第34話最強スライムとの決着
ーあの日もこんな風に晴れた日だった。
「あと一人! あと一人!」
声援が俺の背中から聞こえる。皆が俺一人にだけ向けられる期待の眼差し。
(これで全てが終わる。皆の希望を繋げられる)
球を握る手にも力が入る。期待を背負ったエースは、希望を繋げる最後の一球を投げてー
「頑張れ!」
「ツバサさんならやれます! 私達は信じていますよ!」
フラッシュバックしていた意識が、葵ユフィ達の声によって戻される。
「葵、ユフィ、皆......」
あの時とは違う、期待とか希望とかじゃなくて俺を信じて待ってくれている言葉が耳に届く。
「しっかりせぬか! ツバサ!」
そしてチビィも、直前でひよった俺に叱咤してくる。
「今この場で決めるのはお主しかできぬだろうツバサ! ここぞという場面で決めるのが男ではないのか?」
「ここぞという場面で決めるのが男、か。好き勝手に言ってくれるな魔王様は」
俺は今一度照準をスライムに向ける。真っ直ぐに、目を逸らさずに。
「今度こそ終わりだ、最強スライム!」
そして俺はその言葉とともに砲弾のレバーを引いた。
2
全てが終わり、俺は大の字になって空を見上げた。
(あの時も青空だったのに、こんなにも綺麗に見えるんだな)
トラウマを払拭できた訳ではない。でも俺は、間違いなくあの日の自分を越えることができた。
(あの時も一人じゃなかったのに、仲間がこんなにも心強く感じたのは初めてだったな)
「大義名分だったのう、ツバサ」
そうしていることしばらく、視界の隅からチビィが現れる。
「さっきはありがとうな、チビィ。お前のおかげで何とかなったよ」
「別に我は何もしておらぬ。ただ、あの場面で腰抜けになったお主を見ていられなかったんじゃ」
「腰抜け、か。本当言いたい放題言ってくれるよな」
「本当のことを言ったまでじゃ。だが、まあ」
チビィは俺に背を向けると小声で「少しだけ格好良かったぞ」とだけ言うと、それ以降は黙る。
「翼!」
「ツバサさん!」
それとほぼ同時に今度は下の方からユフィ達の声が聞こえてくる。どうやら決着を見届けるなりダッシュでこっちに来てくれたらしい。
「ツバサさん、お怪我はありませんでしたか?」
「怪我するようなことはしてないから、心配ないよユフィ。他の皆も応援してくれて助かった、ありがとう」
俺は身体を起こし全員を見る。最初は二人しかいなかった無人島生活もいつの間にか仲間が増えたものだ。
(その仲間に俺は救われたんだよな)
これからもそんな場面が増えていくことだろう。あのスライムよりももっと強い敵だって居る可能性もある。
ーでもそれも乗り越えられるようなそんな気がする
ここで出来た仲間は、間違いなく今の俺の力になるし、この先もなってくれるだろうから。
(そしたらいつかきっとこの痛みも)
俺は自分の右肩を少し触りながら、口をぎゅっと結ぶ。そして全員に告げた。
「決着もついたし、帰ろう俺達の拠点へ」
3
その夜、拠点では祝勝会という名の宴が行われた。
「今日は皆お疲れ様。トラブルとかもあったけど、無事作戦は成功、スライムも撃破できた。だから今夜は勝利を祝って」
「「かんぱーい!」」
乾杯といっても別にお酒はないし、豪華な食事とかも置かれてはいない。でも皆が皆、手にした大きな勝利を喜び分かち合った。
その中にはこういうのを好まないチビィの姿もあって、少しだけ微笑ましかった。
(皆で勝ち取った勝利、だもんな)
俺はそれを少し離れたところで見届ける。普段は自分もあの中にいるのだが、今日は少しだけ一人になりたい気分だった。
「珍しいわね翼が一人でいるなんて」
それに気づいたのか葵が、島で拾ったフルーツを搾って作った特製ジュースを片手に声をかけてきた。
「たまにはこういう時があってもいいだろ?」
「格好付けちゃってさ。でも、まあ気持ちは分かるんだけど」
この中で唯一俺の事情を知っているのは葵だけだ。あの場面でどうして俺がああなったのかも、彼女だけは知っている。
「この前さユフィに和樹の件を少しだけ話したんだよ。その影響もあったんだろうな、嫌なことばかり思い出す」
「あれだってたった一年以上前の話しでしょ? 忘れたくても忘れられるわけないじゃない」
「それもそうだよな」
「でも今日の翼は、一年前より成長しているように見えたよ。やっぱり少し変わった?」
「変わった、のかな」
宴を眺めながら俺はしばらく黙る。
自由になりたいと思って得たこの無人島での生活。
まだまだ苦しいことの方が多いし、とても自由を得たようには思えないけれど、自分を変えることになるきっかけには少なくともなっているのかもしれない。
「あの時も皆が俺に期待をしていた」
「うん」
「でも、その期待が逆にプレッシャーだった。息が詰まりそうで、今すぐにあの場所から逃げ出したくもなった」
「うん」
「さっきも同じだったはずだったんだ。皆が俺に思いを託して、俺はそれに応えるしかない、それだけだと思っていた」
ーけど、違かった。
「何故かは分からない。プレッシャーだと思った声は、応援は、俺に力を与えてくれた。絶対に成功できるって力を」
「それがあの時との違いなの?」
「そうかもな。だから俺は、乗り越えられたんだと思う」
何より耳に届いた彼女の声は、俺にとっては大きな力になった。
(そうか、そういうことか......)
俺にとって一番力になる存在って、
「そろそろ皆の場所に戻るか」
「そうね」
無人島生活も間もなく半月。
メンバーも増え、一層騒がしくなったこの生活は、この後大きな転換期を迎える事になる。




