第17話異空間
ユフィとカグラの無事は確認できたので、今度は二手に別れてキャトラ達の捜索に向かうことに。グループ分けは、俺とまだ島に慣れていない葵の二人、ユフィとユズとカグラの三人という形で、拠点を中心に違う方角を捜索する事になった。
「ねえ翼君」
「ん? どうした?」
「私に聞きたい事、あるんじゃないの?」
歩きだしてからしばらくして、ここまで黙っていた葵が口を開いた。
「別に聞きたい事はないよ。というか聞いたところで答えないだろ」
「……別にそういうつもりはないけど」
「俺も無理に聞きはしないよ。それよりも大事なのは二人を見つける事だからな」
「……」
葵としても触れてほしくないことが多いだろうし、俺も踏み込むつもりはない。話したい時が来れば話せばいい。
(俺だって隠していること多いしな)
「それにしても地震と同時に現れた神殿か……」
「ユフィさんが言っていた話? 信じてるの?」
「信じる以外ないだろ。嘘ついたって誰も得しないだろうし」
「まあ、そうだけど……。でも私一つ気になったことがあったんだけど」
「気になったこと?」
「ユフィさん、神殿があったとは言っていたけど、そこに何があったかまでは話してくれなかったよね」
「言われてみれば」
神殿が現れたって事に気を取られて、肝心な部分を聞き忘れていた。ユフィとカグラからも話そうとはしなかったけど、彼女達はあの神殿で丸一日何をしていたのだろうか。
「別に何か隠しているようにも思えなかったけどな」
「そこまでは私には分からないけど、拠点に戻ったら聞いてみた方がいいんじゃないの?」
「そうだな。もしかしたら何かしらの手がかりを手に入れているかもしれないし、あとで聞いてみらとするか」
そんな会話をしながら俺達は森の中を探索していく。すると拠点から三十分ほど歩いた先に、古ぼけた建造物を発見した。
「これまた随分と古い建物だな」
「この建物レンガでできてる……」
「言われてみれば……けど、何でレンガの技術がこの世界にあるんだ?」
「ここが本当は地球だとか?」
「それは多分ないな」
最初に出会った神様が異世界に飛ばすだとか何だとか言っていたし。でも葵が言う通り、ここの建物はレンガ造りでできている。しかもそれなりに年季が入っている。
「翼、見て。遺跡の入口閉じられてる」
「本当だ」
「もしその二人がこの建物の中に入っていたら……」
「一日戻ってこないのも納得できるな」
二人は島の探索という名目で行動していた。しかもその二人のうち一人に異世界の勇者がいる。未踏の地を見つけようものなら、勇者としての血が騒ぐ(はず)。
キャトラはポロに連れられるがままにこの建物に閉じ込められた、という可能性がなくはない。
「この先に探している二人が……」
「いる可能性があるかもしれないな。ただ問題は」
閉じられてしまったこの扉をどうするかだ。
■□■□■□
「辛い……」
遺跡に閉じ込められて二日目。精神的にも追い詰められてきたのか、キャトラがついに根を上げ始めた。
「ねえポロ、アタシ達帰れるのかな」
「ボクを信じてキャトラ。少なくともこの遺跡が無限に続いているわけはないから」
「でも昨日から含めてもうかなり歩いてるよ」
「それは……そうなんだけどさ」
ボクもこの遺跡に違和感を覚え始めていた。どれくらい歩いたか分からないこのまっすぐの一本道。本来の遺跡なら部屋の一つも見えてきてもおかしくない。
なのにボク達の視界に映るのはずっと同じ道。まるでボク達がこの遺跡を永遠に彷徨い続けるように魔法がかけられたようなそんな……。
「もしかしたら……」
「どうしたのポロ」
「そこ!」
ボクは何もない空間を剣で斬りつける。すると何もないはずの空間がひび割れた。
「え? 何が起きて」
「キャトラ、ボクの後ろに下がって」
キャトラを守るようにボクは立つ。空間が割れて崩壊先でボク達を待っていたのは……。
「ここは……」
「外?」
遺跡の外だった。しかもそこには拠点で待っているはずのツバサと知らない女性がいる。
「え? あれ? ポロとキャトラ? お前らいつの間に。あれ?」
「えっとボク達も今何が起きたのか分からないんだけど。空間を壊しただけで」
「空間を壊す?」
「あ、そういえば遺跡は?」
遺跡があった場所をボクは見る。しかしそこにはつい先日確かにあって、ボクとキャトラが間違いなく探索した遺跡の姿がどこにもなかった。
「「あれ?」」
ボクと翼が同時に声を出す。翼曰く、ボク達がここに戻ってくる前まで、閉ざされてしまった扉の開け方を考えていたらしい。
「どういう事なのポロ。アタシ達さっきまで間違いなく遺跡にいたはずなのに」
「ボク達はついさっきまで永遠に道がループする空間に閉じ込められていたんだよ。だからその空間を壊しただけで……」
あの遺跡は間違いなく存在していたはず。中の作りもしっかりととしての雰囲気があったし、あれが幻だったという事は考えづらい。
ツバサも同じのを見ている以上は、遺跡は確かに存在した。
「ねえ翼君、この二人が」
「ああ、俺達が探していたキャトラとポロだよ」
見知らぬ女性にボク達を紹介するツバサ。ボケは軽く会釈をしただけで挨拶を済ましたものの、ついさっきまで体験していた現実を受け入れられずにいた。
(チビィもこの島に来てしまった時点で間違いなくこの島は……いや世界はおかしい……)
そんなこと考えていると……。
「キャーッ!」
どこかで女性の悲鳴が上がった。
「ツバサ、今のは」
「ユフィ達に何かあったのかもしれない。色々と話したい事はあるけど、今は声が聞こえたところに行くぞ!」