第64回 猫子の質問 (作・古寺猫子)
猫子「皆様こんにちは。美猫の古寺猫子です。
桜の季節もいつの間にか過ぎて、あれよあれよという間に、もう5月になりましたね。
お天気の良い日は、窓辺のフローリングに寝転んでいる事が多いんですが、日差しがぽかぽかを通り越して、じりじりと熱く感じる事もあります。でも、うだるような夏場や、肉球がひりひりかじかむ冬場に比べれば、まだまだ過ごしやすい季節ですね。
梅雨だって、雨は多いけれど、夏本番の前の涼しい時期、という点では、良い季節だと思います。
人間の世界では、今年の5月から元号が変わったとかで、どこへ行ってもその話題を聞かない事はありませんでしたが、猫の暮らしには全く関係がないので、どうして人間がそんな事にこだわるのか、不思議な気がします。
干支というのもあるし、星座というのもあるし、六曜というのもあるし、人間は年月日にあれこれ意味や言葉をつけて覚えるのが好きなようですね。そんなに好きなら、人気者なのになぜだか干支に入っていない猫を、十三番目の干支に加えて下さってもいいと思うのですが、どうして犬は入っているのに、猫は入れてくれないんでしょうね。ねえ、Kobitoさん?」
Kobito「うおっと。いきなりこっちに振って来るか。」
猫子「せっかく収録に居合わせたのだから、ラジオのディレクターみたいに黙ってちゃいやですよ。以前行なって下さった対談みたいに、今回も楽しくやり取りして下さいな。」
Kobito「居合わせたっていうか、ここ私の家だからね。勝手にコラムの収録を始めたのは猫子さん。」
猫子「細かい事は言いっこなし。お土産の蜜柑と桃のショートケーキ、美味しかったでしょう?」
Kobito「美味しくいただきました。」
猫子「私の手作りですよ。Kobitoさんの『お料理勉強帖』のエッセイを参考にして作ったんです。嬉しかったでしょう?」
Kobito「嬉しかったです。」
猫子「協力して下さいね?」
Kobito「はい。」
猫子「じゃあ今日は、『猫子の質問』と題して、日頃私が疑問に思っている事を、Kobitoさんに答えて頂きますからね。」
Kobito「答えられる事ならね。」
猫子「ちなみに、冒頭の、干支に猫を入れてくれない理由って何でしょう?」
Kobito「子供の頃、日本昔話のカセットテープで聞いたんだけど、干支っていうのは、動物たちが神様のところまで競争をして、早く着いた順に選ばれたんだって。」
猫子「え、徒競走ですか?」
Kobito「うん。だけど、必ずしも足が速い順に着いたのではなくて、策を用いた者、いさかいを起こした者、勢い余ってゴールを通り過ぎてしまった者など、レース中に順位が変動する出来事があって、ああいう順番になったらしいよ。で、猫が干支に入れなかったのは、ねずみが徒競走の開催日を教える時に、開催日の翌日を当日だと教えたせいなんだって。だから、猫は徒競走の翌日に騙されたことに気が付いて、それ以来、ねずみを恨んで、追いかけまわすようになったっていう事らしいよ。」
猫子「猫とねずみの関係に、そんな大昔からの因縁があったとは……。」
Kobito「猫を干支に入れると、せっかくこんなに面白い昔話があるのに、矛盾が生じて話が引き立たなくなるでしょう?だから、猫にはかわいそうだけど、今のままの方が私は良いと思う。」
猫子「確かに、猫は干支には入っていないですけど、サイドストーリーには登場していますし、面白そうなお話ですもんね。仕方がありません。〝猫を干支に入れようキャンペーン〝をクラウドファンディングで展開して資金集めをして、国政選挙の時に『猫を干支に入れる』と公約してくれる候補者を立てようと思っていましたが、当面見送ります。」
Kobito「そんな壮大な活動が計画されていたとは……。見送ってもらえてよかったよ。」
猫子「では、次の質問に移りますね。Kobitoさんは、『ずいずいずっころばし』っていう歌、ご存じですか?」
Kobito「古い童謡だよね。」
猫子「ええ。たしか明治時代くらいには、近所の子供たちが輪になって歌って遊んでいました。」
Kobito「へえ。実際に昔から歌われていたんだ。猫子さんの体験談を聞いて、実感として想像できたよ。」
猫子「それでね、『ずっころばし』って何なのか、ずっと疑問に思いながら、つい子供たちに質問するのを忘れていたので、この機会に意味を教えて頂きたいんです。『ずっころばし』の。」
Kobito「それは分からないなぁ。私も子供の頃、全編意味も分からずに歌っていたよ。本当になんだろうね、『ずっころばし』って。」
猫子「『ずっころばし』。」
Kobito「分かんない。」
猫子「じゃあ、別の質問に行きましょうか。」
Kobito「はいよ。」
猫子「私ね、どうも横文字の言葉を言う時に、上手く言えない時があるのですけれど。」
Kobito「そうだね。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』を、『バック・トゥ・ザ・フィーチャー』って言うよね。」
猫子「ええ。『フユ―チャー』のところ。」
Kobito「『フ』と『ユ』を分けて言わないで、中間の発音で言う。」
猫子「中間!『フ』と『ユ』に中間があるんですか。難し過ぎます!」
Kobito「難しいかなぁ。」
猫子「どうして上手く言えないんですかね?」
Kobito「年配の方が、横文字の言葉を言うのが苦手っていうのがあるよね。それと同じじゃない?」
猫子「私が年輩だから?」
Kobito「年輩だからっていうより、年配の方は横文字に慣れてない場合が多いから、それでじゃないかな。」
猫子「もう一つ苦手なのはですね、ほら、メリケン(アメリカ)の州の名前の一つで……。」
Kobito「マサチューセッツ州?」
猫子「そう。マサトゥーセットゥー州。」
Kobito「マサチュー。」
猫子「マサチュー。」
Kobito「セッツ。」
猫子「セッツ。」
Kobito「マサチューセッツ。」
猫子「マサトゥーセッチュ。」
Kobito「言えてないね。」
猫子「言えてないですね。」
Kobito「でも、ゆっくり分けて言うと、言えてるから、言葉自体が、早口言葉みたいに、間違えやすい面も持ってるんだと思う。」
猫子「そうなんですか。さすがKobitoさん。言えない理由が分かって、ずいぶんすっきりしました。ありがとうございます。」
Kobito「私も、『老若男女』とか、『きゃりーぱみゅぱみゅ』とか、さらっと言えない言葉があるから、言いにくい言葉があっても、さほど気にしなくてもいいと思うよ。」
猫子「ええ。もう全く気にしないようにします。『バック・トゥ・ザ・フィーチャー』、で良いですよね。」
Kobito「うふふっ。良いって事もないだろうけど、仕方ないね。それに、上手く言えないのって、何だか可愛い感じもするし。」
猫子「やったぁ。バック・トゥ・ザ・フィーチャー♪バック・トゥ・ザ・フィーチャー♪」
Kobito「バック・トゥ・ザ・フィーチャー踊りが生まれたwww。」
猫子「あ、あとですね、最後にもう一つ質問です。」
Kobito「何でしょう?」
猫子「以前から、Kobitoさんがこのコラム連載で公開したいとおっしゃっている、『ある特殊な文芸の様式』というのがあるでしょう?それって、どんなものなんですか?」
Kobito「ああ、それはね、特別珍しい様式ではないんだけど、知らない人もいるだろうから、紹介してみようと思ってね。でも、体験してもらうために書いてる作品がなかなか完成しなくて、投稿はもう少し先になりそう。ごめんね。」
猫子「詳しい事は明かせない、だけど、楽しい内容だから乞うご期待、といったところのようですね。これをお読みの方で、もしKobitoさんのヒントから、正解を思い当った名探偵デュパンのような方がおられたら、ぜひ私にこっそり教えて下さいな。もう待ちきれないのです。」
Kobito「デュパンって誰だろう……?」
猫子「え、デュパンを知らないなんて、もぐりですねぇ~。」
Kobito「誰の作品に出てる?」
猫子「ん~と、忘れました。」
Kobito「あらら。」
猫子「あ、違いました。ボストン在住の読書家のタビ―(縞猫)ちゃんから教わった名探偵の名前です。名探偵の元祖だそうです。」
Kobito「へぇ、そうなんだ。ちなみに、話を戻すと、文芸の特殊な様式ってそんなに種類はないから、すでに気が付いた人もいるんじゃないかな。私がどんな作品を書いているか、良かったら推理をして当ててみてください。刑事コロンボのように。」
猫子「コロンボって誰ですか?」
Kobito「えーっ!コロンボを知らないとは……。ほら、『うちのカミさんがねぇ~。』(頭を掻く仕草)。」
猫子「女将さんがどうかしたんですか?」
Kobito「ガクッ。」