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第44回 私の好きな童話作家 村山籌子さんの紹介


知人や仕事上の仲間と世間話をしていると、時々、「絵本が好き」、という方に出会います。

絵本というと、子供が自分で読んだり、大人が子供に読み聞かせたりするための本、というイメージがありますが、大人自身が(家に子供がいるいないに関わらず)、絵本が好きで収集されている、というパターンもけっこうみられます。

私はというと、やっぱり絵本が好きで、図書館によく読みには行きますが、家で収集はしていません。絵本って、新品だと一冊千円~千五百円程度と、けっこう値が張りますし、絵を楽しむために本のサイズが大き目な事が多いから、収納スペースの問題もあって、手元にたくさん置くという事が難しいのです。

図書館になくて買った絵本はありますが、それも読み終わった後は図書館に寄贈しました。


最近寄贈した絵本は、村山籌子かずこさんという、昭和初期に活躍した童話作家の作品です。

村山さんの作品には、旦那さんの村山知義(ともよし)さんが挿絵を描くのが定番です。

私が最初に籌子さんの作品に出会った場所は、ネット図書館の青空文庫でした。

その時、私は、宮沢賢治と同系の、詩的で凝った文体を用いる作家を探していたんですが、なかなか見つからない中で、ふと、難しい漢字の名前、『籌子』という表記が目に入り、何という読み方なんだろうという興味が湧いたことと、こういう古風な名前の人は、凝った文章を書くのではないか、という推測を立てた事で、彼女の作品を読むきっかけをつかみました。


籌子さんの文章は、児童文学にありがちな常套句を避ける、詩的で自由奔放な言葉選びと、突飛な物語の展開に特徴があります。

当時流行していたシュルレアリスムの影響もあるようです。それは、知義さんの可愛いような奇怪なような、(ヘタウマの味がある)摩訶不思議な挿絵の画風にも表れています。


短編の良作を、かなりの数書いていて、戦前に活動していた童話作家としては珍しく、短編集が今でも売られています。


私が買ったのは、絵本の『3びきのこぐまさん』と、短編集の3冊、『村山籌子作品集1・リボンときつねとゴムまりと月』、『村山籌子作品集2・あめがふってくりゃ』、『村山籌子作品集3・川へおちたたまねぎさん』です。


どの作品も、共通しているのは、子供の読者におもねらないで、作者の美意識を最優先にして書いた事が伝わって来る、詩的な質の高さです。


宮沢賢治に近い文体ですが、明らかな違いもあります。賢治の文体には、ロマンチストならではの、登場人物に対する親身さが表れているのに対して、籌子さんの文体には、登場人物を創造した者としての、割り切った透徹とうてつなまなざしを感じます。

ここが、読み手としては好みの別れるところでしょう。(知義さんの素人然とした挿絵については言わずもがなです。)

かく言う私も、賢治作品ほどには、籌子さんの作品に共感を覚える事はできませんでした。しかし、そもそも、詩心で童話を書く、という技巧自体、実現できる作家はごく一握りしかいないのですから、貴重なその一人である籌子さんの作品に出会えたことは、大変運が良かったと、感謝しなければいけない事だと思います。


誰にでもお勧めできる作家ではありません。

私が言っている、彼女の価値を、素晴らしいと思えて読んでみたいと感じる人だけが、分かる良さだろうと思います。


賢治が童話集『注文の多い料理店』のじょ(前書き)で言った、「なんのことだか、わけのわからないところもあるでしょうが、そんなところは、わたくしにもまた、わけがわからないのです。」という、分かりやすさの対極にある、創作行為の一つの方向性。


賢治や籌子さんのような作家は、子供向けとか、大人向けとかいう枠を超えた、知的な遊びのにない手です。そして、そういった作風の良さが分かる読者の中には、似た方向性の作家が他にいないかと探している、私のような人もいるでしょう。もし、そういう人が、彼らを見つける事ができたなら、その貴重な幸いを大いに喜ぶべきですし、私は紹介しながら、そういう出会いをもしかすると提供できるかもしれない、と想像して、心ひそかに嬉しく思っているのです。




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