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第81回 【特別編】バトン「名刺代わりに好きな小説を10作品あげる」にお答えします。

なろう仲間の三千さんから、「名刺代わりに好きな小説を10作品あげる」というバトンを頂いたので、今回はその回答をご紹介しますね。


バトンを受け取った人たちは、たいてい活動報告に回答を載せているんですが、私の回答には、作品に対する論評とか意見も含まれているので、この文芸コラムで紹介した方がいいんじゃないかな、と思いました。


では、早速行ってみましょう!

(好きな順ではなくて、思いついた順になっています。)


ーー--------------------------------------



1.『トム・ソーヤーの冒険』 マーク・ トウェイン・作 (児童文学)


私が海外の児童文学を好きになるきっかけを作ってくれた、思い入れのある作品です。

読んだのは、小学生の頃で、童心社のフォア文庫でした。近所の大型スーパーの中に入居した本屋で、母に買ってもらった気がします。


多田ヒロシさんという方が描いた挿絵が、素朴な味わいで可愛くて、しかも作中にたくさん差し込まれていたので、想像力を広げる助けになりました。


引っ越してきた女の子ベッキーと、いたずらっ子トムの恋愛模様を、物語の主軸にしているのが、この作品の最大の魅力です。

イチャイチャ期、嫉妬、絶交、当てつけ、救済、仲直り、大人と基本的には変わらない恋愛心理の移り変わりを、児童文学の枠内で、読者が深く共感できるように丁寧に描いています。





2.『こころ』 夏目漱石・作 (文学)


日本の近代文学の金字塔であるばかりでなく、その後の文学の潮流を示唆し、後進の文学者の目標となる高い文章力の水準を定義した、時代を超えて読み継がれる傑作です。


この作品が、1914年(大正3年)に発表されたという事の凄さを、あらためて考えてみて下さい。

まだ、世間に、文語体と口語体の表現が、入り混じっていた時代です。

その頃に、これだけ完璧な口語表現を駆使した作品を完成させるというのは、並大抵のセンスの良さではありません。


ちなみに、新潮文庫の『こころ』は、累計700万部越えの発行部数で、現在、日本の歴代書籍の発行部数ランキングの第2位に位置しています。

では、第1位はどんな作品か、と言うと、黒柳徹子さんの『窓際のトットちゃん』で、累計800万部越えの国民的人気作なんだそうです。

知らなかった……。

読んだことがないので、今度読んでみよう。





3.『銀河鉄道の夜』 宮沢賢治・作 (児童文学)


宮沢賢治の数ある童話の中でも、最高傑作と言える、豊かな想像力と、切ない詩情が融合した、ファンタジーの不朽の名作です。


彼が描き出したこの物語世界の質感は、西洋の児童文学とも、日本の児童文学とも異なります。

読んだ人が、実際にその世界にいて、主人公と同じ空気を吸っているような錯覚を覚えるほど、実在感の強いものです。

それでいて、現実離れした豊かなイメージの数々が、眼前に展開するのですから、ファンタジー好きにはたまりません。


改稿途中で賢治が他界したため、一部がまだ未完成のままですが、欠落部分は、改稿前の原稿である程度推察できるので、ご興味があれば、全集に収められた、第三次稿などを当たってみて下さい。





4.『春と修羅・第三集』 宮沢賢治・作 (詩)


宮沢賢治の詩集は、生前に刊行された『春と修羅』がもっとも世間で知られているんですが、賢治は第一詩集刊行後も、詩の執筆を続けており、亡くなるまでに、『春と修羅・第二集』と『春と修羅・第三集』が編めるほどの膨大な作品群を準備していました。

結局、この二つの詩集は、生前に刊行するには至らなかったんですが、私が見るところ、詩作の腕前が最も磨かれて、最高の高みに達したのは、『春と修羅・第三集』の頃ではないかと思います。

第一集で、専門用語を駆使した難解な詩に個性を発揮した賢治ですが、第三集の頃には、より分かりやすい、普段使いの言葉を好んで用いるようになり、しかもそこから、深い詩情を引き出すという、簡単そうで難しい手法に取り組む姿勢に転換しています。





5.『星の王子さま』 アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ・作 内藤濯・訳 (児童文学)


世界中で愛され、日本にも根強いファンのいる長編童話です。サン=テグジュペリ自身が描いた、素朴で可愛らしい挿絵が、大好きという方も多いかもしれません。


フランスの作家らしい、非常に内省的で詩的な物語です。童話ですが、むしろ、繊細で傷つきやすい心を持った大人の胸に響く作品ではないかと思います。


この作品は、近年、現代の翻訳者や作家による翻訳本が数種類、新たに刊行されましたが、それらの今風の文体で、初めてこの作品に接した人は、なぜこの作品が世界中で愛されているのか、いまいち納得できないかもしれません。

特に日本で、ここまで『星の王子さま』の評価が高いのは、最初に日本語訳を手掛けた、内藤濯ないとう・あろうさんという方の訳文の、詩心溢れる澄み切った美しさに負うところが大きいのです。

ですから、もしこの作品を読んでみたいな、と思った方は、ぜひ、岩波少年文庫の、内藤さんの訳文で、楽しむようにして下さい。お願いします。





6.『赤毛のアン』 L ・M・モンゴメリ・作 (児童文学)


言わずと知れた、児童文学の名作ですが、かなり分厚い本で、文字もびっしりなので、読み始めるのにしり込みする人も、いるかもしれません。

でも、読み始めると、アンの性格の楽しさや、養い親となるマシュウやマリラの人間的魅力に引き込まれて、ぐんぐん読み進めてしまえること、間違いなしです。


私は、アンと最初に友達になった、近所に住むダイアナが、作品を面白くする上で、とても重要な役割を果たしていると思います。

もし、おっとりした性格のダイアナが示してくれる大らかさがなければ、読者は、アンが繰り返し披露する「理想的な夢見る乙女」の熱演ぶりにあきれて、少々くたびれてしまったかもしれません。


赤毛のアンは、何冊にもわたるシリーズものですが、後半は、無理にシリーズを続けている感が強くなるので、自信をもってお勧めできるのは、初期の3巻程度までです。





7.『草木塔』 種田山頭火・作 (俳句)


種田山頭火たねだ・さんとうかは、自由律俳句の名手であり、社会に馴染めず、托鉢たくはつをしながら放浪の人生を送った僧侶としても知られている人です。


自由律俳句、というのは、通常の俳句の五七五のリズムにとらわれない、一行で表されたごく短い詩の事を指します。


生涯に8万句以上の句を編んだとされる、多作の人ですが、出来の良い句は放浪の旅の初め頃に多いようです。


私が短詩を書く時の、お手本にしている俳人です。





8.『ピーター・パン』 ジェームス・ マシュー・バリー・作 (児童文学)


ディズニーや日本のアニメでお馴染みなので、ピーター・パンの名前を知っている人は多いでしょうね。

でも、原作を読んだことがある、という人は、相当少ないのではないでしょうか?

古くてけっこう分厚い本ですが、これがちっとも古臭くなくて、むしろめっぽう面白いのです。

子供向けというよりは、子供心を持った大人向け、という内容です。


永遠の子供、ピーター・パンの、いかにも男の子らしい奔放な振る舞いに、成熟した大人の作者からの憧憬のまなざしを感じる、楽しいけれど奥深い味わいに満ちた傑作です。





9.『貧しき信徒』 八木重吉・作 (詩)


シンプルな言葉から、最大の感動を引き出す。

私が詩作するときに、いつも心掛けているこの考えは、八木重吉の、分かりやすいのに胸を打つ、磨き上げられた短詩からの影響が大きいです。


若くして結核で亡くなりましたが、晩年に向かうほど、その詩は、まっすぐで正直で、何のてらいもないものになって行きます。


『貧しき信徒』は、彼の第二詩集です。第一詩集『秋の瞳』よりも、言葉のリズムやイントネーションの組み合わせが作り出す妙味を、より的確に把握して詩作するようになってるのが分かります。





10.『やかまし村の子どもたち』 アストリッド・リンドグレーン・作 (児童文学)


幼い子供たちの思考や行動を、この人ほど自然に、リアルに描ける作家は、児童文学の分野でも、意外と少ないのです。


そして、彼女の文章表現には、いつも読んだ人を笑顔にしてくれる、大らかで巧みなユーモアがあります。


怪力の女の子が活躍する『長くつ下のピッピ』シリーズの作者としても知られている人ですが、私は、この『やかまし村』シリーズの、リアリティーに徹しながら楽しさを追求した作品の方が、外連味がなくて好きです。






ーー--------------------------------------



いかがだったでしょうか?

児童文学が6作、詩・俳句が3作、文学が1作、という、かなり独特なチョイスになりました。



ちなみに、選びたかったけれど、10作に収まらなかった作品も、たくさんあります。



『ペンネンネンネンネン・ネネムの伝記』 宮沢賢治・作 (児童文学)

奇想天外なおばけの世界の話。日本が生んだファンタジーの中でも、飛び抜けて自由な想像力で描かれた傑作。


『クマのプーさん』 A・A・ ミルン・作 (児童文学)

クマのプーさんは、ディズニーの愉快なアニメで一躍人気者になりましたが、原作はその可愛さに加えて、子供がどんな風にごっこ遊びをするかや、その時頭の中でどんなイメージが踊っているかという事を、巧みに再現した作家の力量を存分に味わえます。


『アルプスの少女ハイジ』 ヨハンナ・シュピリ・作 (児童文学)

あの名作アニメが、いかに原作に忠実に作られていたかが良く分かる、馴染みのある愛らしいハイジに、小説の形で出会える作品。


『にんじん』 ジュール・ルナール・作  (文学)

親とは子を愛し、慈しむものだ、という固定観念が、単純に過ぎる事を、気づかせてくれる作品。

今でいう毒親の行動と、それにさいなまれる子どもの姿を、諧謔なまでに赤裸々に描き出す。


『城の崎にて』 志賀直哉・作 (文学)

端正な文章と誇張を排した落ち着いた語り口が心地良い、私小説の傑作。




あらためて、好きな作品を並べてみると、児童文学が圧倒的に多いですね。

文学は、バランスを取るために入れている節も……。


自分は児童文学が大好きなんだなぁという事が、目に見える形で再確認できました。



さて、次にバトンを渡す相手は、どうしよう。

古都ノ葉さんは、どうかな?


これを見つけて、できそうであればで良いですよ~。



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― 新着の感想 ―
[一言] トム・ソーヤはアニメでもあまり見ませんでした。子供の頃は冒険ものが苦手だったようです(;^ω^) でもフォア文庫はすぐれた文庫だと思います! こころ は未読ですが、気になる作品の一つです。…
[一言] バトンの回答お疲れ様でした! Kobitoさまは、やっぱり重厚な感じだなぁと思って読ませて頂いたのですが、最後に「やかまし村のこどもたち」があり、懐かしく思い出しました。全然詳しく覚えていな…
[良い点] バトンお疲れ様です! 星の王子様は多くの人が挙げてるし、やはり名作ですよね。 自分はしっかり読んだことないハズなのに、内容はちゃんと覚えています。
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