第19回 『文芸対談・猫子とKobito』
皆様、お元気でしたか。美猫の古寺猫子です。今日は、また新しい事にチャレンジしてみたいという事で、Kobitoさんと相談して、共作という形で、『対談』という名の作品を生み出してみることにしました。
どんな話になるのかは全く分かりません。なにしろ、対談とは、筋書きのないドラマなのですからね。
十月某日
猫子スタジオにて
Kobito「こんにちは。」
猫子「こんにちは。」
Kobito「あの、今回は、対談という事で、よろしくお願いします。」
猫子「こちらこそ、よろしくお願いします。お引き受けくださって嬉しいです。ありがとうございます。いつもは、コラムに私が登場しようとすると、必ず煙たがられるのに、どうして今回は、すんなり対談をお引き受けになったのでしょうか?」
Kobito「一つはね、読者さんが、私と猫子さんの会話するところを、今まで見たことがない、っていう事があって、会話するとこうなんですよ、というところを、見せておきたかった、というのがあるんです。このコラムは、文芸をより深く楽しむための論考の場であり、実験の場でもあると思っているので、新しい試みがしたいっていう猫子さんの提案は、その趣旨に沿う、という点で有意義だと思ったし、とても嬉しかったです。それと、もう一つは、どうも、今までのこのコラムでの猫子さんと私のやりとりの経緯から、読者さんの中に、私が猫子さんを嫌っていると思われている方もいるんじゃないかという心配もあって。」
猫子「好きなんですよね。」
Kobito「いや、普段は仲がいいですよっていう意味でね。それも、猫子さんが突拍子もない事をして私に迷惑をかけなければですよ。」
猫子「私、迷惑なんかかけたかしら。」
Kobito「どの口が言う。」
猫子「本当を言うとね。私、反省しているんですよ。この放送設備をKobitoさんのカードで買った件についてなんか、特にね。でも、せっかく揃えた設備ですから、こうやって有効活用できて良かったじゃありませんか。」
Kobito「その件については、深く話すと話がこじれて来ると思うよ?」
猫子「そうですね。私のためにもやめときましょう。じゃあ、Kobitoさんが、私に最初にコラムに出てみないかって声をかけて下さったのも、やっぱり文芸の実験?のためだったんでしょうか?」
Kobito「論考は話が堅くなりがちだから、猫子さんに毛色の違う話をしてもらって、」
猫子「生粋の三毛猫の中でも、私はわりと珍しい毛色ですからね。」
Kobito「そうだね。模様も凝ってて粋な感じ。それで、風通しを良くして、読者さんの気分転換をしてもらえたらいいな、と思ったのが一番の理由。だけど、実験への協力を依頼する気持ちもどこかにあったと思う。最初は、明確に実験の方向性を意図していたわけではないけど、私はファンタジーが好きだから、創作論という現実的なコラムの中で、猫子さんのような神秘的な存在に登場してもらう、という、入れ子構造を狙っていた所はあると思う。」
猫子「入れ子構造って何ですか?」
Kobito「例えば文芸作品で言うと、本の中で、書物が登場して、その書物の内容が語られるっていうような事。本の中に本が入っているでしょう。それが入れ子構造。」
猫子「ほんとだ。じゃあ、私がこのコラムの中で創作論を語ったら、創作論の中の猫子さんの中の創作論で、入れ子の入れ子構造。炒り子みたいですね。」
Kobito「なんでそこで炒り子が出て来るの。」
猫子「炒り子、好きなんですよ。」
Kobito「ちなみに、煮干しを炒り子って呼ぶのは、西日本だけらしいよ。」
猫子「え、そうなんですか。じゃあ、東北の人は炒り子って言葉は使わないんですか?」
Kobito「そこまでは分からない。煮干しを炒り子と呼ぶのは西日本での用法っていうのも、いまネットで調べて知ったくらいだからね。」
猫子「なあんだ。付け焼刃じゃないですか。」
Kobito「そう。私の知識なんか、総量は微々たるものだよ。今はね、ネットという百科事典があるから、誰でもすぐに博識になれる。これは、文芸作品の創作に関しても、影響している事だと思うよ。」
猫子「どういうふうに?」
Kobito「昔の人は、体験したこと以外の事について、調べ物をしようと思ったら、本を買ったり、図書館に行ったり、博識な人に聞くしかなかったでしょう。しかも、知りたい情報が、すぐに見つかるとも限らない。つまり、知識を豊富に持っている人は、すごく時間と手間をかけてそれを手に入れていたって事なんだよ。今は、知りたい情報のほとんどが、ネットを通じて瞬時に手に入るから、さっきの私みたいに、誰もが歩く百科事典になれてしまう。文芸でも、誰もが簡単に、自分の作品に豊富な知識を織り込むことができてしまう。」
猫子「それは、良い事なのではないですか?」
Kobito「もちろん、ものすごく便利で良い事なんだけど、一方で、知っているという事に重きを置き過ぎた作品も多くなって来ていると思う。」
猫子「知っているから知っていると書くのは、当たり前じゃないんですか。」
Kobito「うーん、説明が難しいけど、私は、知っているという事は、一番重要な事ではないと思うんだよ。その、一番重要ではないものが、作品で一番重要な位置を占めるようになったら、それはネットを閲覧して情報を得るのと、似たような感覚の作品になってしまう、っていう事になりはしないかしら、という事。」
猫子「分かって来ました。つまり、Kobitoさんは作品から、情報よりも、それ以外のものを求めてるって事ですね。」
Kobito「そう。情報はね、今は調べれば誰でもすぐに入手する事ができるんだから、それ以外の、書き手が読み手に贈りたいと思っているものが、私に感銘を与えてくれるかどうかが、大事だと思う。」
猫子「私の戯曲はどうでしたか。Kobitoさんに感銘を与えるものがありましたか。」
Kobito「うん。結末部分がとても良かった。心がこもっていたと思う。知識がお話の骨格になっている部分が多いから、それがちょっと気になったけどね。だけど、知識をふんだんに盛り込んだ作品が好き、という読者さんもいるから、一概に悪い事だとも言えない。私がネットの文芸への影響の良し悪しについてああだこうだと語っているのも、あくまでも私の好みの問題だからね。ただ、ネットが普及したことによる文芸作品の傾向として、知識が盛り込まれやすくなっているという事は、創作者として把握しながら作品作りに取り組んでみてもいいと思う。私も含めてね。」
猫子「いろいろ考えながら読んでくれたんですね。また書きたくなってきました。」
Kobito「うん。がんばって。だけど、この連載コラム内で作品を公開する時は、私に断りを入れてからにしてね。」
猫子「えへっ。」
Kobito「ぶりっ子しても、ごまかされません。」
猫子「でもね、Kobitoさんが言う、書き手が読者に贈りたいものっていうのは、私にとっては、いたずら心なんですよ。それを取っちゃったら、私、たぶん、単なる美猫になってしまうと思いますよ。」
Kobito「いたずら心以外にも、猫子さんには色々良いところがあると思うよ。いや、いたずら心が良いところってわけでもないけどね。」
猫子「嬉しいわぁ。Kobitoさんも良いところがたくさんあります。」
Kobito「どんなところ?」
猫子「私がカードで無駄遣いしてもあんまり怒らないところ。」
Kobito「いや、本気で怒ったけど?!」
猫子「うふふっ、さて、今日の対談はこのくらいにしときましょう。話し足りなかった部分は、また次の機会で、という事で。」
Kobito「うん、対談という形をとると、一人で論考するより、自分の考えがより整理できて良かったです。猫子さんも、聞き役に回ってくれてありがとう。」
猫子「次は、Kobitoさんが聞き役に回る番ですよ。私だって、話したいことがたくさんあるんですからね。」
Kobito「まさか、今回聞き役に回ったのは、次回、思う存分しゃべりまくるための布石では……。」
猫子「めっそうもない。」
Kobito「どうもあやしい。」