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第56回 師走なので、この一年の猫子を振り返ります。(作・古寺猫子)

皆様、こんにちは。美猫の古寺猫子です。


ここ数日、暖かい日が続いたので、何だか12月じゃないみたいですね。

でも、やっぱり、12月なんですよ。

25日には、クリスマス。

31日には大晦日。

そして、次の日には2019年が来ます。

ああ、私達、もう師走しわすにいるんですよ。

一体、今年って、何があったかしら。

あまりに駆け足に過ぎて、出来事が起こる暇もなかったんじゃないかしら?

そんな風に思えても、改めてじっくり振り返ってみると、ちゃんと色んなことがあった事が分かって来ます。


1月は、前の年の暮れから、肥前(佐賀県)の実家のお寺に里帰りをして、父が本堂のリフォームをするのを手伝いました。(第27回のコラム)


2月は、私の眠れる絵の才能が開花しました。(第31回のコラム)


3月は、西川如見にしかわじょけん先生との思い出を、Kobitoさんに話して差し上げました。(第35回のコラム)


4月と5月は、豪華ゲストをお迎えして、ミヒャエル・エンデさんの傑作ファンタジー小説、『はてしない物語』の読書感想会を開催させて頂きました。(第40回~第42回のコラム)


6月は、猫史上初めての自作俳句集をませて頂きました。(第46回のコラム)


7月は……、Kobitoさんの出番が多めだったので、私の出番がなかなか回って来なくて、コラムの上では皆さんにお会いする事ができませんでした。でも、コラムの外では、肥後ひご(熊本県)の阿蘇あそ地方に一匹旅に行って参りました。人間に化けて、バスを乗り継いで肥後入りして、阿蘇山のふもとの可愛らしい牧場のペンションに泊まらせて頂いたんですが、窓の外は、見渡す限りに牧草地の青草が茂った丘陵きゅうりょうが広がっていて、風が吹くと草がさらさらと波紋のように揺れ動いて、まるで外国の景色みたいに美しかったです。


8月と9月と10月は、私の子猫時代の事と、姉弟きょうだい白珠しらたま姉さんとべんちゃんの事を皆さんにお話しする機会を頂きました。三百四十年も前の出来事を細部まで思い出してお話しするのは、本当に大変でした。(第50回~第52回のコラム)


11月は、屋台の石焼芋屋さんで焼き芋を買って帰る途中で、川内かわうちさん家の源太郎げんたろう(中くらいの柴犬の混血種)のつなが外れていて、追いかけられました。これは、コラムには載ってないお話です。

源太郎は、たとえ私が念入りに人間に化けていても、猫だとすぐに見破ります。

そして、ドッグフードやお菓子などでは決して手なずけられません。謹厳実直きんげんじっちょくを絵に描いたような犬です。

まあ、普段はしっかりつながれていますから、咆えられたってへっちゃらで、ちょっぴりからかったりもしていたんですけれど、その日は川内さん家の門前を通り過ぎたあたりで、いきなり犬小屋から飛び出してきて、吠えながら追いかけて来たので、さすがに度肝を抜かれました。

猫の姿に戻って、向かいの山根さん家のブロック塀に飛び上がって乗り越えて、からくも難を逃れましたが、その代わり、焼き芋の入った袋はその場に放置せざるをえませんでした。まだ一口も食べていなかったので、拾いに行きたかったんですけれど、源太郎がその辺をうろついていると考えると、怖くて近寄れませんでした。

私が山根さん家の門柱の陰から、恐々通りをのぞいていると、幸いな事に、川内さんの奥様が家から出て来られて、「こら!脱走兵!」と通りの向うの空き地へ向かって叱りつけて、駆け戻った源太郎を捕まえて、綱をつなぎ直しました。

それで一安心して、門柱を出た私は、焼き芋を拾いに行きましたが、川内さんの奥様は、ギョッとした顔で、私を見ていました。

気が付くと、うっかりして、猫の姿のまま、二本足で歩いていたんです。

私はきびすを返して、四本足で一目散に、向こうの三叉路さんさろの角へ逃げ込みました。

そして、通りをぐるっと回り込むと、人間の女に化けてから、反対の角を出て、門前に立ち尽くした川内さんの奥様の後ろから、歩み寄って行きました。

川内さんの奥様は、私に気が付くと、「あ、古寺さん、今ね、猫が二本足で歩いてた。」と、私が逃げ込んだ三叉路の角を指さしました。川内さんの奥様は、人間の姿の私しか知らないのです。

私は、焼き芋の袋を拾うと、うなったり咆えたりしている源太郎を尻眼に、

「源太郎ちゃんの綱が外れてて、追いかけられたものですから、焼き芋を放り出して逃げていました。」と説明してから、「猫って、時々人間の真似をして、二本足で歩いてみる子も、いるみたいですよ。」と付け加えました。

(猫が飼い主の真似をして、二本足で歩く姿は、動画サイトで見たことがあるので、うそではありません。)

川内さんの奥様は、「あら、ごめんなさい!」と、半ば上の空で謝ってから、

「そうなのねぇ。初めて見たから、びっくりしたわ。」と、どうやら納得してくれたようでした。

化け猫が素性を隠しながら、人間社会にとけ込んで暮らしていると、こんな風に、けっこうスリリングな事もあるのです。


ね、思い出してみると、こんなに色んなことが、今年もあったのです。

良い思い出も悪い思い出もありますが、たとえ悪い思い出だって、今ではいい経験になって、私を成長させてくれたと思えます。

新しい出会いがあり、悲しい別れもありました。

皆さんもきっと同じだろうと思いますが、一つ言える事は、猫生(人生)は一度きり、という事です。

猫でも人でも、色んな性格の方がいますから、自分に合わせてくれる相手だけを求めるより、違いを受け入れて楽しんだ方が、よっぽど心安らかな猫生(人生)を送れる気がします。

もちろん、どうしても性格の合わない相手もいますから、その時は仕方がないんですけれど、個性に類する違いであれば、面白いと思う余裕を持ってみてほしいな、と思います。

そういう相手になら、私は自分の素性を明かして、心置きなく仲良くできますし、相手だって、あれこれと取り越し苦労する必要が無くなって、楽になると思うのです。

そういう社会の雰囲気を、私も含めて、みんなで作って行けたらいいな、と思います。




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