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夢中にさせてあげるから  作者: 友崎沙咲
★★★★章
7/9

ベガ(落ちる鷲)

「うん。偶然入った居酒屋のオーナーさん」


部屋に入ると、愛児はガチャッと鍵をしてボソッと呟いた。


「アイツはダメだ」


私はビックリして、リビングへと向かう愛児を追い掛けた。


「どうして?どうして分かるの?」


愛児は、私に背を向けたまま固い声を出した。


「お前の身体が目的なだけ」


本当に驚いた。


あの一瞬で、どうしてそんな事が分かるんだ!?


「なんで分かるの?あの一瞬で、分かったの!?」


愛児は返事をしない。


「ねえ」


「お前、バカなんじゃねーの?」


は?!


部屋に愛児のイライラしたような声が響き、私は次第にムッとした。


「あんた人の事、言えないじゃん」


険を含んだ私の声に、愛児がゆっくりと振り返った。


明らかに怒っていた。


でも私は、愛児の矛盾が何だか嫌で、言わずにはいられなかった。


「だってそうじゃん。キスしてきたり、誘ってきたじゃん。あんただって、ダサくて女子力低い私に、あんな事」


「苛つくんだよ、お前はっ」


「……っ!!!」


凄い早さで愛児に抱き締められて、私はそのままソファに押し倒された。


端正な顔に怒りの色を浮かべて、愛児は私を至近距離から睨むように見つめた。


そして、そのまま顔を近づけたかと思うと、愛児はまたしても私にキスをした。


まるで、私が自分のものだというように。


私は頭を左右に振って、愛児の唇から逃れようとした。


そんな私を見て、愛児は掠れた声で言った。


「……夢中にさせてやる、俺に。俺じゃないとダメだって、思うくらい夢中に」


愛児は私の身体を大きな手で撫でた。


それからうなじに唇を這わせる。


「っ……!」


熱い愛児の息が首筋にかかり、私は思わずビクッとして身体を反らせた。


「乃愛、乃愛、俺に夢中になれよ」


愛児は器用に私のワンピースのボタンを外した。


大きく開いた胸元に、彼が精悍な頬を傾けて唇を寄せる。


「やだ、やだよ」


「乃愛、俺に夢中になれって。そしたら俺、」


「怖い。愛児、怖い」


愛児がピタリと動きを止めた。


熱をはらんだ瞳が私を捉える。


私は震える声で言った。


「したこと、ないの」


愛児が眼を見開く。


私は、恐怖と羞恥心から生まれた涙を止めることが出来ずに、子供のようにしゃくり上げた。


「この歳でしたことないなんて、愛児からしたら気持ち悪いかも知れないけど、私は誰ともしたことないの。怖い、怖いよ愛児。こんなの嫌。

私は……私は、好き同士な人としたい」


「俺が好きだって言ったら?」


一瞬、日本語に思えなかった。


「……え?」


「乃愛の事、ずっと好きだったって言ったら?」


私は信じれない思いで愛児を見つめた。


「お前の事が好きで、我慢できなくなって、DVDだって、ワインだって、生ハムだって、全部お前と一緒にいたかったから、頑張ったって言ったら?」


「愛児……」


愛児は切なそうに瞳を揺らした。


「ダサいなんて思ってない。女子力低いなんて思ってない。

なのに、俺の言った言葉でお前が凄く綺麗になったから、俺は焦った。

案の定、お前に他の男が近づいてきて、なのにお前は隙だらけで、我慢できなかった」


私は何も言えなくて、ただただ愛児の綺麗な顔を見つめた。


「本当は、先に俺に夢中になって欲しかった。それから好きだって言いたかったんだ。何となく流されて付き合うんじゃなくて、しっかり俺を好きだと自覚した乃愛と、付き合いたかったから」


愛児は続けた。


「乃愛、俺はお前が好きだ、もうずっと長く」


私は愛児の胸を叩いた。


「バカ!バカバカ!なんでもっと早く言ってくれなかったの」


愛児は私にチュッとキスをしてから、息がかかる距離で言葉を返した。


「お前を見ると緊張したし、断られるのが怖かったんだ」


私は僅かに首を振った。


だって信じられなかったんだもの。


全身イケメンの愛児が私を見て緊張?


あり得ない。


「お前の、真面目で、誰に対しても分け隔てのないところが好きだ。

このマンションに住んでる若い夫婦の荷物を持ってやったり、老夫婦の小さな文字の書類に眼を通してやったり。

泣いてる子供の目線に合わせて身を屈めて、一生懸命話を聞いてやるところも。仕事の電話だって聞いたことがある。

真っ直ぐで、いつだって真剣な乃愛が好きだ」


いつの間に、そんなに見られていたんだろう。


いつの間に。


愛児が切なそうに微笑んだ。


「……本当は直ぐにでも返事が聞きたい。

けど俺、ずっと待ってるから、いつか返事を聞かせてくれる?

夢中にさせたかったのに……随分カッコ悪いけど、待ってるから」


私は頷いた。


「うん、ちゃんと考えるから、待ってて」


私は一生懸命笑った。


「でも、夕方の唐揚げは、教えてくれる?」


「……いいよ」

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