第29回 レビューの書き方
以前、「このコラム『言葉の精練』で、レビューの書き方を採り上げてほしい。」というご要望があったので、今回は『レビュー』について、あれこれと考える中で、書き方のコツを研究してみたいと思います。
とはいえ、私自身は、過去にレビューを書いたのが一度だけで、それも難しさを感じながら書いたので、今回のコラムは、自分がレビューとは何かをより深く理解するために行う考察という意味合いが大きいです。
考察する前の、今現在のレビューに対するイメージとしては、『作品の良い部分の要約』、『作品から受けた感心や感動』、『作者への応援』、という要素が組み合わさって作られるもの、という印象があります。
この中で、感想欄に書く文章とは異なる要素はどれかと考えてみると、実は、どれも、感想として用いても通用するものばかりだという事に気がつきます。
試しに、上記の3つの要素を用いて、『感想欄に書く文章』を綴ってみましょう。
架空の作品に対する感想です。
〝武矢が、自分で作ったり、人を手伝ったりする事に喜びを感じるようになって行く、その変化の過程が、とても自然に、共感できるように描かれているのが良かったです。
便利さに慣れると、人は狭量になって行く面がありますよね。
武矢を大らかに受け止める、島の人たちののどかさが、現代では特に、大事なものに思えました。
素敵な作品をありがとうございました。〟
感想としては、どうやらきれいにまとまっているようです。
感想とレビューが、もし同じものであれば、この文章をレビューとして用いても、きれいにまとまっていると感じるはずですが、ではこの文章をレビューだと想定して読んでみた場合、どうでしょうか。
感想だと思って読んだ時ほど、文章的な適切さを感じない事に気がつきませんか。
これは、『感想』を贈る相手が、作品の事を熟知した作者であり、『レビュー』を贈る相手は、作品の事を全く知らない不特定多数の人々であることに起因する差異であろうと思います。
作品の事を熟知した人に、あえて作品の内容を詳しく書く必要はないので、私たちは普段、内容部分を省略して感想を書いていることが多いんですが、全く知らない人に作品の事を話す場合には、内容をある程度理解できるように配慮しながら書かないと、書いてある事と作品を結び付ける事ができずに、読んでもチンプンカンプンになってしまうという問題が生じます。
ですから、レビューを書く際には、読む人に作品の内容的な知識が全くない事を踏まえた上で、書くようにすると、レビューの内容が読者に伝わりやすいと思います。
つまり、上記の文章の、作品の内容の説明部分を加筆する、という事ですね。
〝瀬戸内海に浮かぶ、小さな過疎の島の、移住者を受け入れる取り組みをテーマにした物語です。我がままで自分勝手だった新宿生まれの小学生、武矢が、都会ほど物が豊富でない島での暮らしに馴染む中で、自分で作ったり、人を手伝ったりする事に喜びを感じるようになって行く、その変化の過程が、とても自然に、共感できるように描かれているのが良かったです。
便利さに慣れると、人は狭量になって行く面があります。もっと早く、もっと要領よく、他者に求めるものも、おのずと難易度が高くなってきます。
そういう環境に、知らず知らず心を狭くされて、自分自身追い込まれて疲れたり、イライラしている人も、多いのではないでしょうか。
武矢を大らかに受け止める、島の人たちののどかさが、効率優先の現代では特に、大事なものに思えました。
温かい気持ちになれる素敵な作品なので、ぜひ多くの方に読んで頂きたいです。〟
作品の内容を加筆するだけでなく、読み手が交流のない相手であることも考慮して、礼儀正しく語りかけるつもりで、言葉を選ぶようにしました。
レビューを書き慣れないうちは、上記のような推敲の段取りで、作者への『感想』としてまず文章を書いて、その後で、作品を知らない人のために情報を追加したり、言葉を改まったものにしたりして、『レビュー』に仕立てる、という手法を用いてもいいと思います。
不特定多数の人に語りかけるって、なかなか想像がしづらいので、筆が滞ったり、文章も固くなったり、よそよそしくなったりしがちです。
贈る相手を作者に定めて感想を書いた後で、その文章をレビューの素材にすると、感想で込めた親しみや共感の気持ちを、そのままレビューに反映させることができるので、文章的にも魅力的なものに仕上げる事ができるのではないかな、と思います。