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第18回 女性語の役割

この論考では、女性語を用いる方を、「女性」としていますが、女性性を持った方も含めて論じているので、その点も踏まえて読んで頂ければと思います。

小説を書くときに、女性がしゃべる場面で、台詞の語尾に「わ」とか、「わよ」という女性語を付けて女性らしくする、という手法がありますよね。


「そうだわ。」

「そうじゃないわよ。」


という感じです。


でも、普段、女性が現実に会話しているのを見ていると、「わ」とか、「わよ」を用いている人はあんまり見かけないように思います。

よく見かけるのは、


「そうだよ。」

「そうじゃないよ。」


という。語尾に「よ」を付ける話し方です。(こういう、男女共通の言葉遣いをユニセックスと呼ぶそうです。)



一方で、女性が自らの会話文として書いた文章で、これらの女性語を用いているのを見かける事はよくあります。

女性語を文章で用いる女性と、現実で面と向かって話す機会が、これまで私にあったのかなかったのか、分からないので、文章と現実の話し言葉に差異があるのかも分からないんですが、女性語を文章で用いる女性は、日常会話でも女性語を用いているんでしょうか?


それというのも、以前、ルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』を、何人かの異なる翻訳者の訳で読んでみたことがあって、その時に、男性の翻訳者が、「女性語を現実の会話で使う女性は現代では少ないのだから、現代的な訳にするために、作中での女性の会話文には女性語を用いない事にした。」と、後書きで解説している本があったからです。


現代女性が女性語を現実の会話で使わなくなって来ている、というのはその通りなんですが、一方で、使う人も中にはいるわけで、会話で使う人っていうのは、もちろん文章でも女性語を使うでしょうから、逆に言えば、「女性語を文章で使う人は、日常会話でも女性語を使うのではないか」と、考えたわけです。

どうでしょう。

それとも、やっぱり、男性が文章で女性語を「話者が女性であることを表わすための役割語」として用いるように、女性も、日常会話では女性語を使わないけれど、文章では「話者が女性であることを表わすための役割語」として、記号的に用いているのでしょうか。


ちなみに、女性語を使わずに訳された『不思議の国のアリス』は、女性語を使って訳された旧訳よりも、文章的には面白さが損なわれていたと思います。

その面白味のなさは、「女性語が機能面や響きの面で持っている面白さ」を生かそうとしなかった、翻訳者の柔軟さを欠いたスタンスに起因していると思います。

非現実の摩訶不思議なファンタジーで、しかも1865年という今とは異なる文化様式の時代に刊行された書物の訳文に、現実的で現代的な雰囲気を付与する事に努めて、どうしようというのでしょう。

しかも、『不思議の国のアリス』は諧謔かいぎゃくが売りのコメディなのです。


むしろ、思い切り女性語を使った方が、時代を感じさせ、なおかつ荒唐無稽こうとうむけいさが強調されて笑いが取りやすくなる、というものです。(現代で会話に女性語を用いている人の事を、時代がかっているとか、荒唐無稽だと言っているのではありません。女性語が持ついくつかの効果の内の一端として、そういう作用を導き出す事ができる、という事です。)


小説を書く際に女性語を用いる手法が普及しているのは、それが作品の質を高めるために非常に簡易で有効な手段だからです。

・まず、会話文だけを読んでも、女性語が用いられていれば、女性がしゃべっていると一目でわかる便利さがあります。

男女が会話する場面では、どちらがしゃべっているか地の文で説明しなくても分かるので、会話文だけで長丁場を構成するという演出を取り入れる事が可能になります。

・女性らしい雰囲気を台詞の意味だけではなく語尾からも醸し出す事によって、人物の性格や性質を読者が直截的ちょくさいてきに感じられるようにする事ができます。

・そして、先ほど言ったように、日常あまり用いられない言葉だからこその、非日常の味わいを、小説の世界に付加する事で、作品全体の魅力をより引き立たせる事ができる、という利点もあります。


リアリティのある言葉が、文芸上必ずしも優れた効果を発揮するわけではない、という事は、特に書き手の私たちは、十分に念頭に置いて創作を行なうと、表現の幅を自ら狭めるような本末転倒の理屈にはまり込む事を回避できて、良いように思います。



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