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第28回 好みは変化する。 (一人のハーモニカ奏者の吹奏からの考察)


音楽の話ですが、文芸にも当てはまる事なので、お話ししますね。


マディ・ウォーターズという、アメリカの有名なブルースミュージシャンがいます。

1940年代にレコードデビューしたボーカリストで、ブルースのジャンルで、アコースティックギターからエレクトリックギターが主流になる転換期に活躍した、素晴らしいギタリストでもあります。


彼のバンドが1954年に録音した、『フーチー・クーチー・マン』という曲があります。

この曲でハーモニカを吹いているのは、リトル・ウォルターという人です。

力強くコクがあり、それでいてくどくないいきな吹奏が特徴で、ブルースファンの間では特に人気の高いハーモニカ奏者です。


フーチー・クーチー・マンの曲の冒頭、ウォルターはバンドメンバーの刻むリズムとは、何度かずれたタイミングで、少しよろめくような音を出しています。

聴き手によっては、「なんだ、有名なブルースマンらしいけど、やけに下手くそな演奏だな。」、と思うかもしれません。

でも、ウォルターはリズム感が無かったり、ミスでそういう演奏をしたのではく、曲への効果を狙って、意図的にそういう演奏をしたのだ、と私は思っています。


ウォルターがリズムにぴったりで、譜面通りの音を出したとしたら、それはスマートではあるけれども、ブルースが本来持っている土着的な野性味を失った、つまらないサウンドや演奏になってしまった事でしょう。


ただ、こういう表現の『良さ』を解説する時に難しいのは、聴き手によって、『譜面通りのスマートさ』を好む人もいれば、『土着的な野性味』を好む人もいるので、私が言うようなウォルターの演奏の美点を、万人が感じ取って納得してくれるわけではない、という事です。

『譜面通りのスマートさ』を好む人に、『土着的な野性味』の良さをいくら説いても、頭では理解できたとしても、感覚的には好きになれない、という事は往々にしてありますし、逆に、『土着的な野性味』を好む人に、『譜面通りのスマートさ』の良さを説いた場合も、しかりです。


人の好みや美意識は、本当に千差万別なので、リトル・ウォルターの演奏が好ましい演奏なのか、好ましくない演奏なのか、という事も、現実には聴き手によって受け止められ方が千差万別に変わってしまう、という事になります。


一方で、人の好みや美意識は、知識や経験によって変化して行くものでもあるので、対象物の良さが全く分からないと言っていた人が、突然良さに気がついて、むしろ大好きになる、という事もまた、それほど珍しい事ではありません。(皆さんにも、色の好みや食の好みなど、いろんな場面で、自分の嗜好が変化した事に気がついた経験が、あるのではないでしょうか。)


音楽に限らず、文芸にしても美術にしても、こういう鑑賞者の好みや美意識の変化も含めての、娯楽であり文化なのだ、という事は、一鑑賞者として心に留めておきたいものです。

なぜなら、あなたが気に入らなかった部分が、明日になると大好きになっている、という事も、全くあり得ない事ではないからです。

もし、それを考えないで、批判や批評を行なっても、それは現時点でのあなたを満足させる作品を基準にした意見に過ぎず、ひょっとすると、その作品にとっての最善の意見ではない可能性もあるからです。


もちろん、創作物を論評する、という行為は、創作文化の大切な一要素であり、受け手にとっての楽しみでもあるので、論評する自由は積極的に保護されるべきだと思いますが、作り手と共に文化を育んでいるという意識を、論評する受け手自身が持つことで、作り手と同様に多様な視点を提供し合って成長して行けたなら、文化はさらに豊かで、実り多いものになって行くのではないかな、と私は思います。



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