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第58回 嗜虐心との戦い

嗜虐心しぎゃくしんとは、他者を傷つけることを喜ぶ性質の事です。極端な例で言うと、サディズムに近いですが、そこまで行かなくとも、人間には多かれ少なかれ、人の心を傷つけることで、優越感や自尊心を満たそうとする性質が備わっています。


かく言う私も、嗜虐心は少なからず持っていて、過去を振り返ってみると、家族や友人、知人に対して、色々と意地悪な事をしてきたのが、苦々しく思い出されますし、そういう性質を持った人から、嫌な目に遭わされたことも、数え上げればきりがないほどあります。


これらの嗜虐心を背景とした行為は、生まれ持った性質と、生い立ちから生じた性質の、二つが起因した行為だろうと思います。

世の中には、穏やかで優しい性質を強く持って生まれた人もいるので、そういう人は、表立って嗜虐心を満たそうとする事が、少ないのでしょうけれど、私が経験した限りでは、そういう人もいる中で、多くの人は、上記のような、優越感や自尊心を満たすためや、ストレス発散や、やっかみや、自分の気に入らない人間、自分よりも弱そうな人間、あるいは自分の倫理観に沿わない人間などを排除するために、嗜虐的な行為を、あからさまに、もしくはそれとなく相手に伝わるように、行なっています。


善良な性質を強く持って生まれた人は、こういう嫌な目に遭わそうとする人に出くわすと、なぜそんな事をするのか、と、とまどわされることが多いのだろうと思いますが、ある程度の嗜虐心を持って生まれ、成長する過程でそれを露わにした経験もある私から見ると、彼らの行為の裏にある心理は自分にもある心理として理解できますし、むしろ客観的に分析するような視点で見ることができます。


ただ、こんな風に、自分に嗜虐心がある、という事を、包み隠さずに話せるようになったのは、ある程度人生経験を積んだ後の事です。

以前の私なら、自分を良く見せるために、そういった性質や行為について隠し、そういう面がないかのように振る舞ってみせたでしょう。(つまり、自分の行為が、恥ずべきものだと、自覚していたのです。)


でも、ある頃から、「こんなに嫌な事をする人が多い世の中で、自分まで嫌な事をしていては、世の中はますます嫌な場所になるばかりだ。これまでに不快な目に遭わせた人たちへの反省も込めて、自分は嫌な事をするのは止めよう。」という気持ちになって来ました。

たぶん、嫌な目にたくさん遭わされたことで、自分の愚かしさを、反面教師的に学んだのだと思います。

今の私は、嗜虐心を抑制し、コントロールする事を心掛けるようになっています。


この心がけは、創作にも直接影響が出ていると思います。

まず、人をあざけったり、からかったりする表現を、避けるようになりました。

シニカルな視点は今でも嫌いではないんですが、そういう表現は、立場が弱い人に対してではなく、立場が強かったり、権力を持ったり、嗜虐心を露わにする人に対して用いるようになりました。

アマチュアの創作物だって、読んだ人には影響を与えますから、特に若い人には、気持ちがなごんだり、役に立ったり、善良さをはぐくみ伸ばすような、良いものを与えたいと思うんです。


シニカルな内容の作品だって、自己否定させることが目的ではなくて、何かしら気付きを与えたり、強い者に立ち向かう勇気を与えたりする、そういう作品にしたいと思いながら書いています。

(また、例えば、物語の中に、嗜虐的な人物を登場させる、という事は、避けていません。

登場人物が、みんな気持ちのさっぱりした人ばかりだと、物語の幅は、ぐんと狭くなってしまいますからね。話を盛り立てる役目として、そういう存在を上手く活用するなら、それは創作のテクニックの一つですから、問題はありません。)


今の、弱者に冷淡な社会状況(おのれも弱者の一人でありながら弱者をさげすむ風潮)や、残酷さを誇示する事を競うような市販の創作物を見ていると、それと対極にある、いかにも作り物めいた善良さではない真に温かい気持ちになれる作品が、もっと世の中には必要なのではないか、と思います。




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