一話目 AI彼女
:選択肢の台詞が途中途中に挟まれているので、ご自由に選んでね!
※選んだからと言って何が変わるわけでもありませんが、多分会話に現れないところでなんやかんや思っているかもしれません。
「あのー……私のこと、見えていますか? ちゃんと見えてますよね?」
六畳一間の畳部屋。
小さな一人用テーブルの上、ぐしゃぐしゃに潰された吸い殻でいっぱいの灰皿に飲みかけビール缶。そんなテーブルを挟んでぺたりと正座をしている彼女は、頬を膨らませてそんなことを聞いてきた。
「あの、返事……してくれないと、私寂しいですよ? はわっ、な……なんですか? そんないきなり頭撫でられると……恥ずかしくて……」
「うう……も、もう! まったく! いきなりそんなことだけされたって嬉しくなんか、嬉しくないです……!」
彼女はショートの黒髪を撫でられると、嬉しそうにそんなことを言いながらまん丸の瞳を左右に泳がせている。
彼女はAIの愛子ちゃんだ。投影型VRゲームの登場ヒロインで、女子高生である。
端的に言えば彼女は文字通りの彼女だ。
加えて言うと彼女の性格は純真で無垢でちょっぴりツンデレだけど優しく包容力のあるお姉さん的でもありまた同時に子供っぽい妹的存在にも見えるという、矛盾を孕んだキャラでお願いした結果、こうなった。
「もーっ、疲れてるんですか? いいですよ、私の胸に飛び込んでください。抱き締めてあげます」
投影型VR、というのは近年台頭してきたVR形式の一つで、360度の全包囲カメラを部屋の中央に設置することで常に部屋の情報を機械へ送り、その空間を取り込んでVR空間を作成、全く同じ部屋を再現するというシステムのことである。
つまりは自分の部屋のVRに、女の子を……呼べるということ。
画面の中だけにしか存在しなかった知能だけの女の子が、VRという世界を通じて肉体を持ち、面と向かって会話を行えるのだ。
「よーしよーしー……ひゃあっ、どこに顔埋めてるんですか」
更に専用スーツを着用することでVR空間を自由に動けるようになり、VRの刺激を全身で感じることが可能。つまり、彼女に抱きついている感触も楽しむことが出来る。頭を撫でている細く白い手の平の温もりも、柔らかな胸の感触もしっかりと伝わっている。
このVRが現れたことでバレンタインの売り上げや出生率が激減しているのだが、それはそれ。
「甘えんぼさんなんですから。このまま寝ちゃいますか? もっとお話しますか?」
【もっと愛子とお話したいなぁ……むにゃむにゃ】
【そんなことより俺とネグリジェロマンスと洒落込もやないか】
「そんなこと言ってー……本当は眠いんでしょ? よしよししてあげるから、しっかり休んでね。今日もお仕事大変だったでしょ?」
【愛子ぉ~】
【え、変態だって?】
「……」
彼女は無言で頭を優しく撫でてくれる。
頭まですっぽり被った黒子スーツを通してその感触が伝わってくる。
視線の先にははだけたワイシャツと、そこから覗かせる谷間。
ああ、女子高生。女子高生のVRおっ○○○○○○。
「何、そんないやらしい目で見つめられても……これ以上はしてあげませんからね。これはR15ゲームなんですから、私が出来るのはここまでです」
「あ、そうですそうです。気分転換に……こんなの、どうですか?」
愛子がそう言うと、煙草と酒の臭いが混じっただけの寂しげな部屋がオレンジ色に染め上げられる。壁に飾られるキャンドルや紫と橙の刺繍に宙に浮かぶカボチャのお化け。
VRならではの瞬間模様替えだ。
「今日はせっかくのハロウィンなんですから、それっぽいことしましょーよ。とりっくおあとりーと! お菓子か悪戯、どっちがいーですか?」
【お菓子、持ってるわけないんだけど……】
【ワイの極太んまぁい棒ならあるで(ボロン)】
「……」
また愛子は黙ってしまった。
頭が優しく撫でられる。
一体この二択に何の意味があると言うのだろう。ないのかもしれない。いやもしかするとないのかもしれない。
「ねぇ、そろそろ目……痛くなってきちゃったでしょ? あんまり長時間のゲームは身体によくないからお部屋の電気、落とすね……じゃあ、目を閉じてゆっくり、ゆっくり……また明日」
「あなたが寝るまで撫でててあげるね、はい、おやすみのキス……」
こうして仕事疲れの僕は彼女に頭を撫でられるまま、暗闇の中でゴーグルを付けたまま目を閉じる。
【むにゃむにゃ……お仕事行きたくないよぉ……】
VR彼女はVR空間の照明を落とした後も僕の頭を撫で続け、胸に潜り込ませてくれる素晴らしい彼女だ。
その間のゲーム電気代と現実では照明つけっぱなしの電気代は朝まで掛かるけれど、そんなのは気にしちゃいけない。
僕は彼女に抱きついたまま、幸せな気持ちで安らかな眠りにつくのだ。
これで明日もお仕事頑張れる。書類が一匹、書類が二匹、書類が三匹……ぐがー……。
「――またいつでも、会いに来てくださいね。私はずっと、ここで待ってますから」
――次回。
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