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夢中にさせてあげるから  作者: 友崎沙咲
★★★★章
8/9

シリウス(焼き焦がすもの)

週明け、私は出張で関西に出掛けた。


帰るのは二日後。


行く前から、私の心は決まっていた。


愛児が好き。


姿形も、あんな風に私を見ていてくれた事も。


全部が『好き』に繋がっていった。


夢中?


愛児が私に?


本当に、本当に嬉しかった。


私にしたら愛児は『高嶺の花』で、一生関わり合う事などないと思っていたから。


『乃愛?』


『愛児』


あの後、教えた電話番号。


『乃愛』


『ん?』


『好きだよ』


『ん』


『お前は?』


愛児は、低くて落ち着いた、私の好きな声で笑った。


『好きすぎて、狂いそうでつい。ごめんな』


『明日帰るから……部屋に行ってもいい?』


『ああ。いいよ』


★★★★


翌日の夜、私は出張から帰った。


「はい!これ!お土産!」


私はニコニコして愛児に出張のお土産を手渡した。


「……なにこれ」


「さあー」


愛児は、イラッとした顔で私を見た。


「こんなの、どーすればいーわけ?スマホにでもつけろってか!?

こんなデカイゆるキャラスマホにつけてたら、イケメンが台無しだろーが」


私はムッとして愛児を睨んだ。


「恋人が買ってきたお土産にケチつけるなんて、最低!」


愛児が眼を見開いて硬直した。


「の、あ」


私は愛児の傍まで近づいて、彼の首に両腕を絡めた。


「愛児、私に夢中?」


愛児は眼を見開いたまま、答えない。


「もっと、夢中にさせてあげるから」


「…………!」


私は、息を飲んで固まったままの愛児を見上げて、目一杯微笑んだ。


「ね?夢中にさせてあげるから。

私が愛児に夢中なくらいに。

……愛児、大好き。凄く、大好き」


私は愛児の唇にキスをした。


以前愛児にされたみたいに、私は彼にキスをしてみたのだ。


けれど愛児は何の反応も示さなかった。


「…………」


「……愛児?」


……キスが下手すぎて呆れているのだろうか。


急に心細くなって、私は愛児にしがみついた。


「……気が変わった?やっぱり、私じゃダメ?なんか言って」


私は怖くなって俯いた。


「……だ」


愛児が何か言ったけど、私は聞き取れなかった。


「……なに?もう一回言って」


愛児が私の腰に両腕を回した。


「……生意気だって言ったんだよ」


「え」


「俺、まだ途中なんだけど」


私は少し眉を上げた。


「なんの途中?」


愛児が不敵な笑みを浮かべる。


ああ、その顔が何とも魅力的でグッとくる。


「お前を、夢中にさせてる途中」


「えっ?!」


急に、愛児が私を抱き上げた。


「あ、愛児っ」


愛児は、慌てる私を甘く睨んだ。


「俺を我慢できなくしたお前が悪い」


「あの、だけどっ」


愛児は私の唇にキスをして、フウッと笑った。


「……凄く、凄く、優しくするから」


「愛児……っ」


ああ今日も、あの夜のように、空いっぱいの星屑なんだろうか。


早く愛児に会いたくて、早く愛児に触れたくて、私は不覚にも大好きな夜空を、見上げてはいなかった。

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