第83回 創作物における美少年・美少女、美男・美女の多用の効用と弊害 (後編) 古寺猫子さんとのリモート対談
2021年4月某日
猫子スタジオのパソコン前にて
Kobitoがウェブ会議用のツール『Zoom』を開始しようと四苦八苦している
Kobito「ん?つながったかな?まだかな?」
パソコンの画面に猫の姿の猫子が映る。
猫子「あ、映りました~。」
Kobito「おお~、久しぶり~。元気してた?」
猫子「判事、聞こえますか?私は猫ではありません。」
Kobito「それwww、海外のニュースであったやつね。猫子さんも見てたんだ。」
猫子「ええ。YouTubeを見てたらお勧めに出てきたんです。右上のおじさまがこらえきれずに笑ってて、面白かったですよね。」
Kobito「そうそう。^^あ、ご興味のある方は、こちらで見てみて下さいね。」
『「自分に笑うしかない」、リモート裁判を「猫姿」で続行』
https://www.youtube.com/watch?v=4KgrZtG35Ss
Kobito「それにしても、ずいぶんご無沙汰だったねぇ。また、カンヅメやってたの?」
猫子「いえいえ。私今、海外にいるんですよ。」
Kobito「海外?!」
猫子「多分ご存じないと思うのですが、ドイツのローテンブルク・オプ・デア・タウバーという街です。」
Kobito「ちょっと待って、画像を検索してみるから。……うわぁ、えらくメルヘンチックな街並みだね。ファンタジーの舞台セットみたい。」
猫子「そうなんですよ~。もうすべてがメルヘンの世界で、可愛くて可愛くて。お菓子でできた街みたいでしょう?」
Kobito「うん。いいな~。観光で行ってるの?」
猫子「白珠姉さんのお仕事をお手伝いするために、呼ばれて来たんです。」
Kobito「へぇ~。お姉さんもいるの。たしか、何年か前に聞いたときは、クロアチアのドゥブロヴニクで、失われたシュメール文明期の化け猫秘術が描かれた金細工の秘宝を探していると言っていたけど、見つかったのかな。」
猫子「ええ、姉さんによると、見つかったのは見つかったんですが、あと少しで手に入る、というところで、化け猫界では有名な怪盗パンジャン一味に横取りされてしまったそうです。」
Kobito「あらぁ。それは残念。」
猫子「ですから今回は、気を取り直して、ナチスが隠した神聖ローマ帝国時代の化け猫秘術が記された皇妃のティアラを追って、彼氏のグスタフとこの街に来たのだそうです。」
Kobito「おお~。新たなトレジャーハンティングだね。今回は手に入るといいねぇ。」
猫子「ええ。でも私、歴史に疎いものですから、お茶出しくらいしかできないのですけれど。」
Kobito「いいじゃない。せっかくだから異国の文化を満喫しなよ~。」
猫子「そうですよね。宝探しは姉さんたちに任せて、そうします。」
Kobito「ところで今日は、文芸コラムの対談という事で、前回のテーマの『創作物における美少年・美少女、美男・美女の多用の効用と弊害』について、猫子さんと話したいんだけど、大丈夫かな?」
猫子「それですねぇ。読みましたよ。Kobitoさんあんまりじゃありませんか。」
Kobito「何が?」
猫子「だって、このコラムだって、私という絶世の美猫が登場する事を呼び物にしているのに、『美女が登場するお話はご都合主義だ。けしからん。』なんておっしゃって。」
Kobito「けしからんとまでは言ってない。^^;ただ、一般的に、登場人物が美男や美女である事を強調するお話は、ご都合主義になりがちだ、という事は、言えるだろうね。」
猫子「ほうら、ごらんなさい。そんな事おっしゃるなら、私もう、この連載に出演してあげませんから。」
Kobito「ちょっちょ、ちょっと待って。ご都合主義というのは、必ずしも悪い面ばかりではないんだよ。いや、そもそも猫子さんの存在はご都合主義なわけでもないし。」
猫子「どういたしまして。私なんぞはご都合主義の権化のような美猫ですから。」
Kobito「参ったなぁ。ほら、前回のコラムでも、シンデレラに関する両さんの批判的主張に対する私の意見として、『半分その通り』と断り書きをしていたでしょう?このテーマは、単純そうに思えて、実は複合的な視点で見る必要がある、深いテーマなんだよ。」
猫子「そうでしょうか。そこまでおっしゃるなら、Kobitoさんが本当はどういうお考えなのかを、猫でも分かるようにご説明してくださいな。」
Kobito「分かった。まず、シンデレラについてだけど、あのお話は、主人公が美人でなければ成立しないお話、というのは、まず間違いないよね。その点で、ご都合主義的だという批判は免れない。でも、その一方で、シンデレラはただ美人なだけで中身の乏しい人ではなくて、働き者で誠実で、優しさやつつましさや辛抱強さもある、好ましい人として描かれている。そういう人が報われるお話という側面もある、という事。」
猫子「ふむ、人は中身が大事という事もちゃんと伝えるお話になっている、という事ですね。」
Kobito「そう。ただし、これは良く知られたペロー版の『サンドリヨン』の内容で、それ以前に書かれたグリム版などは、シンデレラをいじめた家族が重い罰を受けるという内容で、今どきの言葉でいうところの『ざまあ』要素が色濃く出ている。それだと、復讐劇のようになってしまって、シンデレラに対する印象もずいぶん変わって来るよね。」
猫子「へぇ。シンデレラには、そんなにいろんな版があるんですか。」
Kobito「そう。ペロー版が好まれて普及した理由は、やっぱりお話として面白いし、読後感も良いからだと思う。シンデレラは、いろんな人に書き継がれるうちに、改良されて来たお話、という事。」
猫子「ふんふん。Kobitoさんが言いたかった事が少しずつ分かって来ました。『美人』というのは、お話を面白くするための一つの要素であって、それだけだと物足りなくなるから、他の要素も絡めて、物語をより豊かにすると良い、という事ですね。」
Kobito「そういう事。それと、今どきの物語の多くが、美男美女の設定が簡単で便利だからと、安易に多様しているけど、それだとどうしても類型的になってしまうし、美形の登場人物を強調するために、容姿がそれほど良くない人を登場させる事で対比させたりして、一方を貶め、一方を持ち上げるという描き方をする作品も、少なからずあるよね。」
猫子「あ~、それもいろいろ思い浮かびます。」
Kobito「うん。設定としては、単純で分かりやすいから、世間受けするわけだけど、冷静に考えると、容姿と、性格や人格って、現実には一致しない事も多いでしょう?」
猫子「そうですねぇ。容姿が良いからと、みんな良い人ってわけでもないですしね。」
Kobito「そう、それに、私も含めてだけど、世の中の大抵の人は、平凡な容姿だよね。それなのに、『美形は優れていて良い人』、『平凡な容姿の人は性格も能力もそれなり』なんて描き方がスタンダードになったら、それが原因で自分の容姿に劣等感を抱いてしまう人も、出て来ると思うんだよ。」
猫子「うーん、確かに、そういう面もあるでしょうね。ただ、それを言い始めると、表現の幅が狭まってしまうという事になりはしませんか?」
Kobito「少なくとも、今は創作の世界に美男美女があふれている時代だから、それ以外の道を探るために、課題を提示するくらいは、良いと思う。例えば、ジブリアニメの『千と千尋の神隠し』が、2003年にアカデミー賞の長編アニメーション部門を受賞したけど、それは、『主人公の少女が日本アニメによく見られる典型的な美少女顔ではなかった』事がプラスに評価されたから、とも言われている。私も、それはあると思う。」
猫子「そうですねぇ。うちの父も、『千尋ちゃんは、あの顔だから、親近感が持てる』と言っていました。」
Kobito「猫子さんのお父さん、ジブリアニメ見るんだ。」
猫子「ええ、ジブリとかディズニーとかピクサーとか、夢のあるアニメが大好きです。」
Kobito「意外やなぁ。でも、お父さんの言う通り、千尋はあの顔だから良いのだし、監督の宮崎駿さんも、アニメの現状への一種のアンチテーゼとして、意識的にキャラクターデザインをしたんじゃないかなと思う。それと、作中で千尋の顔立ちに関するエピソードを挟まないというのも良かった。顔だちを重視する人は、ついそれを入れてしまいがちだから。」
猫子「Kobitoさんの指摘を踏まえて考えると、世の中の人々は意外と、顔だちにこだわり過ぎて、かえって自分たちで表現の幅を窮屈にしてしまっている面もあるようですね。」
Kobito「うん。それが、私の言いたかったこと。」
猫子「よく分かりました。勘違いして、すねたりして、ごめんなさいね。これからは、このコラム連載をより豊かなものにするために、美猫なだけではないこの猫子、どしどし出演してお役に立てるように精進いたします。」
Kobito「分かってもらえて良かった~。うん。また、定期的に出演してよ。猫子さんの登場を楽しみにしているファンも、きっと喜ぶよ。」
猫子「はい!あ、そろそろ姉さんたちが帰って来る時間です。これでお暇しますね。」
Kobito「うん、お姉さんたちによろしくね~。応援してるよ~。」
猫子「ありがとうございます!それでは、失礼いたします。」
Kobito「……あら、猫子さん通信を切り忘れてるよ。」
猫子「あ!姉さん、お帰りなさい。良い事を教えてあげますわ。なんと、私たち、美猫なだけではダメなんですよ~。」
Kobito「さっそく吹聴してる。www」