第16話心の仮面
ユフィ、ユズ、カグラの三人と合流できたのは拠点を出てしばらくした後だった。
「神殿?」
「はい。ついさっきまでそこにあったはずなんですが……」
「そんなのどこにも見当たらないんだけどな……」
合流してすぐにユフィとカグラが報告してきたのは、この島に突如として出現したという神殿の存在だった。
しかし彼女が言うその神殿はどこにも見当たらない。俺達より先に合流したユズもそんなものは見ていないと言っている。
「神殿があったのは間違いないわ。私とユフィはそこで時間を過ごしていたんだもの」
「別に疑っているわけではないけど……」
むしろ俺はその神殿に興味が湧いた。この無人島に突如現れ姿を消した神殿。もしそこにこの島に関する何かしらのヒントがあれば、是非とも調べてみたいのだが……。
「ところでツバサさん、先程から気になっていたのですが……」
「ん?」
「「「その後ろにいる方は誰?(でしょうか)」」」
ユフィが言葉を発したと思えば、三人で同時に俺に聞いてくる。
「そういえばまだ紹介していなかったな。彼女は俺の幼馴染で……」
葵のことを三人に紹介しようとしたその時、背中から強烈な殺意を感じる。
「翼君、これはどういうこと?」
その主は当然葵なわけで……。
「ど、どういう事って?」
「てっきり私、一人でこの島に暮らしていると思ったのに、まさか女の子三人と暮らしているなんて……しかもすごく美人だし」
「待った葵。俺最初に説明したよな? この島で協力しあって暮らしてるって」
「この浮気男!」
俺が言葉を言い終えるよりも先に葵は俺を思いっきり背負い投げをしてきた。
「痛ぁっ!」
「もう知らない! 二度と日本に帰ってこないで!」
葵はそれだけを言い残すと、元来た道を一人で勝手に戻っていってしまった。
「ゆ、ユズ、今の見た?」
「は、はい。あまりに一瞬の出来事だったので何が起きたかまでは分かりませんが」
「私も何かすごいものを見せられた気がする」
「三人とも感心してないで、俺を助けてくれ……」
ちなみに葵は柔道の有段者です。
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その後痛む身体を引きずりながら拠点に戻ると、ちゃっかり葵は拠点でくつろいでいた。
「あのー、葵、さん?」
「ふんだ」
葵は俺達が帰って来たのを認めるも、こちらを見てくれない。
「せめて事情だけでも聞いて欲しいのですが」
「……」
「聞いてくれないと困るのですが」
「……」
「無事に日本に戻れたら甘いものなんでも買ってあげますから……」
「え? 何でも?」
あ、食いついた。
「はい」
「絶対に約束だよ?」
「はい」
「分かった、じゃあ許す!」
交渉成立
「ねえユズ、今のを俗に言う餌付……」
「ユフィ様、それ以上はいけません」
「二人の関係が何となく分かった気がするような……」
なんか良からぬ会話が聞こえた気がするけど、聞かなかったことにしよう。
何はともあれ、
「私、若草葵って言います。翼君とは昔馴染みで何故だかは分からないけど、この島に飛ばされてしまいました。なので元の場所に戻れるまでの間ではありますが、皆さんと力を合わせて暮らしていきたいと思うので、よろしくお願いします!」
無事葵に今の状況を改めて理解してもらい自己紹介をしてもらう。先程までとの態度とは違い、ものすごい丁寧な言葉で挨拶をする葵。そんな彼女を見て俺はつい考えてしまう。
(葵、お前まだ……)
「えっと、ユフィさんとユズさんとカグラさんでしたよね? 今のお話ですとユフィさんはどこかの王女様らしいのですが、翼君が何か失礼な態度を取ったりしませんでしたか?」
「いえ、そんな事は一切ないですよ。むしろ私はツバサさんに助けられているくらいですから」
「私はすごく迷惑していますがね」
「ユズは黙ってて」
「やはり迷惑をおかけしているんですね! もし今後彼が何かをしでかしたら、私がこの手で止めますから心配なさらないでください」
「い、いえ、別にそこまでしなくていいですから! ただ……」
「ただ?」
「な、何でもありません」
葵の話し方に違和感を感じたのかユフィは何かを言おうとしたが、それをやめてしまう。
(さっきのあの背負い投げを見たら、違和感を覚えないわけがないよな……)
彼女が被ってる仮面、取り外せたと思っていたけどやっぱりダメだったか……。
「ツバサさん、葵さんは、その……」
「今は気にしないでおいてくれないか。葵には葵の事情があるからさ」
「はい……」
とりあえず自己紹介は終わったので、話を変える。
「そういえばユフィとカグラは、キャトラ達には会ってないのか?」
「会っていませんよ。私達二人はあの神殿に丸一日籠っていましたから。もしかして二人も……」
「ああ。二人で探索に行ったあの日から一度も戻って来てないんだよ」
「もしかしてユフィ様達のように何かに巻き込まれたのでしょうか?」
「その可能性は高いだろうな。何かに巻き込まれて戻りたくても戻れない状況に陥ったとか」
「戻りたくても戻れない状況?」
「何かしらに巻き込まれた可能性を考えるなら一つだけ思い当たる節がある」
「それってもしかして」
「ああ。昨日起きた地震だろうな」