第79回 子供の頃に読んで印象に残った絵本、覚えていますか?
しばらくぶりの、文芸コラムの更新です。
ちなみに、このコラムの更新を、待ってくれている人って、けっこう居るんでしょうかね?
現在ブックマークは82人の方がしてくれてるんですが、ほとんどの方とは、言葉を交わしたことがないので、なんとも実感がわきません。
でも、やっぱり、82人もいれば、中には、更新すれば毎回のように目を通してくれている方も、いるんでしょうね。
「言葉はかけた事がないけど、愛読者だよ~。」というそこのあなた……、ええ、あなたの事ですよ。
ありがとう~。これからも頑張るよ~。
さて、今回は、前回少し触れた通り、『絵本』に関する話題を、本格的に採り上げてみたいと思います。
振り返ってみると、第44回の童話作家、村山籌子さんの紹介コラムの中で、絵本に関する話題は少しだけ採り上げてはいるんですが、それ以外では、触れることなく過ごして来てしまっていた事に気が付きます。
いや、実は、正直に言うと、絵本に関する話題は、意識的に避けて来たテーマでもあるんです。
なぜといって、まあ大した理由でもないんですが、ともかく聞いて下さい。
昔住んでいた実家の二階には、大きな三つの本棚があったんですが、少なくともその二つには、絵本がかなりの割合で並んでいたように思います。
大小さまざまな絵本がありましたが、サイズが揃った絵本が並んだスペースもあって、それは、出版社が定期的に配本するタイプの絵本シリーズのコーナーでした。(各本に1~12くらいの番号が振られていたので、ひと月に一冊配本されるシステムだったんでしょうね。今考えると、読書家だった父が、子どもに本を読む楽しさを教えたくて、せっせと買い与えてくれていたのかもしれません。)
というわけで、私には幼い頃から、絵本に接する機会が、たぶん人並み以上にはあったのだろうと思います。
自分の事なのに、「たぶん」とか「だろう」なんて、推測みたいに言うのは、おかしい、ですって?
いや、それがね、今まで絵本をテーマに語ろうとして来なかった、最大の理由でもあるんですよ。
つまりね、あ、ごめんなさい、ちょっとお耳を拝借して構いませんか?
……ヒソヒソ(あんまり覚えてないんです。)
そう。そういう事なんです。
特に、子供の頃、どんな絵本を、好んで読んでいたのかを。
私の記憶力の特徴として、見たり説明されたりすると、ああ、そうそう、と促されて思い出せるんですが、そういう補助がないと、なかなかイメージが甦って来ないという、やっかいな性質があるんです。
でも、そんな頼りない記憶力の私にも、はるか昔に読んだ絵本の中に、今でも割合覚えていて、印象に残っている作品というのが、少ないながらいくつかあります。
これは、自分の好みの絵柄だったから覚えていられた、というのが、大きいようです。
なぜなら、話の内容は所々しか思い出せないけれど、絵柄や雰囲気は割合具体的に思い出せるからです。
なので、今回は、絵柄や雰囲気を思い出した作品が、何という作家さんの、何という作品だったのかを、文明の利器のインターネットの『検索機能』を駆使して、突き止めて行く、という遊びをやってみて、ついでに、私が子供の頃に好きだった絵本の作品紹介をする、という、出たとこ勝負の回にしたいと思います。
4冊探してみますが、はたして、皆さんの知っている絵本が、出て来るでしょうか。
まずは、検索のヒントとなるイメージを言葉にしてみて、そこから検索のキーワードを決めて行きますね。
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作品その①【とかげの影が他の動物の影を食べて大きくなって行く絵本】
・とかげは赤い。影は黒々している。厚塗りのくっきりとした絵柄。
この絵本は、子供の頃に読んだ絵本の中でも、最も印象に残っている作品です。
好きだった、というよりも、心に残った、という方が、しっくり来る、独特なほの暗い味のある絵柄とストーリーでした。
検索ワードは、試しに、「とかげ」「影」「食べる」「絵本」で行ってみましょう。
……お!早くも見つかりました。
これです、これです。
『とかげのテン』
作・絵:近藤 薫美子
出版社:ひさかたチャイルド
【あらすじ】
影が十個もあるのが自慢のとかげのテン。仲間の動物たちにその影を見せびらかしに行くのですが……。
虚栄心がいかに人の心を荒ませるかを、端的に描いた、教育的な内容なんですが、とかげの悪い部分に過度の誇張が無く、また、彼の弱い部分も、きちんと描けている事から、お説教的物語の嫌いな私でも、共感しながら読むことができました。
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作品その②【夜、散歩していると月がどこまでもついて来るという絵本】
・暗い背景に、月と散歩する人が明るく浮かび上がる、シンプルな絵柄。輪郭はくっきり。静けさを感じる、落ち着いた柔らかな画風。
これは、なかなか探すのが難しいです。
月夜の散歩というのは、絵本のテーマになりやすいように思ったんですが、画像検索すると、それほど作品数はないようで、数冊の絵本の画像が出ては来ますが、どれも画風が私の記憶の中の絵本とは違います。
と、ここで、重要なヒントを思い出しました。
その絵本は、しりとり遊びになっていた気がします。
「月、キツネ、ねこ……」みたいに、散歩の風景がしりとりで移り変わって行く作品だったような……。
そして、猫は確実に出て来ました。
試しに、「絵本」「月」「ねこ」「しりとり」「散歩」「夜」で検索したところ、出ました!
『ねこ・こども』
作: 佐々木 マキ
出版社: 福音館書店
意外にも、実際の絵柄は、私の記憶の中のイメージとは違って、もっと漫画的で、グラデーションのない平塗りの鮮やかな画風でした。
あらすじは、特になくて、しりとりで出てきた動物や物が、絵に反映されながら、散歩が進む、という内容です。その分、しりとりで何が出て来るか分からない意外性を楽しめるようにもなっています。
ん?でも、このしりとり形式だと、「月がどこまでもついて来る」という感じにはならないですよね。
もしかすると、『ねこ・こども』とは別に、月と散歩する内容の絵本が、どこかに存在するのかも。
「月との散歩の絵本って、ひょっとして、これじゃない?」と、読者さんに思い当る絵本があれば、作品名を教えて頂けるとありがたいです。
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作品その③【二匹のペンギンが浜辺に漂着したビーチボールを奪い合うお話】
この作品は、絵柄も内容も、かなりはっきり覚えています。
ざっくりとした童画のようなシンプルな絵、鮮やかな色塗り、南国風の海や砂浜の明るい情景が見事に表現されていた事も覚えています。
手始めに、「絵本」「ペンギン」「ビーチボール」で検索したら、なんと一発で見つかりました。
ペンギンとビーチボールの組み合わせは、オーソドックスなようで、案外珍しいようです。(珍しい組み合わせほど、検索での絞り込みは簡単になりますからね。)
『ペンギンのビーチボール』
作・絵: 渡辺有一
出版社: フレーベル館、(キンダーメルヘン)
あらすじは、上記の作品イメージそのままです。
ビーチボールを奪い合っているうちに、予想だにしなかったアクシデントが、二匹のペンギンに降りかかります。
子供の頃に読んで印象に残っている絵本全体に言える事ですが、どうも、私はこういった素朴で可愛らしい、キャラクター的でありながら童画的な絵柄が、昔から大好きだったようです。
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作品その④【水替えの時に誤って排水口に流してしまった金魚が大冒険するお話】
・漫画風のくっきりとした絵柄と平塗りのアニメチックな彩色
・金魚はお祭りの夜店の金魚すくいで女の子がすくった
これも、検索してみると、なかなか見つからないですね。
金魚の大冒険の部分をすっかり失念しているので、思い付く検索ワードも限られて来ます。
「絵本」「金魚」「排水口」で調べると、排水口の言葉の強さが勝って、パイプの洗浄剤の画像がたくさん出て来てしまいました。
うーん……、どうしよう。
いや、ちょっと待てよ。
金魚は、赤い出目金だった気がする。
それで、女の子が、出目金にまつわる名前を金魚に付けたような……。
金魚は結局、大冒険の末に、女の子の家に帰って来る内容だった気がするので、キーワードを、
「絵本」「帰ってきた出目金」にしてみる。
出た~!
『かえってきためだきん』
作: もきかずこ
絵: 尾崎 真吾
出版社: フレーベル館
そうそう、めだきんという名前だったんだ。それにしても、「かえってきた」のフレーズがドンピシャでしたね。記憶のどこかに残っていたのかもしれません。
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今回の『検索で絵本を探す』遊びで分かった事。
インターネットの検索機能って、やっぱりすごい!
その幅広い調査能力には、探偵も真っ青ですね。
しかも、何十年も前の絵本の画像が、どこかしらに掲載されている、ネットという世界も、実に驚異的です。
それから、私の絵本の絵柄の好みが、子供の頃は、割合漫画やアニメっぽいもの、という、今とは少し違う感性だった事が、意外でした。(今は、『不思議の国のアリス』の緻密なテニエルとか、童画色が強くて詩的な『星の王子さま』のサン=テグジュペリなどの絵柄が好きです。)
絵の好みは、あまり変わっていないかと思ったら、けっこう変わっていましたね。
そして、記憶の中のイメージと実際の絵本とを比べてみた時に、過去のイメージを、現在の自分の好みにすり替えていた部分が、かなりあった事にも気が付きました。
過去を美化する、という傾向は、こういう所から生じるんでしょうね。
いずれにしても、探そうとしたすべての懐かしの絵本を、見つける事ができて、大満足です。
皆さんも、子供の頃に読んだ絵本で、題名や作者名を思い出せないものがあれば、検索のキーワードを工夫しながら探してみると、見つかる事が多いので、ご興味があれば、ぜひ試してみて下さいね。