第12話勇者と遺跡と王女と神殿
島の探索を任されたボクは、猫人間のキャトラと共にまずは怪しげな場所はないか探していた。
「それにしてもすごいよね、この島」
「すごいって何が?」
「だってボク達歩き始めてしばらくが経つのに、一向に森から抜けられないし」
「確かに。もう拠点からだいぶ進んだもんねアタシ達」
キャトラの言う通り、ボク達はもうそこそこの時間、この森の中を歩いている。それだというのに、怪しいものがあるどころか視界に映るのは森のみ。
その中を歩き続けていると、今ボク達がどこにいるのか分からなくなってくる。
「でもキャトラは一度ツバサとここで迷子になった事があるんでしょ?」
「な、何でそれを」
「別に恥ずかしいことではないよ。ボクだって迷子になった事なんていくらでもあるんだから」
「そ、それって大丈夫なの?」
その通りだった。自ら名乗り上げたのに、自分が方向音痴なところがあるのを忘れていたとは言えない。でもこの島を調べてみたいというボクの冒険心が勝ったのも事実。
「何か見つかれば目印になるし、最悪何かあったらボクが魔法で拠点に戻るから」
「え? 魔法使えるの?」
「それは勿論。ボクは勇者だからね」
「勇者って何でもありなのね」
そうでもないと言おうと思ったけど、それはやめておいた。ここでそういう話をする気もないし、それより先に森が開けている場所が見つかったから、そっちに意識が飛んだ。
「やっと森から出られそうだね。何かあればいいけど」
森を抜けた先に何が待っているのか期待しながら、ボクとキャトラは森から出る。そこでボク達を待っていたのは、
「遺跡?」
「見た感じそうだね」
かなり古ぼけたレンガ造りの大きな建物だった。ボクとキャトラが感じた通り、恐らくここは島の中の遺跡だと思われる。
「まだ時間はあるし、入ってみようか」
こういう場所に入る時は普通緊張するのだけど、ボクはこういう場所に入るのは慣れているので、躊躇わず足を踏み入れた。
「え? ちょっと、入るの?」
「だって調べてみないと報告できないでしょ? それともキャトラはそこで待っている?」
「あ、待って、私も行くから」
それに比べてキャトラは、少しだけ躊躇いはしたものの、私の後を付いてきた。そしてそれとほぼ同じタイミングで、それは起きた。
「じ、地震?」
「これは……地震じゃない!」
突然起きた地震と共に鳴り響く音に、ボクはすぐに来た道を振り返るが、時すでに遅く、遺跡の入口は何かによって塞がれていて、外とのつながりを遮断されてしまった。
「い、入口が……ど、どうしよう」
「落ち着いてキャトラ、ボクが付いているから」
「で、でもこれだとアタシ達」
「こういうのは絶対どこかにこの遺跡から出る場所が用意されているはずだから、先に進もう」
「もし無かったら……」
「その時はその時。ほら、進もう」
「わ、分かった」
ボクはキャトラの手を引く。彼女が不安な気持ちは勿論理解できる。だからここは、勇者としてボクが彼女を支える。
「ツバサに心配かけるけど、絶対に帰ろう」
「う、うん!」
■□■□■□
私がその大きな揺れに気づいたのは、丁度食料を取り終わった時だった。
「ず、随分大きな揺れですね」
「え? 揺れてるの?」
「感じないんですか?」
「私はほら、魂だから」
「あ、そうでしたね」
と、呑気に会話をしている間に、揺れは何とか収まった。しかし揺れが収まったのとほぼ同じタイミングで、私はある事に気がついた。
「カグラさん、あれ」
「え?」
それは丁度今私達が歩いてきた道。ずっと森の中を歩いてきたので、そこには森があるはずだった。けど、今の揺れで何があったのか、私達の通った道には、何かの建物みたいなものが突き出てきていた。
「これって……神殿?」
「シンデンって何ですか?」
聞いたことのない単語を発したので、私はカグラさんに尋ねる。すると、彼女は神様を祀ったりする神聖な建物だと答えた。
(神様、ですか)
私には縁のない言葉だと思っていたけど、まさかここでその言葉を耳にする事になるとは思わなかった。
「さっきの揺れで現れたんでしょうか?」
「それにしては不自然じゃない? こんな所にこんな建造物が現れるなんて」
「確かに不自然ではありますね」
そのあまりに不自然な現れ方に、私とカグラさんは同じ疑問を持つ。そもそも建物がこうして生えてくる事がおかしい事であり、神聖な建造物がこの島にあるという事自体もおかしかった。
「調べてみます?」
「うーん、とりあえず保留にしておこう。ツバサ君に後で報告すればいいし」
「そうですね」
一旦この神殿の事は保留する事にして、私達は再び採取に取り掛かる。しかし再開した直後、
『私の元に来てください、……の王女よ』
「え?」
今度は声がした。けどそれは、私にした聞こえていなかったらしく、カグラさんは反応しなかった。
「どうして……その名前を」
「ユフィ? どうしたの?」
「行かなきゃ」
「え?」
「やっぱり神殿の中に行きましょう、カグラさん!」
「ちょっと、ユフィ?!」
その声を聞いた私は自然と足を動かしていた。あの声の主がその神殿にいるかは分からない。でも、私は確かめずにはいられなかった。
(あなたは何者なんですか? どうして私の事をその名で)