第24回 プロットの立て方 【中編】
猫子さんとの俳句対談を挟んで、少し間が空いてしまいましたが、「プロットの立て方」の考察の続きを始めたいと思います。
前編の結びのところで、私は、プロットの着想の源は、過去の実体験や、他者の創作物からの影響だという事は分かっているので、深くは追究しない、と書いたんですが、プロットの立て方を論じる以上、そのアイデアがどこから生じたのかまで明らかにした方が、発生からプロット全体の完成までを追う事ができて、より楽しめるのではないかと思ったので、前回提示した登場人物のプロフィールを、まずは簡単に分析してみたいと思います。
名前 やすいれんこ
年齢 24歳
性別 女
身長 155cm
体型 細め
性格 律儀 淡白なようで情熱家 お笑い好き
特技 小説執筆 猫グッズの収集
身の上 駆け出しのファンタジー作家。最近愛猫のスギモトさんと共に里山に引っ越して来た。引っ越して間もなく、スギモトさんが行方不明になり、二週間後、家を訪ねてきたボロクルから、スギモトさんがグノームの里に居座って迷惑をかけていることを知らされ、連れ戻しに行く。
やすいれんこさんは、若い女性の主人公で、田舎に住み、偶然からグノームたちの世界に遭遇します。
この基礎的な設定は、アメリカのアニメ映画、『メアリーと秘密の王国』からの影響です。
この作品では、小人研究家の父の研究拠点である森の家に、メアリーが移り住む事で物語が始まります。
田舎に引っ越したのが〝小説家〟という設定は、ジブリアニメ『となりのトトロ』のお父さんのイメージから着想を得ています。
実際のお父さんは、小説家ではなく、大学の非常勤講師と翻訳の副業が仕事らしいんですが、私はつい最近まで大学での研究の合い間に小説を書く、作家志望の人だと思っていました。
猫が行方不明になって、後ほど問題を起こす、という設定は、『とつぜん!ネコの国 バニパルウィット』という、比較的マイナーだと思われる日本のアニメ映画がアイデア源で、その作品では、飼い犬が行方不明になって、猫の国で大あばれしていることが判明したため、飼い主の兄妹が連れ戻しに行く、という、魔法と異世界の要素を基軸にした物語が展開されていました。
やすいれんこさんの華奢な読書家風の風貌と、グノームの里、という環境設定は、那須正幹さんの児童文学、『ズッコケ山賊修業中』に出て来る、主人公の一人である「ハカセ」と、主人公たちが連れ去られる山奥の山賊の隠れ里が、アイデア源になっていると思われます。
ざっと考えただけでも、プロットの着想には、これだけの既存の作品が作用しています。
構想を練る時は、これらのバックボーンを振り返って好きな個所を抽出する事もあれば、どこから得られた着想か思い出せないまま、設定やストーリーが自作品に反映される場合もあります。
大事なのは、意識的に他者作品の数々を素材にして自作品のプロットを構想する場合に、読み手にバックボーンの存在を極力意識させないようにしないといけない、という事です。
もし、他者作品から受けた影響をそのまま自作品に組み込んだら、それは、真似、盗作、盗用、になってしまいます。
オマージュと言えば聞こえは良いですが、見方を変えれば有名作品で箔を付けているとか、想像力の欠如だと受け止められても仕方がないので、創作者のエチケットとしても、細部の設定を変更するなど、ひと工夫して、そういう受け止められ方をされないような配慮をすべきだと思います。
また、過去の読書体験や視聴体験が、プロットの着想の主な獲得源である以上、無意識のうちに着想が記憶の中の他者作品と類似してしまう、という事もあるので、創作の過程で時折こうやって自分の着想の原典を分析してみる事も、オリジナルな作品を作って行く上で、けっこう大事な作業であると言えます。
他者作品以外の、実体験に基づいて創作した作品が、他者作品と類似してしまった場合は、故意でない限り致し方ないので、そこまで気にする必要はありません。
では、いよいよプロットの続きを考えてみましょう。
まず、この物語の肝となる存在は、猫のスギモトさんです。私の初期の構想では、スギモトさんが荒らし回るグノームの里とは、裏山の地下に蟻の巣のように張り巡らされた坑道や、坑道を掘り拡げた広間といった、造成された地下空間全体を指す地名です。
グノームは身長が4.5cmと、人間の手のひらに乗るサイズなので、坑道自体はとても狭いと考えられます。居住空間はかなり広めに空間を取っていると想定しても、猫のスギモトさんがその居住空間にどうやって侵入したのかが、プロットのリアリティの面での課題になって来ます。
ここは謎として残しておいて、後で分かるという構成にすると面白そうです。
もちろん、グノームたちが太刀打ちできないのですから、グノームの里に侵入したスギモトさんは等身大のサイズでなければ辻褄が合いません。
ところが、主人公のやすいさんは身長が155cmなので、ここでもまた、グノームの坑道を通り抜けられないという問題が生じてしまいます。
スギモトさんと同じ侵入経路だとつまらないので、やすいさんについては、ファンタジーの手法で、グノームと同じサイズまで小さくなってもらう事にしましょう。
グノームというのは、スイスのパラケルススという人が1500年代に考え出した精霊の種族の名前で、彼らは知能が発達していて優れた工作の技能を持っている、という設定も付与されています。
この物語の登場人物として、グノームを選んだのは、その工作の技能を、プロットの難所を乗り切るための手助けにしようという目論見もあったのです。
ですから、やすいさんを小さくするために、グノームたちが発明した『一寸法師の水薬』というのを飲ませる事にします。これで、やすいさんは4cmくらいになって、坑道へ入って行けるようになりました。
ずっと先の展開を想像すると、4cmのやすいさんが、体長45cmのスギモトさんと遭遇するわけです。想像を膨らませて行くのが、俄然楽しくなりますね。
グノームの里は、坑道状なので、その中で畑など作って生活して行くためには、強い光源が必要です。
これも、彼らの科学力で、ヒカリゴケを改良して、ヒザシゴケというのを作ってもらって、居住区の天井に茂らせることで、植物の光合成が可能な明るさを確保する事に成功しました。
なぜ、これほど科学技術力のある種族が、猫一匹に翻弄されているのか、という疑問は、彼らの発明が成功も多ければ失敗も多い、不完全な水準でしかない、という事にすることで解決しましょう。
ボロクルの案内で、グノームの里に到着したやすいさんは、里人に紹介されますが、里人の総数と、物語の展開に関わる主要な里人の人数は、何人くらいが良いでしょう。
里人の総数が15人くらいだと、ちょっと寂しいし、1000人だと坑道状の里にしては繁栄し過ぎているので、ほどほどに多い300人くらいにしておきましょうか。
そして、その中の「固有名詞のある」主要な里人の人数は、物語の長さを基準にして決めましょう。
長編なら、様々な展開のバリエーションを確保するために、10人~15人くらいが良いでしょう。
あんまり多いと、読み手が覚えきれないですからね。
私が想定している短編~中編の場合は、筋書きをシンプルにしないと、詰め込んだ余裕のない感じになってしまうので、登場人物も少なめの5~10人くらいにして、一人ずつの出番を多くすることで、読み手がそれぞれのキャラクターに、より愛着を持てるようにします。
話の途中ですが、文章が長くなって来たので、今回はこの辺りで切り上げたいと思います。
「プロットの立て方」のコラムは、【前編】、【後編】の2回に分ける予定でしたが、今回分は【中編】という事にして、次回を【後編】という事にして終了という事にさせて下さい。
主要な登場人物の詳細設定と結末までのプロットは、次回考えてみたいと思います。
つづく