お泊り会の向かいの部屋
夜。向かいの部屋から楽しそうな声が聞こえなくなった頃。
「向こうは、寝静まったかな」
56号がそう言って目を開けた。
「知らん。見えないし」
「いや、わかるだろ。どう考えたって寝息しか聞こえてねえよ」
5号は寝たふりもせず、静かに本を読んでいた。
「なんでこんな時間まで起きているんだ?」
「それはおまえだってわかっているだろう。じゃなきゃとっくに寝てるわ」
5号が本から顔をあげずに言う。
「もし、あいつらが鈴鹿にひどいことをしているのなら、俺はあいつとの婚約は取り消す」
「俺も。そんな奴と一緒に生活していたら、後が怖いしな。解消したいとは思う。だが、お前はできても俺はできない」
今まで一回も、視線すらも本から動かさなかった5号が、ちらりと56号を見上げた。
「そんなの、俺がついていればなんとかなる」
「そうかね?」
56号が仰向けに寝転んで苦笑する。
「おまえでも難しそうだけどなあ」
5号がむっとしたように本を閉じた。
「おまえが望むのなら、何だって叶えてやる。なんだってだ」
「はいはい、ありがとさん」
56号が寝返りを打って5号に背を向けたため、5号からはその表情が見えなかったが、56号は5号の気持ちが嬉しそうだった。
「そういえば、この世界では婚約者と一緒に暮らすのがルールになっているが、離婚した場合どうなると思う? そんな話聞いたことないな」
「だったら、ここに俺が移ればいい。咲良を俺の家に移動させる」
「俺は良いけど……俺の家でいいのか? おまえの家の方が広いし、豪華だし、いろいろ不便しないだろう?」
「別にいい。ここは居心地がいい。それに、向こうに俺が住まなくなったらこっちがそうなるだけだ。雅の力は小さいからな」
「そうなのか? じゃあ、そうなった場合、あっちの家は質素になるのか?」
「面倒くさいから、あのままでいい。そんなことに金をかける必要なんてない」
「お前がこっちを選んだのは鈴鹿のためだろう?」
56号から5号の顔は見えない。けれど、お互いが小さいころからずっと近くにいたから、わざわざ見なくてもそんなことくらいわかってしまう。
「まだ慣れない鈴鹿がやっと少し慣れた家から別の場所に移動させたくないんだろ? 優しいよな、お前は」
「お前に比べれば、優しくない」
「お前、まだあいつらの言ったことなんか気にしてんの? おまえは優しいよ。不器用なだけで」
部屋の隅で、オレンジの小さな明かりが煌々と照らして存在を主張している。5号がその明かりをさらに弱くした。
「もうそろそろ寝ろ。明日も仕事があるだろう」
まだ世間は子供と呼ぶくせに、と5号が低く呟いた。
「あいつら、婚約解消したらどうなるのかな」
「中央から適当に金を定期的に渡されるだろ」
「適当だなあ」
「まあ、それは離婚を解消すればの話だ。解消すればな」
「なければいいな」
「ああ」
そこで、オレンジの光は静かに消えた。




