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 「ごちそうさまでした~」


「ごちそうさま。咲良、おいしかったわ。鈴鹿も、手伝ってくれてありがとう」


「い、いえ……」


今は五人で夕飯を食べ終わった後。料理はとてもおいしく、四人とも笑顔で皿を空にしていた。

 私は、さっきのことで食欲が湧かず、それでもこれ以上なにか面倒くさいことが起こる前にと、なんとか食べきった。


「じゃあ、俺は5号を送ってくるな。雅さんは、まだ咲良と話すか? それなら、雅さんは後で送ってくけど」


その一瞬、雅と咲良は視線を交わした。ように見えた。


「ねえ、あなた。今日は泊まって行かない? 今夜はもう仕事はないのでしょう?」


「まあ、ないが」


「おまえたち、そんなに一緒に居たいのか? 本当に仲がいいんだな」


56号が嬉しそうに笑って言う。自分の妻と友達の妻が仲いいのは、56号も嬉しいのだろう。

 一方、5号はまた眉間にしわを寄せていた。


「そうか。それなら別に良いが、俺は少し外に出て涼んでくる」


「えっ別に良いじゃない、ここでも。この家は木造でひんやりとしていて、とっても心地いいわ」


「まあそうだが、俺は外の空気が……」


「じゃあ、窓を開けましょう。私、自然が好きだわ」


「ほう? そんなことは初めて聞いたな」


5号の目が鋭く細められる。


「……。まあ確かに、これは初めて言ったわね」


でも、嘘ではないし。と付け加えられる。視線がそらされているが、それが拗ねているときの表情と似ていた。大人っぽい雅が子供みたいな表情をしている。


「そうか」


それだけ返すと、5号は元から興味がなかったように顔をそむける。


 「5号。やっぱり俺だけ帰る」


「な……いいじゃない、今日くらい泊まっても!」


「まあどうするかはお前の自由だけど、いいのか? 雅さんを残して行ったら、帰るときに危険な目に遭った時に対処できない。昼だってあのじいさんみたいなのがいるし」


「そうよ。夫なら私を守って頂戴!」


雅さんは自分の胸に手を当て、胸を張った。自分が妻だと主張しているように感じた。


「は? 昼に一人でこの家に来たやつが何言ってるんだ。それに、人間と握手したときにあんなに赤い痕をつけられるなら大丈夫だろう」


それに対して5号は冷たい。


 「ね、ねえ、5号。いいじゃん、泊まって行ってよ。私、人見知りだから5号が居てくれないと心細いよ」


「そ、そうか。なら仕方ない。ここに残ろう。今日だけだぞ」


「ありがとう、5号!」


つい、嬉しくて笑みがこぼれる。


 「じゃー俺たちはしばらくリビングで何かしてるか」


「あーいいよ、いいよ。食器洗ったり、後片付けがあるから、男性陣は56号の部屋でくつろいでて」


「俺の部屋かよ。何もないんだよなー」


「いいから、手伝う気もない男性陣は下がっていてと言っているのよ」


雅さんがきつい言葉をかける。確かに五人分の皿や油でぎとついた鍋を洗ったりするのは本当に疲れる。一生懸命洗っているときに近くでくつろいだ姿を見せられたらイラッとするだろう。でもそんな言い方はないと思う。

 5号たちもイラついたようで、顔をひきつらせながら階段を上がっていく。私はひそかにため息をついた。仕事で疲れている旦那と、家事で疲れている妻と。この話はお互いの理解がないと解決しない話だ。引き取られてからも会っていた孤児院の子が言っていた。


「さて、と。片づけを始めるとするか」


咲良さんが腕まくりをして洗い始める。雅は机に出ている食器を流し台に置くと、油やら何やらが鍋の壁にへばりついたそれを何かが書いてある紙で拭いていく。周囲を見回してみるが、私がやることはなさそうだ。


「あの、咲良さん」


ジャー。


「えっと……」


ジャー。


「あのっ」


勢いよく流れる水の音しか聞こえない。咲良からは何の反応もなし。


 「雅さん」


何回か呼びかけてみたが、こっちも反応なし。今度は無視を決め込んでいるのだろうか。

 とうとうすることもなく、力なく腕を垂らしたとき、上から私を呼ぶ声がした。


「はーい」


返事をして二回に上がると、二つの部屋から私を呼ぶ声がした。一つは私の部屋から。もう一つは、56号の部屋から。咲良の部屋からは何の気配もない。同時に聞こえてくる。どちらへ先に行こうか、この時の私は迷っていた。

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