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決まり

 「……ここがいいかな」


墓に選んだ場所は、色とりどりの花が咲き乱れている中心。何故かそこだけは花が何も咲いていなくて、真っ黒い土が覗いている。

 家の壁に立てかけられたスコップで掘り進めていくと、何か固い物に当たった。かちんといい音がした。


「石かな?」


まだそこまで深く掘れていなかったから退かそうと中をのぞくと、白い物が見えた。何故かゾッとして、よくない考えが頭を支配する。


「これは……骨……なわけ、ないよね。うん。まさかこんなところにあるわけないし。こ、これ固くて動かせないし、もう掘るのやめとこ」


黙々と虫を穴に入れていくと、さっきの言葉が脳内に再生される。


「性格悪い奴って……」


 「鈴鹿、そんなところで何やってるんだ?」


足音がしなかったから、肩が反射でびくりと動く。


「ここに墓を作ろうと思って」


「あーそこか……いいな、綺麗だし」


「よかった。お花の中心だし、良いかわからなかったから」


56号が虫を穴に入れるのを手伝ってくれる。


「ありがとう」


 56号は淡々と虫を穴へ入れていった。集中しているように見えるが、違うと思った。暗い。


「56号」


「どうかしたか?」


呼べば笑顔で顔をあげてくれる。それにどう反応すればいいのか。

 言いたいことはあったのに言えずにいると、56号から話し始めた。


「あのさ、急で悪いんだけど、俺、咲良との婚約解消したから」


やっぱり、56号の言っていた性格悪い奴は咲良のことだったのだろう。


「5号も。雅さんと解消したって。でも、お前はここから出て行かなくていいから」


「それってやっぱり、私のせいで離婚することになったんですよね」


私のせいで。


「二人は私が居なければきっと幸せに暮らせた。私がいたから。出会った時から、迷惑ばかりかけてごめんなさい」


56号はきょとんと首をかしげた。


「別に、お前のせいじゃねーよ? きっかけだったってだけで」


「でも、好きだったんじゃ……」


「え、何で?」


何で? 何でって、好きじゃなければ婚約なんてしないだろう。


 「ああ、人間界では違うのか? こっちの世界では……この世界の政治とかいろいろ重要なことをやる機関を中央と呼ぶんだけどな。婚約の相手は、その中央が決めるんだ。だから、咲良とは好きで婚約したわけじゃない。だって、妖怪ってパートナーなんて必要ないし。何かを好きになることはあっても、欲しいと思う事はあっても、必ずずっと一緒に居なくちゃ困るってことはないんだ。神隠し防止のためだし。人間は子供を産むんだってな。妖怪は、人間が居ると思ったから居るんだよ。生みの親は人間だな」


56号がおかしそうに笑った。


「その親に俺たちは悪戯してるんだぜ? よくわからないよな」


 「どうやって、婚約の相手は決められるの? 中央って偉いところが決めたなら、解消するのは難しいんじゃないの?」


「それか?」


56号はしばらく手だけを動かした。動かして、動かして、まだかと言うときになって口を開いた。


「5号っているだろ。あの5号って呼び方、なんでって思わないか?」


「思う。それに、1号2号って適当につけたならわかるけど、そう考えると二人共中途半端だし、数字が離れてる」


「だろ? それ、能力の順番なんだ」


「能力の?」


「そう。妖怪としての力がどれだけ強いかでそうやって番号が付けられている。世界中の男の妖怪と、女の妖怪に分けてつけられているんだ。組み合わせはその番号で決められる。片方が強かったら片方弱く、両方真ん中くらいだったら両方真ん中くらいってしてる。どの組みも、合計がだいたい同じになるようにしているんだ。家同士で喧嘩になっても決着がつかないように。この世界の女子は気が強いからなー。原因だいたいそれ」


最後の言葉は笑ってしまった。56号が参っちゃうよと笑っていった。


 「そういえば、その番号を付けてどうするの? 組み合わせるだけなら、番号なんて必要ないじゃん」


56号はまた黙った。虫をすべて入れ終わって、穴に土を戻しているときだった。


「番号は、相手がどのくらい偉いかを知るために、一般の間で使われる。中央は正直そんな番号なんかどうでもいいんだ。でも、番号が早ければ早いほど、中央に声をかけて動かす事が出来る。……って言う感じ。正直、低い者にはつらい決まりだよ」


56号は早い方なのだろうか? 5号が早いことはわかるけど、56号って微妙な数字。でもきっと、世界で見たら早い方ではあるのだろう。


「そうなんだ。むずかしいね」


「そうだな。あと大変だ。面倒くさい。低いやつが可哀そうだよ」


56号の顔が暗くなった。


 「56号、手伝ってくれてありがとう。もう終わったよ、だから中に入ろうよ」


56号は土を戻し終わってもまだ手を動かしていた。気付いていないようだった。


「お、おう、そうだな。入るか」


「あ、待って。この花、一輪もらってもいいかな?」


「いいけど、どうするんだ?」


「ありがとう。……こうするの」


虫が埋まっている土の上に手折った一輪の花を置いた。


「なるほど。人間はそうするのか」


「うん。おまたせ。それじゃ、戻ろう」

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