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第27回 年末年始の里帰りと、父と住職さんの事 (作・古寺猫子)

皆さんこんにちは。

美猫の古寺猫子です。

台風のように風が吹き荒れたり、かと思えば三月みたいに暖かくなったり、変な天気が続きますが、皆さんはいかがお過ごしですか?

気候の変化は、体調にも影響するので、調子を悪くされていると言っていた方々の事が心配です。

Kobitoさんが、そういう方々を元気付けてあげて、とおっしゃっていたので、今日は猫子のお話で和んで頂けるように、一生けんめいしゃべりますね。


私は、去年の暮れから、先日まで、肥前の山奥の実家のお寺に、里帰りをしていました。

そのお寺は上々寺じょうじょうじと言って、明暦元年(1655年)に創建された、割かし由緒のあるお寺なのですが、本堂が立てた当時から一度もリフォームしていないので(私は三百四十年前にそのお寺で生まれたので、今まで大きな手を入れていないのは確かな事です。)、白蟻にかじられたり、鼠にかじられたり、猫に爪を研がれたりして、あちこちガタがきているんです。

そんなに時代のあるお寺なら、重要文化財とかに指定されて、大事にされている、と思うでしょう。

でもね、そこのお寺の住職さんは、代々偏屈な人だったので、「形あるものは必ず滅する。これすなわち諸行無常のことわりなり。」なんて言って、役所の人が文化財の調査をしに来る度に、追い返してしまうんですよ。

だから、雨漏りの修繕とか、白蟻駆除とか、本堂の維持管理は基本的に、本堂に住んでいる私の父が、必要性を判断して、自分で修繕したり業者に頼んだりすることになっています。

費用は住職さんに請求しますが、これがまたけちんぼで、「諸行無常。色即是空。」なんて言って出そうとしないので、自然、父がありあわせの材料で自力で処置をする事が多くなって来ます。

あ、言い忘れましたが、父は古寺猫清ふるでらねこきよという名前で、化け猫業界では知らない化け猫のいない、押しも押されもせぬ、最古参の大化け猫です。(私と同じ、日本古来の毛色である明瞭な三毛で、目鼻立ちに生まれ持った気品と、人生(猫生)経験の豊かさから来る威厳と風格があります。若い頃は化け猫修行のために諸国を巡り歩いて、各地でたいそう浮名も流したらしいです。(化け猫協会のパンフレットの中の、『万国偉猫録』にそう書いてありました。))

幸いな事に、父は左甚五郎ひだりじんごろうに彫刻を習った事もあるほど手先が器用なので、本堂の修繕も人間に頼むより上手なくらいなんですが、さすがに一人では手が足りない事もあって、そんな時は私がお手伝いをする事にしているんです。

で、去年の暮れに、父から電話で、「本堂の傷んだ壁を張り替えるから、猫子の手を貸してくれ。」と頼まれたので、久しぶりに里帰りをした、というわけです。

壁の張り替えの首尾ですか?おかげさまで、私が手伝った甲斐もあって、三日ほどで無事に済んで、湿気で朽ちかけていた入り口の板壁も、見違えるほど綺麗になりました。(本当を言うと、お手伝いと言っても、私は時々休憩にお茶やお菓子を用意したり、近くで父の仕事ぶりを眺めている事の方が多かったんです。父は私の顔が見たかっただけらしくて、それでも満足そうでした。)

だけど、張り替えには父が拾ってきた真新しいベニヤ板を使ったので、古色然とした本堂の中で、そこだけピカピカで凄く違和感がありました。

父に指摘したら、「いいんだ。こうやって修繕を装いながら、徐々に新築住宅に建て替えるんだから。」という事でした。

私たち猫は人間と違って、古い建物に対するこだわりはないですからね。

ただ、生まれ育った建物が様変わりする、というのは、思い出が消えてしまうようで、ちょっぴりうら悲しさも感じます。

もしかしたら、父は私がずっとそこに住み続けられるように、新築にしてくれようとしているのかしら。

いかにも先々の備えが良い父らしいです。今度、電話で聞いてみましょうね。

だけど、本堂が新築住宅に建て替えられようとしているのに気にしない住職さんも、筋金入りの無頓着ですね。

ひょっとすると、住職さんも、私たちが暮らしやすいようにと思って、私たちが好き放題にしても構わないでいてくれるのかしら。

いずれにしても、ありがたい事です。

帰れる場所があるって、人間に限らず、猫たちにとっても、嬉しいものですからね。



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