シリウス(焼き焦がすもの)
週明け、私は出張で関西に出掛けた。
帰るのは二日後。
行く前から、私の心は決まっていた。
愛児が好き。
姿形も、あんな風に私を見ていてくれた事も。
全部が『好き』に繋がっていった。
夢中?
愛児が私に?
本当に、本当に嬉しかった。
私にしたら愛児は『高嶺の花』で、一生関わり合う事などないと思っていたから。
『乃愛?』
『愛児』
あの後、教えた電話番号。
『乃愛』
『ん?』
『好きだよ』
『ん』
『お前は?』
愛児は、低くて落ち着いた、私の好きな声で笑った。
『好きすぎて、狂いそうでつい。ごめんな』
『明日帰るから……部屋に行ってもいい?』
『ああ。いいよ』
★★★★
翌日の夜、私は出張から帰った。
「はい!これ!お土産!」
私はニコニコして愛児に出張のお土産を手渡した。
「……なにこれ」
「さあー」
愛児は、イラッとした顔で私を見た。
「こんなの、どーすればいーわけ?スマホにでもつけろってか!?
こんなデカイゆるキャラスマホにつけてたら、イケメンが台無しだろーが」
私はムッとして愛児を睨んだ。
「恋人が買ってきたお土産にケチつけるなんて、最低!」
愛児が眼を見開いて硬直した。
「の、あ」
私は愛児の傍まで近づいて、彼の首に両腕を絡めた。
「愛児、私に夢中?」
愛児は眼を見開いたまま、答えない。
「もっと、夢中にさせてあげるから」
「…………!」
私は、息を飲んで固まったままの愛児を見上げて、目一杯微笑んだ。
「ね?夢中にさせてあげるから。
私が愛児に夢中なくらいに。
……愛児、大好き。凄く、大好き」
私は愛児の唇にキスをした。
以前愛児にされたみたいに、私は彼にキスをしてみたのだ。
けれど愛児は何の反応も示さなかった。
「…………」
「……愛児?」
……キスが下手すぎて呆れているのだろうか。
急に心細くなって、私は愛児にしがみついた。
「……気が変わった?やっぱり、私じゃダメ?なんか言って」
私は怖くなって俯いた。
「……だ」
愛児が何か言ったけど、私は聞き取れなかった。
「……なに?もう一回言って」
愛児が私の腰に両腕を回した。
「……生意気だって言ったんだよ」
「え」
「俺、まだ途中なんだけど」
私は少し眉を上げた。
「なんの途中?」
愛児が不敵な笑みを浮かべる。
ああ、その顔が何とも魅力的でグッとくる。
「お前を、夢中にさせてる途中」
「えっ?!」
急に、愛児が私を抱き上げた。
「あ、愛児っ」
愛児は、慌てる私を甘く睨んだ。
「俺を我慢できなくしたお前が悪い」
「あの、だけどっ」
愛児は私の唇にキスをして、フウッと笑った。
「……凄く、凄く、優しくするから」
「愛児……っ」
ああ今日も、あの夜のように、空いっぱいの星屑なんだろうか。
早く愛児に会いたくて、早く愛児に触れたくて、私は不覚にも大好きな夜空を、見上げてはいなかった。