第29話勇者と魔王
ボクは小さい頃からその才能を自他共に認められていた。そしてボクが物心がついた時には魔王という存在がいて、世界はいつしか闇を滅ぼす光を求めていた。
「ボクが勇者に?」
そしてその話がボクに舞い込んで来たのは、十五歳を迎えた日。突然国王がボクを呼び出してこう言ったのだ。
「ポロよ、お主には勇者になってもらい、この世の絶対悪である魔王を倒してきてもらいたい」
そしてボクはこう答えた。
「ボク女の子ですけど、大丈夫なんでしょうか?」
「え?」
「え?」
こっちがえ? なんだけど、どういうわけか王様はボクが女の子だということを知らなかったらしい。
(そんな馬鹿な話あるの?)
「すまない、どうやらワシは勘違いをしていたようじゃ。腕がかなり立つと聞いていたのでな、てっきり男かと。一人称はボクだし」
「言いたいことは分かりますが、その勇者とは男女関係ないと思います。騎士団長だって確か女性でしたよね」
「あ、ああ、そうじゃな。ワシはお主の力量と素質を見て評価をしたのだから、男女など関係ない」
「では本当にボクが世界のために勇者になるんですか?」
「そうじゃ。勇者ポロ、お主には魔王チビィをその手で葬っていただきたい」
「魔王チビィ……?」
少しだけ気が抜ける名前だなと思いつつも、ボクは国王からの頼みを受け入れることにした。
(魔王、か。きっと強いんだろうなぁ)
ボクは少しの期待と不安を胸に魔王討伐の旅に出たのだった。
「くっくっくっ、待っておったぞ勇者」
「……」
スタスタ
「ま、待つんじゃ。我の声が聞こえぬのか!」
「……」
スタスタ
「無視だけはやめい!」
ぐぃい
「痛ぁ!」
王都を出たところで面倒くさそうなのと絡まれたなって思ってスルーしていたら、ズボンを引っ張られ倒されてしまう。
「な、何? 見ず知らずの人に構っている暇はボクにはないんだけど」
「もしかして魔王探しか? ならちょうど良かったのう」
「何が?」
「何を隠そうこの我が、その魔王チビィじゃ」
私を見下ろしながら、ドヤ顔を決める自称魔王。
「……」
ドスッ
「うげぇ」
面倒臭いのが現れたなって思ったので、鳩尾に一髪を入れて立ち上がる。
「ボク、そういうドッキリに引っかからないタイプなんだ。これから忙しくなるから、冗談はやめてくれない?」
「信じておらぬのか?! 我は表面上ではこんな見てくれじゃが、れっきとした魔王じゃ」
「ふーん」
「ふーん、って」
魔王ってそもそもこんな場所で遭遇するわけがないし、もっと威厳があるはずだけど、この魔王からはそんなもの微塵のカケラもなかった。
「信じて欲しいなら証拠を見せてよ。ボクだっていきなり魔王なんて名乗られても信じられないからさ」
「むう、確かにそれは一理あるのう。なら、こんなのはどうじゃ」
そう言って自称魔王が取り出したのは、自分の体型には似合わないくらいの大きさの槍。しかもしっかりと闇魔法の属性も付いていた。
「これを見ても言えるかのう」
「なるほどね」
と言いながらボクも取り出したのは、似たような形を成した槍。
「なっ」
「この魔法って結構上級向けだから、やっぱり魔王なのかな? 詠唱も使ってないし」
ボクはそれを手に取ると、魔王に向けて槍の先端を突き出す。
「分かったよ、一応認める。だからここで倒しちゃってもいいよね?」
「ようやく理解してくれたか。なら容赦はせぬぞ」
「ボクの初陣で、全て終わらせる」
光と闇の槍が衝突する。するとその衝撃だけで吹き飛ばされそうになった、
魔王が。
「う、ぐ、これしき」
「やっぱり体格に合ってないよその槍。ほら!」
その隙をついてボクは槍を弾き飛ばす。
「あっ」
「決着、だね」
この間わずか一分足らず。あっという間に王様の依頼を達成できそうだけど、
「う、う、うわぁぁん」
「ちょっ、ちょっと?!」
何を思ったかチビィはその場で泣き崩れた。
「な、何で泣くの? それでも魔王?」
「我が、我がこんなにも簡単に……ひっぐ」
「……」
(えっと、何この状況)
突然現れた魔王に勝負を挑まれ、一分で決着がつき泣かれる。これだとどっちが悪者なのか分からない。
(ここで見逃すほどボクもお人好しではないんだけど……)
少しだけ可哀想に見えてしまう。少しだけ。
「ほら、手を貸してあげるから立って」
「え?」
「正直このまま倒しちゃってもいいんだけど、今回だけ見逃す」
「な、なんで?」
「なんでかな、ボクにも分からない」
折角始まったばかりの旅が終わってしまうのも寂しいし、
「こんな簡単に復讐を果たしたら何も面白くない」
「復讐、じゃと」
「覚えてないかな。今から五年前、貴女がしたこと」
「五年、前? あっ……」
何かを思い出したのか、チビィは目を見開く。
「勇者の卵を滅ぼすとか何とか言って、沢山の村や街を焼き払ったよね?」
「あ、当たり前じゃろ。それが魔王の役目なんじゃから」
「その街の中に、ボクが住んでいた街もあったんだ。ボクは奇跡的に生き残ったけど家族は……」
「同情はせぬぞ」
「されても困るよ」
チビィはボクの手を取り、立ち上がる。
「この借り、いつか後悔するぞ」
この日ボクはチビィに大きな貸しをした。そしてこれをきっかけに彼女とは今日まで付き合いが続くんだけど、
「いいよ。次は絶対に倒すから」
この時のボクはまだ知るはずもなかった。




