優しい人
半分夢の中にいる意識の中で
隣で寝てたはずの人が起き上がったのを感じた。
「…遥斗、どこいくの?」
遥斗は少しビクッと震えて、それから少し寂しそうに微笑んで、私の頭を撫でた。
「どこにも行かないよ。」
私をこんな風にしてしまったのは
こんな風に遥斗に依存してしまうようになったのは
きっとこの優しさのせいで
遥斗が愛してる人は
本当はもうとっくの前に他にいるって事くらい
気付いてて
それでも気付かないふりをして
弱くてズルい自分に蓋をして
こうやってまた遥斗を縛っている。
遥斗は羽織った上着を脱いでため息をつきながら携帯をいじっている。
もしかしてあの人に行けなくなったって連絡してるのかもしれない。
こんな時に私が感じるのは
優越感じゃなくて
罪悪感。
早く遥斗を私から解放してあげたいのに
自分が壊れるのが怖くて
また抱き締められた時の温もりにすがって
ごめんね。
ごめんなさい。
私はぎゅ、と目をつむってパッと開いた。
「ね、今日は私も出かけるんだ。帰りはいつになるか分からないから、どこかに出かけるなら鍵を閉めておいてね。」
「え…」
何かを言いかけた遥斗を無視して私は身支度をした。
出かける予定なんてあるわけない。
私には家族もいないし、友達もいないし、遥斗しかいないんだから。
玄関のドアがこんなに重いと感じたのはいつぐらいぶりだろう。
遥斗の心移りに気付いたあの朝以来だろうか。
遥斗が帰って来なかった、あの朝。
アパートの階段をおりる。
帰ったら少ない荷物をまとめて
次はどこの町に住もうか。
きっともうこの部屋には私の居場所は無いから。
仕事は幸いにも在宅でも出来るから
明日会社に行って引き継ぎの手続きをしよう。
手続きが終わるまでは近くのビジネスホテルにいればいいし。
そんな事を考えながらコーヒーショップに入る。
席に着、ふと前の客が忘れて行っただろうメモ帳が目に入った。
おもむろペンを取り出した。
今までありがとう。
長い間縛ってごめんなさい。
どうか幸せになって。
バイバイ。
ハラリと涙が溢れて文字が滲む。
泣いていたなんて思われたくない。
慌てて涙を拭って書き直す。
なのに涙は止まってはくれなかった。
ずっと
ずっと一緒にいられたら
他には何もいらなかったのになあ
やっとの思いでメモを書き終えてそっと席を立った。
ドアを開ける直前にウエイトレスがティッシュをくれた。
その優しさが嬉しくてまた泣けた。
アパートに戻ったらきっと遥斗はいないだろう。
荷物を詰めたら机の上にメモを置こう。
鍵は大家さんに返した方がいいのかな。
優しい思い出は
優しいままで
優しい人は
優しい人のままで
こんなにも脆い私が
ほんの少しだけ強くなれるように。
書いている途中だったものを一気に仕上げたので最後グダグダになってしまいました。遥斗サイドのお話はまた後日に書けたらいいなあと考えています。




