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夢中にさせてあげるから  作者: 友崎沙咲
★★★章
6/9

リゲル(巨人の左足)

翌日の日曜日。


私は髪をブローし、念入りに化粧をした。


アイメイクを勉強して、アイラインをひくと、我ながらいい感じだと思った。


足首までのブラウン系のエスニック風ワンピースを来て、私はふと思った。


マニキュア、買いにいこう!


私は設計士で、CADを操作しなきゃならないから、爪はあまり伸ばせないし、付け爪も仕事に支障が出る。


けど、マニキュアを塗るだけなら全然問題ない。


お腹も空いたし、出掛けよう。


時計を見れば午前九時を過ぎたところだった。


……今日こそ、アイツと出会わないようにしなきゃ。


私は神崎愛児との出来事を思い出しながら頭をぶんぶんと振った。


……忘れよう。


アイツは多分、女に見境がないんだ。


だから、ダサくても女子力低すぎても、狙える獲物はなんでも狙うんだ。


ハイエナ並みに意地汚い……いや、ハイエナがどんなだか、イマイチ分からんが。


とにかく、関わるのはよそう。


私は、あーゆー男じゃない男を探すんだ。


とにかく、女子力を上げる。


ダサくない女になろう。


……なら、外食しないで炊事?


ほら、彼氏に手作りご飯とか。


私はドアに鍵をかけながら、彼氏に手作りご飯をご馳走している未来を想像した。


『乃愛の手料理、凄く美味しいよ』


『俺のために料理を頑張ってくれるなんて。乃愛、愛してるよ』


とか、言われたりして!


いやーん、嬉しいかも、嬉しいかもっ!


「なに、ニヤニヤしてんだよ」


「うわあっ!」


しまった、自分の世界に入りすぎて、隣の気配を窺うの、すっかり忘れてたじゃん!


もおーっ、なんなのよ、全くっ!


私は眉を寄せた。


「こんないい男と鉢合わせして、舌打ちすんじゃねーよ、失礼な女だな」


私は愛児を一瞬だけ見ると、無言でその場を離れた。


「おい、無視かよ」


そう、無視。


エレベーターのドアの前で愛児が私に追い付いた。


「もしかして、今から飯?」


「だったらなに?」


「一緒に行こーぜ」


「やだ」


「なんで?」


「キスされるしベッドに誘われるし、ダサい女とか、女子力低すぎとか言われるのが嫌だから」


チラッと愛児を見ると、彼は私を見つめていた。


「……」


「……なに?」


愛児の瞳が揺れた気がした。


「なによ」


「……もうしないし、言わないから」


エレベーターの扉が開いた。


「なにしてんの、早く乗ってよ」


私がそう言うと、愛児は我に返ったように乗り込んできた。


「なあ、もうしないから飯食いに行こう」


私は愛児を見つめた。


「大体さ、あんた、イケメンだし、女に不自由してないでしょ。他の人と行けば?

私ね、今日はマニキュア買って、それから食材調達して自炊するの」


「自炊?」


「そ。料理を勉強するんだ。未来の彼のために」


エレベーターが一階につき、私は歩き始めた。


「いー事考えた。俺が教えてやるよ、料理」


私はピタリと足を止めた。


「俺、料理めちゃくちゃ得意なんだ。特別に無料で教えてやる」


……それはすっごく魅力的な話だ。


そして無料。


「しかも、男の俺なら、男に喜ばれる料理を教えてやれる」


うーっ、いい話だ。


でも……。


「私の事、虐めたりしない?」


愛児は、瞳に力を込めて私を見つめた。


「絶対、虐めない」


「本当に料理得意?本当に無料?」


「得意だし無料」


「週に何度?」


「何度でも」


私は迷った挙げ句に頷いた。


「じゃあ、教えてもらおうかな」


「……っ!」


愛児がギュッと眼を閉じて、小さく拳を握った。


んっ!?なに、今のガッツポーズは。


私が眉を寄せて見ていたら、ギクリとしたように愛児が口を開いた。


「大きな意味はないぞ!『何かにつけて女に断られない記録』を更新した喜びを表したまでだ」


「はー?何でもいーわ」


「ほら、行くぞ乃愛」


「年下のクセに」


「ばーか!俺は先生だぞ」


「…………」


★★★★


愛児が言う通りの食材を選び、私達はマンションに着いた。


「俺の部屋で作ろうぜ」


「それは悪いよ。光熱費上がるし。私の部屋でいいよ」


私が愛児を見ながらそう言うと、彼は軽く頷いた。


「分かった」


「先生、何を作るんですか?」


私がそう言うと、愛児は驚いた顔をして手を止めた。


「先生?」


「先生って呼ぶな」


「え?どうして?!」


「愛児って呼べ。じゃないと教えない」


……めんどくさ。


私は内心そう思ったけど、素直に愛児と呼んだ。


愛児は、ニコッと笑った。


その途端、私の心臓はバクバクと煩く響き始める。


なに?!


イケメンの笑顔って、心臓によくない、反則だよ、反則!


★★★★


愛児に、出汁の取り方を習い、私はお味噌汁の美味しさに感動した。


朝食を食べた後、唐揚げの仕込み方を習った。


「こうして、タレに漬け込んで数時間寝かしておく。で、食べる前に片栗粉、卵、水で作った液に付けて揚げる」


「はい」


仕込みを終えてキッチンを片付けると、愛児は私の部屋を見回した。


「……想像より綺麗にしてる」


「ありがと」


「お前、これからどーすんの?」


時計を見ると昼前だった。


「朝御飯遅かったから、お腹すいてないしなー」


あっ!


私は愛児を見つめて言った。


「……あのさ、タダで教えてもらうお返しに、何か私に出来る事、ない?掃除機かけるとか、窓拭きとか……」


愛児は、微かに眼を細めて眩しそうな顔で私を見た。


「じゃあさ」


「うん」


「今から俺の部屋、来て」


「変なことしないなら、いいけど」


「自意識過剰かよ」


「なによ、キスしたくせに」


「お前だって抱き付いてきたじゃねーか」


「だって……」


「だって、なに?」


愛児が甘く笑った。


「多分、酔ってて」


「……いーから、来いよ」


「うん」


胸がドキドキするんだけど。


いや、分かってる。


愛児は、私に何の感情もないって。


だって私はダサい女だから。


部屋から出たところで、私は思いがけない人に出会った。


「乃愛ちゃん」


「……山城さん!……どうして!?」


山城さんは、ニコッと笑った。


「親友がこのマンションに住んでるんだ。あ……と、こちらは?」


山城さんが、愛児に眼を向けて少し頭を下げた。


「お隣さんです。今日から料理を教えてもらう事になって、たった今、唐揚げの仕込みが終わったんです」


愛児は、唇を引き結んで山城さんを見つめた。


山城さんは、フワリと笑った。


「乃愛は、料理苦手なの?俺が教えてあげようか?これでも飲食店のオーナーだし」


「え、料理得意なんですか?」


「昔は自分で料理を出してたんだよ」


「へえ!凄いですね!」


私が驚くと、山城さんが私に近づいて手を伸ばした。


手の甲で優しく私の頬を撫でると、白い歯を見せて笑った。


「今度、俺の家に招待するよ。手料理を御馳走するから」


「はい!」


「じゃあね。近々電話する」


私は山城さんに手を振った。


……料理の出来る男って、いいな。


うん、いいわ。


「おい、行くぞ」


愛児の声が頭上で響き、私は我にかえって返事をした。


玄関を開けながら、愛児が私にムッとしたまま問いかけた。


「今の奴かよ。この間声かけられて一緒に飲んだ奴って」

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