chapter2-B 出会い
【そろそろ内容も本題に少しずつはいっていきます】
【サブタイトルは思いつかないときはパッと出たのを使います】
「で、お化けがいたんだよね」
森と今際は河原から帰ってきてからずっと動揺し続けていた、今は二人を時秋さんがケアしているところ。
「っはっはい! こう黒いロン毛でぬらぁって!」
肝心の私はというとその話を横耳で盗み聞きしながら有り余って今にも飛び出さんとする好奇心を必死に噛み殺しているところであった。やっとマジモンに会えたこの時を大輔にも後々得意気に話してやろうじゃないか。
「そっか目撃情報と一致してるね、数有るうちのいくつかにだけど」
「……やっぱ本物なんじゃ……」
「うぇえええええ! 帰ろ、帰ろ!」
時秋さん、それケアになってないと思いますよ。むしろがんがん追い込んでます。
動揺でそれどころじゃないと涙や鼻水を滴れながしながら今にも錯乱を起こしそうな森を介抱している花音さんも大変そうだ、今際は比較的落ち着いているように見えるが普段と比べると幾分か怖気づいてしまっているようにも見えた。
「まぁ待って待って、これでも飲んで落ち着いて」
そういって時秋さんは傍にあった紙コップにお茶を注いで森に飲ませる。少しずつ飲みちょっとすると森が落ち着いたように口を開いた。
「あれは絶対あそこにいましたよ、会長も見たらあぁなりますって」
斉藤が寝ているテントは真っ暗で本当に人が眠っているとは思えないぐらい閑散としていた…がいつもいるかいないか不確かな奴なので気にせず森に目を向け頭を撫でてやる。
「何言ってんの、私がこうなるはずないでしょ」
「なりますよ!」
「じゃあ一緒に行く?」
「………それは嫌です」
本音は一人でも行きたい。
しかしそんな身勝手な行動をすれば時秋さんに止められることなんてわかっている、もっとメンバーを連れてきていればよかったと少し後悔。
「ってか本当にお化けなの? 実際にいた犯人なのかもでしょ」
「そうだね、犯人の方がよっぽど怖い気もするけど…。で、どうしたい?」
時秋さんが何か察したような呆れた目をこちらに向ける。私は遠慮なんてしないような性格だ、大輔は遠慮がちっぽく見えるけどアイツは実に腹黒い、裏で何をしているのかわからないような男だ…ったと思う。
「着いて来てくれます?」
「じゃないと寝てから抜け出しそうだからね」
そういうことで私と時秋さんで現場へ、あとの皆はテントの中に篭って各々眠ったりすることとなった。
河原までは少しばかり歩かなければならない。それまで黙々と歩くのが性に合わないので時秋さんに話をせがむと快く質問を受け付けてくれた。
「じゃあここらのお話、もっと詳しくしてくださいよ」
「んーそうだね……、先輩から聞いた話だけれどもやっぱりここらは危ないらしい」
そういう話って来る前にしてくれるもんじゃないんですかね。
時秋さんは懐中電灯と同じ方を向いたまま淡々と口を動かした。
「廃村で起こった事件以外でも、ここらでは変な事故や事件が起きてる。それでこの近くには新興宗教の建物があるって話なんだ、今じゃどこにあるかもわからないけど」
「新興宗教?」
「たまに信者が出入りしているらしいし、まだあるんだろう。あんまり踏入りたくないから山にはいかないでくれよ?」
話を聞いてからちらちらと暗がりに包まれている山肌を見回すがそれらしき建物はどこにも見当たらなかった、それもそうかどこにあるかすら知ってないんだあっさり見つけられるわけない。
「あのキャンプ場は秋がピークらしいけど……正直あんまりオススメできない。もし夜中に出会いでもしたら大変だからね」
そんな事を話していると私たちは現場である河原についた、懐中電灯の明かりを辺りに向けてみるが林にも川にも生き物の気配は感じられなかった。…が、その時、時秋さんの表情が少し硬くなった。
すぐに時秋さんは懐中電灯の電源を切り私の肩を強く押し付けしゃがみこませて口元に手をやった。
ジェスチャーの意味を理解して口をつぐみ息を静かにする。そして辺りを先ほどと同じように注意深く観察するが私の目は暗闇にまだ慣れていないようでなにも見つけれはしない。
あそこだ と指さされた方を目を細めて見るとやっとのことで噂の人影を拝むことができた。本当は写真の一枚でもいただいていこうかと思っていたのだが、そんなことしたら絶対に怒られる現状、ポケットにしまっていた端末に伸ばしていた手をするりとポケットから逃す。
人影はどうやらこちらを見ているらしく、先ほどまで明かりがあったこちらへ歩いてきているらしかった。林に茂る草を踏みながら人影は河原の石を踏んだ。
私は少しずつ引っ張られながら河原を離れていく。一歩一歩動くたびに足元で小さく石が鳴る、そのたびにさっきまで落ち着いていた胸が高鳴ってしまうのを感じた。
人影は先ほどまで私たちが立っていた場所にたどり着くと辺りをきょろきょろと見回し始める、さっきより少し近い…人影のシルエットはがっちりして髪も長い男性のようだ。
後ろを確認しながらゆるゆると動く二人に対して石を鳴らしながら歩いてくる男の方が速いのは確かだった、男も何か動く影を捉えたのかそちらへと向かっていく。
「…ちょっと覚悟決めた方がいいかもしれないね」
「へ?」
「結城ちゃんってさ、足速い?」
遅い、控えめに言ってビリ。大輔は中等部まではばりばりの部活動に入っていて基礎体力も結構あるインドア派だった、でも私はそれに反して華奢だけど活発なアウトドア派。この質問の意味は「一目散に走って逃げきれるか」ってことだろうけど多分追いつかれて私が被害者名簿に乗るだけだろう。
「時秋さんが飛びかかってその間に私が逃げれば…」
「確実に置いて行く気だね? それはちょっと了承しかねるよ」
「じゃあ二人がかりで……実質一人かもしれませんけど」
男はガタイが良く時秋さんが真っ向から向かっても勝てるか怪しいように思えた、私がぺしぺしと殴りつけてもどうせ無反応だろう。
ならイチかバチか走って逃げてみようじゃないか。
「もし転んだりしたら助けてくださいよ」
男がこちらに気がついた。じゃりっと石を踏む音がいっそう大きくなりこちらに駆け寄るのが見えた。私がまずさきに走り逃げるがわざと遅れた時秋さんにひと呼吸するうちに追い抜かれてしまった。時秋さん結構速い、乙女といっしょだっていうのに手加減してないよあの人!
そしてそれと同じくらい速い男もすぐに私の背後へと迫る。足元が河原の石から土へと変わり少し柔らかくなる。なりふり構わず入れていた力のせいで靴底が土の上を滑り私は先ほど言った通りに盛大に転ぶ。
音に気づいてこちらを見た時秋さんが滑りながら切り返しこちらへ走り込むが、男の方が近かった。男は私の肩を強引に掴み引っ張り上げた。
「時秋さーーーん! 助けて、助けー!」
「あの、大丈夫ですか。お嬢さん」
「…………」
時秋さんが凄い微妙な表情で歩いている、こっちは必死に助けをせがんでいるのになんだあの表情、そして今話しかけたのは誰だ。ゼンマイ人形のように首をギギギと動かすとやはりそこには男の顔がこちらを凝視していた。
んーとね、思ったよりかっこいい人だ。
「あの…突然逃げたりしてすみません、どちら様ですか?」
たどり着いた時秋さんが男に向かって喋る。肩を掴む手を話少しだけ浮いていた私の体がぽさっと土に降りる。
「失礼、私はディアベル・ディアノドアと言います」
外人さんだった、だからやけに体が大きくてタンクトップとTシャツの間の不思議な服を着ていたのだと少し納得。しかしえらく日本語が達者なお方だこと。
「……えーと、今夜はなぜこちらに?」
「気づいたら、ここにいたのです。貴女がたは?」
何か逃げた私たちのが悪いみたいな空気に耐えかねて時秋さんの袖を引っ張る、それを察した時秋さんがディアベルなんとかさんをキャンプへ案内しようと言って歩きながら話し始める。
多分突然この人がテントの中に入ってきたら今際と森が心不全でも起こしそうだな。まぁ別に止めないけど、見てみたいし。
案の定、森と今際はディアベルなんとかさんがテントの中に顔を見せた瞬間に縮み上がり、今際は白目を向いて頭から倒れた。
時秋さんが森をなだめて事情を説明する。傍目に見える今際の足がぴくぴくと痙攣しているのが気になったが、きっと花音さんがなんとかしてくれるだろう。
見た目以上に日本語が達者な彼に軽く戸惑いながらも森はなんとか話し始める。
「そそそそ、それで…ディアベルさんは気づいたら居たって言ってましたよね?」
「えぇ、どうしてかわからないのです」
なんだろう喋り方にぎこちなさを感じる、両方の喋り方に。
森や花音さんもそれを感じていたようで会話は意図していないが探り探りのようになってしまっていた。ディアベルさんを見た目で判断するとヨーロッパ系だろうか、いい感じに鍛えられた身体をしていて何処かしたたかさを持ち合わせた無表情に近い顔をしている。
「それと、随分日本語が上手ですね。来日経験があるとか?」
「あぁ…それもわからない……?」
ディアベルさんは長身なのでテントの中でかがんで話をしていたのだが、そろそろ腰が疲れたか座り込もうとすると彼は置いた腰をすぐに上げた。そうして尾部のポケットをごそごそとまさぐると、彼は小さいが綺麗に光る透明な…宝石のような何かを取り出した。
全員が見える位置にそれを差し出した彼はどうやら所持していた本人も知らないようで小首をかしげる。眠っている斉藤と寝込んでいる今際以外の全員がその宝石に目が釘付けになる。
「これは?」
「わかりません、うしろのポケットにありました」
「手にとっても?」
「構いません」
花音さんはすっと手のひらから宝石をとって灯りを透かすようにまじまじと鑑定するかのように眺めまわした。水晶のような、ガラスのような、ダイヤモンドのようなそれはその灯りを歪にうつすだけで何の知識もない私たちにはどんな鉱石なのだかも判断する材料にはなりえなかった。
「これをどこで? 覚えてませんか?」
「Non capisce. C'è nessuno efficace quello che Lei disse」
「はい?」
この人、突然母国語でしゃべりだしたよ、どこの言葉だよ。
花音さんがあんぐりと口を開けて呆れているのかそれとも考えるのでもやめたのか硬直している脇で森が顎に手をやり必死に訳しようと頭を働かせていた。そういえばこの娘、国際科とかだったけ、役に立つじゃないか我が研究会員も、全然目的違うけど。
ちなみに時秋さんは考えるのを放棄したようでテントの隙間から星空を見上げて寝転んでいた。
「Può essere ritornato」
「えーとね……それを返してれってことかな?」
翻訳に成功した森が石を指差すとディアベルさんも頷いた。言われるがままに石を彼のもとに返すとディアベルさんは口を開いて「なんだったのでしょう」と言った。
その時私は傍にそれを見聞きしながら時秋さんと一緒に少し曇った夏の終わりの星を見ていた。
「ディアベルさんってイタリア系?」
森が翻訳した言葉から察して質問をする。彼は素直に肯定し証拠にと宝石が入っていたのと同じポケットから財布を取り出してお札らしき何かを見せてくれた。
二人と時秋さんは物珍しそうに見ていたが、私はもう考えるのもめんどくさくなるほど疲れきっていたのでいつのまにか頭だけを星空に晒して眠ってしまっていた。
「どうだろうな、何かあるかな」
陰湿なその場所ににつかないステップで彼はその狭苦しい通路を駆け抜けていた。鉄格子で挟まれた通路を彼は鍵束を人差し指で回しながら飛び跳ねていた。
そのシャランシャランという音が牢屋の中でまるで死んでいるかのような目をした人の耳に届く、だが彼女らはなんの反応も起こそうとしない。もしかしたら本当に死んでしまっている人もいるかもしれない、しかし彼はそんなことを気にもかけずただただ目的地を目指して飛び跳ねている。
「そろそろ足りなくなってきた、また足りなくなってきた」
彼は階段を二段飛ばしで駆け上ると目的地まで弾け飛んだように移動しドアを荒々しく開けた。
部屋の奥ではすっきりとしたデスクに収まった初老の男性がすることなくタバコをふかして怪訝そうな目を彼に向けていた。
「まだ足りないでしょう、それじゃあ足りない、新しいのが必要です」
「…そうか。なら一人二人なら持ってきていい、今までどおりな」
舌足らずの彼が喋った断片的な言葉から初老の男性は何を言いたいのかを汲み取る、どうやら彼の扱いには長けているようだった。
彼はその言葉を聞くとすぐにドアを開けたまま部屋から消えた。どうせ表にはすでに仲間と車を待たせていたのだろう、行くなと言っても行きそうなぐらい準備周到じゃないか。
男はため息の代わりにタバコの煙を吐き出した。
「あれ? 森は?」
朝になってディアベルさんと時秋さんが朝食を作っている風景を眺めながら。ふっと一人いないことに気づいた私は呟くように聞いていた。
「あー、どうやら昨夜河原に携帯落としちゃったらしくてさ、今拾いに行ってる」
今日はスープらしい、時秋さんがレモン果汁的な物をドバドバと入れているがそれには目をつぶりながら風景を見続ける。
どうやら森は錯乱したついでにおとしものをしていたのか、つくづく災難な奴だな。これが原因でキャンプがトラウマになったりしたら少し困るな、私はそんなことをふわふわと考えていた。
「……おはようございます」
今際が頭を押さえつけながらテントから這い出てくる。
そして料理をしているディアベルさんを見るなり数秒間硬直した、そういや卒倒してたんだっけな。
改めて説明すると昨晩よりも落ち着いていたおかげで今際はすんなりと状況を飲み込んだ。斉藤はずいぶん前から起きていたようでいつもどおりぼんやりとしながらキャンプ場にあらかた置かれていた椅子に腰を下ろしていた。
こうしてなにもすることなく、私たちはしばらく森が帰ってくるのを待っていた。
いくらなんでも遅すぎると気づくまで、ただずっと。
これでこちら側もほぼ出揃いました。6thのキャラクターで卯月時秋などはNPCとして5thに参加させています。なので道案内やお助けNPCとしてストーリーに関わるためこの話にもそういう面が出ちゃっています。
そろそろ内容も本題に入り込めそうですが、これから忙しくなりそう(ってずっと言ってるきがするなぁ)なのです。
それではまた次章で、卯月木目丸でした。