第6回 ファンタジー世界を統べる 【後篇】
前篇の末尾で、ファンタジーの定義として、「現実にはあり得ない景色や出来事を展開する事」と書きましたが、では、この、〝あり得ない事〟とは、具体的にどういう事でしょうか。
景色については、地球上の歴史にはない特徴を持った地形や動植物や構造物を描写することで、ファンタジー色が現れやすくなると思います。
出来事で最も分かりやすいのは、『魔法』を用いることです。ほうきに乗って空を飛んだり、呪文を唱えて物体の性質を変化させたりする。まさしく、現実にはありえない事です。
ただし、ここで、問題になるのは、SFという分野の存在です。
SFとは、科学技術や宇宙開発を主題に据えた物語の事です。
SFの定義には、「今現在はあり得ない事だが、将来的にはあるかもしれない事」というニュアンスも含まれています。
つまり、宇宙旅行や宇宙戦争、もしくは異星での生活などの物語は、今現在はあり得ないけれど、将来的にはあるかもしれない出来事なので、ファンタジーと呼ぶよりはSFと呼ばれる事が多いのです。
同様に、登場人物や彼らが持つ能力の特異さについても、それが実現可能だと思わせる節があれば、SF色となって表れる場合があります。
ただ、例えば、「猫と犬のパイロットが鉛筆のロケットに乗ってお菓子の星に行く」、という内容の物語を想像してみると、いくら宇宙旅行の話でも、SFというよりはファンタジーと呼んだ方が自然ですし、逆に、「科学者から高度な知能をもたらすチップを埋め込まれた犬と猫が、ペンシル型(旧式)の宇宙船を操縦して、糖類を主な栄養元にしている生命の繁栄する惑星で行方不明になった科学者の捜索に向かう」という内容だと、物語の大筋は同じなのに、ファンタジーというよりはSFと言った方が自然、という事にもなるので、この二つの分野の境界線は、あくまでも感覚的なもので、明確な線引きはされていない、と考えた方がよいと思います。
(ちなみに、SFとファンタジーの中間の性質を持った分野として、『サイエンス・ファンタジー』という呼び名が用いられることもあるそうです。)
これまでに挙げて来た、〝ファンタジー〟であることの条件を読み返してみると、ファンタジーというのは、どうやら固有の様式を持ったジャンルというよりは、むしろあらゆるジャンルの物語に加えることができる、魔法の調味料のようなものなのではないかな、と思います。
その調味料の加減によって、物語は「本格的なファンタジー」になったり、「ファンタジー風味」になったりと、味わいが変化するのです。
調味料の加減を決める料理長は、ファンタジー世界の統率者でもある書き手さん、そして、ファンタジーが好きな読み手さんは、自分好みの味付けの物語を探し当てることを、料理店の食べ歩きをするお客さんのように楽しんでいる、という感じです。
どうです、美味しいファンタジー、書いてみたり、読んでみたり、したくなって来ませんか?
ファンタジーへの扉は、いつでも、皆さんの前に開かれているので、ご興味があれば、どなたも、お気軽に足を運んでみて下さいね。