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第23話王女の罪

「待ってくれ! 俺には何が何だかさっぱり分からないんだが」


「ツバサさんは分からなくても大丈夫ですよ。知ったところで意味がないですから」


 話の展開についていけない俺に対して、そう告げるユフィの言葉は少し冷たさを感じる。決して他者には触れてもらいたくない明確な拒絶。でも先程のこの女神の発言からして、ユフィは何かの理由で天罰を下された。


(そして殺したはずとも言っていた。それが本当なら、今ここにいるユフィは......)


「貴女が私をここに呼んだんですか? 私を罪と向き合わせるために」


「いいえ。少なくともこの件に私は関わっていませんよ」


「なら何故ここにいるんですか?! 私を弄んで楽しいですか?」


「その言葉、自分に言っているんでしょうか?」


「っ!」


 自称女神の姉の言葉に唇を強く噛むユフィ。俺はそれをただ見ていることしかできない。何かを言葉にしたくても、適切な言葉が出てこない。


 彼女が何を抱えていて、

 彼女が何に苦しんでいるのか。


 出会って一週間も満たない俺には、彼女にかける言葉がない。


「ユフィ様を貶すのはその辺にしてもらいましょうか。エウレ様」


 その代わりにユズが彼女を庇いに入ってくれた。ユフィと同じく面識はあるのだろう。ただ様をつける辺り、彼女は冷静なのかもしれない。


「久しいですねユズ。まだ彼女の付き人をやっていたんですね」


「エウレ様には関係のない話です。それより先程の質問に答えてください。どうして貴女がここにいるのかを」


「私も偶然この島に呼ばれた、それだけですよ」


「分かるような嘘を......ユフィ様をここに呼んだ声の主は貴女、ですよね。ツバサ様も巻き込んでどういうつもりですか?」


「あくまで私を悪者にしたいんですね。ですが何を言われようとも変わりませんよ」


「っ! いい加減に」


「ストップだユズ。それ以上言ってもたぶん本当に意味がない。そうだろ?」


「どうやら貴方はまともに話ができそうな方のようですね」


 ユズまでもが感情的になりそうだったので、俺は冷静に彼女を落ち着かせる。


「とりあえずこんな薄暗いとこで話しても、ろくな話ができないだろうし一旦拠点に帰ろう」


「つ、連れていくんですか? 彼女を」


 ここで黙っていたユフィが口を開く。彼女としては避けたい人物なんだろうけど、もし同じ遭難者ならここに置いては行けない。


(聞きたいことは俺も山ほどあるしな)


 主に彼女の妹のことだけど。


「真偽を確かめるには少々気味悪い場所ですしね。分かりました、一度拠点に帰りましょう」


「ユズまで......」


「それに一応漂流者らしいので、ここに放置するわけにもいかないでしょう? 私も聞かなければならないことが沢山ありますから」


「そこまで言うなら、仕方ないですね......。ここはツバサさんに免じて、付いてきてもらいますよ、エウレさん」


「私は付いて行くとは一言も言っていないのですが......いいでしょう、付いていきますよ。どうやらこの島には面白い方々がいらっしゃるそうですし」


 三人も不服ながら了承してくれ、四人揃って拠点に帰ることに。


(結局収穫ナシか。書庫は改めて後日来るしかなさそうだな)


 俺やユフィが聞いた声。それがエウレであったら色々変わったのだろうけど、彼女の声を聞く限りでは違う気がした。それに同じだったらまずユフィが反応しているはず。つまりこの神殿にはまだ誰かが潜んでいると思われる。


 ただそれが誰なのかは知るよしもない。


 勿論エウレが何か知らないはずがない。彼女はあの神様の姉(仮)なのだから、何も知らずにここにいるはずがない。何かを知っているならその何かを教えてもらわなければならない。


(色々な世界から様々な因縁を持った人達が呼ばれるこの島、いやこの世界はいったい何を隠しているんだ)


 ■□■□■□

 拠点へ帰ると、また一人仲間が増えたことに様々な反応が返ってくる。


「ツバサは女たらしだな」


「キャトラ、その言葉誰に教えてもらった」


「さあ?」


 視線を泳がせる先にいるのは葵。


 とんでもない事を教えやがって......)


 誰がいつ女たらしになったんだよ


「ふんだ」


 当の本人はそっぽ向いて不貞腐れているが、もうそれには慣れているので無視することにした。


「それにしてもこの拠点も随分賑やかになったよね」


 ポロがそう言葉を洩らす。彼女に言われて俺も気がついたが、最初は二人で始まったこの生活も、一週間足らずで十人に増えていた。人が多ければ作業効率が上がるが、その分必要な食材なども増えてくる。魚釣りや木の実などの採取でまかなってきた食事も、そろそろ限界が近いかもしれない。


「エウレで十人目。そろそろ色々なこと考えないとな」


「我はそろそろ魚というのも飽きたぞ」


「文句があるなら、もう少し手伝ってから言え」


「この魔王に働けと言うのか?!」


「うん」


「即答?!」


 チビィはプライドが高いからかあまり働いていないのは知っているので、率直な意見を言う。俺達が神殿に向かっている間拠点の拡張を頼んでおいたのだが、見る限りだと進んでいない。たぶん一緒にいたポロといつものように喧嘩でもしていたのだろう。


「そろそろいい加減にしないと、飯も食えないからな」


「そ、それだけは堪忍を!」


 そんな緊張感のない会話のが続く中、俺はユフィの姿がないことに気がつく。


(ユフィ?)


 それにはユズも気づいていたらしく、俺に耳打ちしてきた。


「多分遠くには行ってないと思いますが、ユフィ様のこと頼めますか? ツバサ様」


「俺でいいのか?」


「私が行くと気を使わせてしまいます。ツバサ様なら」


「分かった」


 俺はユズの頼みを受け入れ、こっそり拠点を抜け出す。

 そのあと彼女の姿を見つけたのは、一番最初にユフィと出会った海岸だった。そこでユフィは体育座りをしながら海を眺めていた。


「私ウミというものを実際に見たことはなかったんです」


「え?」


「知識を得るのはいつ城の中の本ばかりで、実際に見たり触れたりするのは殆どありませんでした」


「そうだったのか」


 俺は相づちを打ちながら彼女の隣に座る。しかしユフィは向こうを見たまま。


「私は何も知らなさすぎたんです。世間のことも、世界のことも、自分の国のことも。だから私は罪をおかした」


「罪......」


「私一見優しそうに見えますが、とんでもないことをやってしまったんですよ? 神様......エウレに天罰を下されるほどの」


「エウレはユフィのことを“冷血王女”って言ってたな」


「まさにその通りです。私は......」


 しばらく沈黙が流れる。ここから先の話を俺は聞くべきなのだろうか。それともここで止めさせて、何も知らないままを通すのか。


(何か俺にできるのか? 彼女を癒せる何かが)


「私はここに来る前に......自分の国を滅亡させてしまったんです。それが......私の背負っている罪なんです」


「......え?」

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