおかしいのが、何故貴様達は出会って間もないというのに、お互いを疑う事もせずに和気藹々とできる」
けどその枠をはみ出していたのが、チビィだった。作業を一応は手伝いながらも、彼女はそんな言葉を俺達に投げかけてきた。
「疑うって、別に私達は何かをしたわけじゃないじゃないですか」
「それは表面的な話じゃろ。我が魔王であるように、皆が皆善の心を持っているわけではない。きさまだってそうじゃないのか? ユフィ」
「っ!」
ユフィの反論にも平然とそう反論してみせるチビィ。それに対して反応を示したのが、彼女の付き人のユズだった。
「あなたがどこの魔王だからなんだか知りませんが、ユフィを貶す事は私が断じて許しませんよ」
「許さないならどうする。この場で我を殺すか?」
「おい、いい加減にしろ二人とも! こんな所で喧嘩なんかしてどうするんだよ。チビィもいきなりどうしたんだよ」
「いきなりも何も、我は元からこういう性格だ。非道という言葉が似合うくらいにのう」
「お前……」
「ツバサ、チビィの言う通り彼女はそういう性格だよ。だから彼女は魔王なんだよ」
ポロがそう言葉を添える。恐らく同じ世界の人間だからこそ、チビィがどういう人間なのかを分かっているのだろう。
そしてチビィが言っていた通り、彼女は悪だ。こうして俺達と一緒にいる事自体が、本人としては気に食わないのだろう。
「気に食わないのなら別に出ていけばいい。俺は止めないぞ」
「元より我はそのつもりじゃ。余計な事が起きなければ、さっさと我は出ていくつもりだった。それを邪魔したのは貴様だツバサ」
「邪魔も何も、俺は正しい事をしただけだ。それに反するというなら、別に俺はお前を止めない」
「なら、その通りにさせてもらおう。ただし、一つだけ忘れるでない、我は魔王であり善の心など決してないという事を」
そうチビィは言い残すと、森の中へと勝手に消えていってしまった。
「あの魔王、絶対に許しません。ユフィ様を貶すなど、決して許されません!」
「落ち着けユズ、アイツは正真正銘の魔王なんだから、簡単に勝てるような奴じゃない」
「それは……分かっていますがっ!」
残された俺達は、先程の和気藹々とした空気から一変して、重苦しい空気が流れ続けたまま作業を続くるのであった。