覇剣と青年
はるか昔、大地は焦土となり、天は裂け、何百日と雨が降り続き、地に生きる全ての存在が滅びかけた。
それは神の所業ではない。それは唯一本の剣がもたらしたもの。
その剣の名を閃天慟地――。
それが遂に――――――――
破られた日記・執筆者不明より
北の大地は長い間不毛の土地であった。その地に泰然と一本の剣が突き刺さり、誰の手にも抜けず何年、何百年と月日が経っていた。
不毛であった地も今では多くの村々が出来、強大な国が興る。
辰燿と呼ばれる北方最大の国。
その辰燿と深い繫がりを持つことになる小さな一族があった。
この世界では様々な特殊な力をすべての人が持ちながら生まれる。
それらの力を天劫と呼び、力の大きさも種類も様々だが、その一族は規模も矮小であり、常に外部からの侵略に怯えていた。
この一族の特出しているところと言えば、その容姿だけであったと言えるかもしれない。
銀蒼の民。彼等はそう呼ばれていた。
蒼き瞳に白銀の髪、月の女神に加護されし民。彼等は美しい見目をしていた。
そんな見目だけと言われた一族が大国と比肩する、或いは大陸全土を凌駕する程までに恐れられる。
唯一本の剣――そしてそれを手にした男。
銀蒼に現れた一人の存在がこの一族の未来を変えた。
多大なる栄華と、滅亡へと――。
男は全てを失い、それでも生き続ける。
男の名の意味する通り、止まることなく歩み続けた。男には愛する者達を失う事になっても、欲しかったモノがあった。感じたい想いがあった。
重苦と悔恨、そして内に湧いた静穏。
男は在り続ける。一本の剣と共に――。