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メアド
職場での私の立場はかなり微妙だった。主婦感覚がうけて施設利用者からの信頼も厚くなった一方、私を毛嫌いする職員も現れた。その人は少し私よりも年下で独身女性だった。その人との勤務は針のむしろのようにきつかった。厳しい目つき、口調は明らかに私を嫌っていてそのことを隠さなかった。そして誰もその人を咎めることもなく、私は女性職員の中で孤立していった。
誰にも悩みを話せないで辛いなと思った時だった。彼が話しかけてきた。
「なんか、あったんすか?元気ないすよね」
どうしてわかるの?と思うと同時に涙があふれそうになった。大丈夫、大丈夫と言ってその場を離れた。
彼はわかってくれている、彼は私を見てくれている。そんなあり得ない妄想がまるで本当のことのように思えた。あとでたまたま二人になったとき、私は自分の立場が辛いことを初めて打ち明けた。
「居場所なくってね」
彼は笑って、心配しなくていいと癒してくれた。そして自分のメアドと電話番号を書いた付箋を私の腕に貼り付けた。
「なんかあったら、なんでも言ってくださいよ、僕のメアドです」