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第20話最強スライム

「ええええ!」


 その声が島中に響き渡ったのは、作業がひと段落して四人で雑談をしていた頃。


「今の声、ポロか?」


「ポロって、勇者の女の子だよね?」


「ああ。でも今の声、どちらかといえば悲鳴に近くなかったか?」


「そうね。もしかしたら何かあったのかもしれない」


「先日の一件もありますし、何かあったかもしれませんから探しに行きましょう」


「いや、待った」


 ユフィがそう言って立ち上がろうとするが、俺がそれを止めると代わりに立ち上がる。


「ユフィと葵は作業を続けていてくれ。カグラ」


「はいはい。さっきあんな事言っておいて、早速私を使うのね」


 俺は神楽を手に取り、ポロの声がした方角へと歩き出した。


「私達だけで作業って言われましても」


「何をするか教えてもらってないんだけど」



 ポロとチビィの姿があったのは、拠点から歩いてすぐの森の中だった。彼女達はスライムと思われる魔物と対峙していた。


「二人とも今の悲鳴、一体何が……っ!」


 それだけ見れば悲鳴をあげる要素はなかったのだが、


「つ、ツバサ、来ないで! いや、たすけて。あ、でも来ないで!」


「来るなツバサ!我らの裸体を見るでない!」


 問題があったのはポロとチビィの方だった。二人は何故か全裸の状態でスライムと対峙していたのだ。


「何をやっているんだお前ら」


「このスライムに服を溶かされたの!」


「服を? このスライムに?」


 スライムは翼の方に体を向けた


 スライムの粘液攻撃!


『ツバサ、スライムから攻撃が飛んでくる! 避けて!』


「あ、ああ!」


 翼はギリギリのところで回避した!


「その粘液、危険だから当たったら駄目だよ!」


「この粘液が? たかが粘液くらいで」


 そう言いながら俺は振り返る。


「は?」


 俺の背後には確か何本か木が立っていたはず。なのにそれが一瞬で消え去っていた。どうやら二人が素っ裸になっている原因はこれらしい。


『じょ、冗談でしょ? あのスライムよね』


「どうやら冗談、ってわけじゃなさそうだな。ここは!」


 俺はポロとチビィの手を取ると、全力でその場から走り出した。


「逃げるぞ!」


「え?」


「何故我がスライムなぞに」


「そんなこと言っている場合じゃないだろ!」


 この五日でそう言った類のモンスターに遭遇する事はなかった。唯一遭遇したのは海でのあのモンスター。だから俺達は油断していたんだ。


 こうして手分けして行動して安全だと


「たかがスライムだとボクも油断していた。まさかこんなスライムがいるなんて」


「俺ももっと考えるべきだったんだ。海であのモンスターと遭遇した時点で、必ずしも安全じゃないって」


「まさか魔王である我がスライムごときにこんな目に合うなんて……」


「とりあえず今は拠点に戻るぞ。幸いなことにスライムは追ってこない。他の皆にも伝えないと」


「うん」


 この後俺達は川で釣りをしていたキャトラ達とも合流し、全裸の二人を連れて拠点へと帰還を果たすのだった。


 ■□■□■□

「寒い」


「こんな目に合うくらいなら、我は一人で行動すべきじゃった」


 拠点に戻ったところで二人の替えの服は誰も持っていないので、葉っぱと蜘蛛の糸で即席で作った羽織りものを二人には着てもらい、しばらくはそれで過ごしてもらうしかなかった。


 そして全員を集めたところで緊急会議を開く。


「あのスライム、多分私でも太刀打ちできなかったと思う。あの攻撃を刀で受けてたら、下手したら溶かされてたかもしれないし」


 最初にそう言ったのは人間の姿に戻ったカグラ。彼女の言う通り、もしあれが刀身で受けていたら跡形も無くなっていた可能性が高い。

 こちらが攻撃してない以上、ダメージを与えられるかは分からないけど、危険なのは確かだった。


「とりあえずツバサさん達が無事だったなら、それでよかったのですが、これだと私達も安易に拠点から離れられなくなってしまいましたね」


「ユフィ様は私が命に代えてもお守りしますか」


「いや、命に代えられても困るんだってば」


 思わず食い気味に俺は言ってしまう。天災をしのぐために拠点づくりを急いでいたわけだが、事情が大きく変わってしまった。この森……この島に未知の敵が潜んでいる可能性がある以上、拠点づくりを更に急がなければならない。


 素材も道具も少ないこの島で、果たして強固な拠点が作れるか不安だが。


「アタシ達が釣りをしていたあの川も、決して安全とは言えないって事だよね?」


「そうなるな」


「で、でも私達のご飯が……」


「そこも問題なんだよな」


 最初は何とかなると思っていた無人島生活。だけど日を増すごとに問題がどんどん増えていっている。ここの遭難者もこれからだって増える可能性もあるだろし、ここにいるモンスターも凶暴化する可能性だってある。


 そうなってしまった場合、俺達はこの島で本当に生き抜けることができるのだろうか?


「ねえ翼君、私さっきユフィちゃんと話していて思ったんだけど」


「ん?」


「そもそもどうして私達ってこの島に集められたんだろう。翼君は……一応理由はあったけど、私達には巻き込まれる理由なんてないし」


「それは俺も感じてはいたが……」


 考えたところで結論なんて出ない疑問だった。俺は自由に生きたいと願ったからとはいえ、他の皆はどう考えても意図なんてあるようには思えない。完全に巻き込まれた形だ。


(この生活のどこが自由な生活なんだろうな……)


「ボクとチビィなんて敵対している関係だしね。セットで同じ場所に呼ばれるなんて、普通は考えられない」


「それに関しては我も同感じゃ。我はこやつと決着をつけなければならないというのに」


「せめてそれは元の世界に戻ってからやってほしいものだけどな」


「そもそもこんな意味の分からない場所に呼び出されなければこんな事にはならんかったのじゃ。折角呼び出した家もあのザマになってしまったし」


「ちょっと待てチビィ。そういえばあの家と山、そもそもどうやってこの島に運んだんだ?」


「どうやっても何も、我は転移魔法を使えるからのう。ポロもそうじゃが、この島でも魔法は使える」


 そう言えばすっかり忘れていた。俺達の世界に魔法が存在しないだけであって、他の世界に魔法が存在する。


「魔法……そうか、二人は魔法使えるんだったな」


「でもボク達の魔力だって有限だから、状況を大きく変えられるわけじゃないよ?」


「分かってる。でももしかしたら、有効活用できるかもしれないな」


「有効活用?」


「例えばただの生魚が少しでも美味しくなる方法、とかな」

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