chapter1-B 廃村
【ざっくりサブタイトル、そして不定期更新】
【6000文字ぐらいで収めるのが丁度いい事に気付き始めました】
廃墟、それはオカルトにはかかせない存在だ。過去にそこは人が居て何かをしていたはずなんだ、そしてその人が間接的でも直接的でも原因となりそこは朽ちたはずなのだ。
人の思いがあり歴史がある、オカルト好きとしては近場ならまず間違いなく食いつかなければいけない、何よりあまり知られていない穴場なんてオマケがついているんだから。
ここを紹介してくれたのはその手の記事を多く書いて取材や実際に行ってみたりしている記者さん、それ系の記事は私も読ませてもらっているので名前だけは軽く知っていた、卯月 時秋さんである。
そしてその時秋さんを紹介してくれたのが、先輩である通 花音さんだ。
「オカルト記事だけじゃなくて色々書いてるんだけどね…」
「まぁまぁ。そういうのが大好きなんですから、彼女らは」
花音さんは成績優秀らしくオカルトには興味無しと思っていたがどうやら違ったようだ、しかもこんな都合の良い友人をお持ちなんてなんて運がいいんだろう私は!
廃墟の前にたどり着いた私たちは各々の自己紹介を始めていた、今日来たのはゲストのお二人と恒例と化している私を含めたオカルト研究会の四人である。四人で全員じゃないぞ、誤解しないでほしい。
「私が伊高 結城です、会長やってます!」
「で、私が森 菴です。国際科で、結城とは趣味で知り合いました」
「斉藤 京介、よろしく」
「斉藤…短くない? 私、今際 凪樹、キャンプ目的でオカ研に……えっと」
こうしてメンバー全員が自己紹介を済ませると、時秋さんの先導で廃墟の探索を開始することになった。現場はあんまり大きくないが塗装も禿げたビルが一つとその奥に少しいけば廃村があるらしい。
その廃村では昔事件があったのか不確定だが遺体が見つかったという話しもあるらしい、そこから奥は未探索だが山らしく立ち入りは危ないだろう。
「事件ですかぁ、もしかしてその場に居たりして?」
「いや、先輩から聞いたんだ。なんでも井戸の底から重なったのがでちゃったらしくってね、一番下の遺体なんて湿気と重みで目も当てられなかったそうだよ」
「えぇ…そんなところに野宿するんですか…?」
「大丈夫大丈夫、テントをはるのはそこからある程度離れた川の近くさ。そこにキャンプ場があってね、シーズンだけど人がいないからどうぞどうぞって」
ちょっと退屈になりがちな移動の時も時秋さんや花音さんとの会話のおかげで夏のむんむんする蒸し暑さを忘れられた、この二人がこれから毎回来てくれればと思うが、勧誘するわけにもいかないのでそっと心の奥底にしまっておいた。
塗装の禿げたビル、元はなんだったのだろうか…それすらわかりづらくなっている廃墟の中へ足を入れる。中の空気はひんやりとしていて風が入り込まないのに嫌に涼やかだった。
受付のような場所を見つけると時秋さんはそこに近寄り向こう側に積まれて朽ちようとしている紙を手にとった。
「読みにくいな…、ライト当ててくれない?」
森が近寄り紙…多分ここの資料なのだろうか、それを照らす。そこに花音さんも加わり解読を進めていく。
「………何かの診療所だったのか? 村とはあまり関係なさそうだな」
二・三分すると時秋さんが読めるところだけ読み取りこの廃墟の正体を掴む。診療所…結構ありきたりな廃墟だ、全国にいっぱいあるタイプじゃないだろうか。
一回には診察室らしき部屋と従業員の控え室らしき部屋。壊れかけのロッカーには白衣らしきものもかかっていたがその白さはすでに失われていた、まぁ綺麗でも持って帰るやつなんていないだろうけど。
その上は全てワンパターンの病室が並んでいた、きっと綺麗だったろうベッドももうズタズタになっている。あまり手が入ってない廃墟なので落書きが一つも見当たらなかったのもつまらない。
結局、この廃墟はいつもどおりのなんの変哲もない廃墟だったわけだ。
「よし、次行こう次!」
「会長、村ですね!」
「やだなぁ……実際にどんな事件だったんですか…?」
今際が時秋さんに再度事件の概要を聞く、時秋さんは顎に手を当ててより鮮明に表現しようと首をかしげた。
あの話ならきっと次の廃村は本気でやばいスポットなのだろう、その話が詳しく聞けるとなれば少しは危険が回避できるかもしれない。
「そうだな、結果から言っちゃえばその事件であの村は廃村になったんだろう。井戸から見つかった遺体は人間だってはっきりわかるのだけでも数十人分はあったらしい」
「……数十人、それって拙くないですか…」
「当然さ、犯人だって捕まってないって話だ。犯人は村に押し入って住民を端から端まで片付けちゃったんだからね、相当な狂人だよ。もう十数年前の話らしいけど、何故かニュースからは消えてしまった」
元からひんやりとしていた空気がさらに冷たくなる。
「はっきりわからない遺体は部分部分だったりそれこそ肉片だったり、警察は困ったろうね、どんな殺し方をすればそんな事になるか想像がつかない。犯人は村の住民じゃないかと言われたりもした、迷走してたんだよ。でも、そこで事件は一歩進んだわけだ」
部分部分とか肉片との言葉を聞いた瞬間に斉藤の顔が強ばる、私にとってはその犯人が人間じゃない存在なんじゃないかとさえ思えてくる。
例えば熊だったり……井戸にまとめて隠すなんて知恵もないだろう、やっぱり人間なんだろうか。頭がくしゃくしゃになった考えを放棄しようとする。
「身元のわかる遺体があった、それはS市の若い女性だった。当然村とは何の関係もない人だ、そして遺体の状況も一つ一つが細かに違ったんだ。犯人は何回か井戸に遺体を遺棄していたんだ」
「じゃあ、連続で殺してそこに隠しに来てたってことですか?」
「多分ね。そこからやっきになって犯人捜索を続けたけど、結局候補すらも見つからなかった、目撃者すらいないから仕方ないのだろうけど」
これでお話は終わり、わかったことは一つだけ…その村は相当危険だということ。
……どうしよう、コレ。
「ね、ねぇ。先にキャンプ場行ってからにしない?」
森も同じ事を思ってたらしく少し気が動転しながら助け舟を出す。すぐに私と斉藤と今際が賛同すると、一同はキャンプ場へ向かい歩み始めた。
その道中オカ研の四人と花音さんがあたりの森をキョロキョロと警戒しながら歩いていたのは仕方のないことだろう、あぁ、大輔は元気だろうか…衣生ちゃんといちゃこらしてるんだろうかあの野郎。
双子の妹は今にでも心臓が止まっちゃいそうだよ。
キャンプ場まで行く道中にも旺盛な時秋さんはその事件関連の噂やほら話を話し始めた。
「犯人は長髪大男だとも言われていてね、この近くでよく目撃されていたらしいんだ」
「じゃあ、その人が犯人なんじゃないんですか?」
「それが目撃情報が増えたのがつい最近の事でね、井戸も様子が変わっていないから、判断できずじまいだったんだ」
全員の足取り…時秋さんを除いた全員の足取りが一段ずれて止まる。
今なんて言った? 最近? 目撃情報?
「見られた場所もまちまちだけど多いのは森かな、だから近づかないでくれよ?」
当たり前だ、死にたくないもん! 夜の森なんて誘い込まれて長髪の大男に襲われるなんて正直冗談じゃない。しまいにゃ井戸にポイなんて、絶対大輔に笑われる。
キャンプ場に着くと位置を確認してから河原が良く見える場所に大きめのテントを立てる。景色を見回すと存外悪くない、綺麗な小川のせせらぎと森の葉の鳴る音…大輔が着いて来ていればバーベキューセットでも背負わせたのにとちょっぴり後悔する。
時秋さんと花音さんは管理人さんとやらに会ってくるらしく遠くに見える管理人室に向かっていった。それを見てオカルト研究会四人組は河原の石の上に集まる。
互いの顔が見えるように向かい合うと会議が始まるのだ、今回はちょっと重すぎた。
「一人一人意見をどうぞ」
研究会会長である私の先導から会議が進んでいく。
「会長ぅ、今回は本気で拙いですって。きっと呪われますよ」
「同意」
「……もうテントに篭ってたい」
満場一致でネガティブな意見だ。
だが探索やらはしないことには収まりがつかない、残してきた会員は何も気にせずに報告を待っているからだ。アイツら本当に楽なポジションだよ。
ちょっとした話し合いの結果、明日あの二人と共に廃村へ向かうのは森と私になった。残った斉藤と今際はキャンプ場のサービスである釣りを満喫してもらうことにした。
森は一応幼馴染で大輔とも面識はあり仲がいい、だが彼女は出逢えばすぐ私の隣に流れるように止まり別れるまで離れないのだ。その上彼女には意味のわからない特技というか特徴がある。
彼女は国際科に通っている、現時点でも数カ国語をマスターしている彼女はグローバルな活躍が期待されている…本人にその気はないが。オカルト研究会にまでもくっついて来た時は少し心配したが彼女は以外に早く適応していった。
要するにいつものコンビということだ。
「うぇぇぇぇっ」
「森、あんた本当に飲んでない?」
「かぁぁいちょぉぉぉ…飲んでませんにょぉぉぉおぉぉぉおおぉ」
「うわっ、吐きそうじゃない! 今際、悪いけど川まで一緒に付き合ってやってくんない?」
「……仕方ない」
現在、深夜11時のバーベキュー。斎藤はいつの間にか寝ていた、花音さんも時秋さんも私たちに混じって楽しんでいるようだ。
時秋さんが嗜好品として持ってきた缶ビールだがどうやら一本無くなっていたらしい、そしてジュースを飲んでいたはずの森がこの始末だ。本当に飲んだか否かはいざ知らずこの泥酔具合では肝心の事を覚えてはいまい。
「……大丈夫?」
「うぇぇぇぇっ、ごめぇん今際ちん…おぶぇ」
河原までつく、丸みをおびた石ころの上に手をついて食道を苦しめていた液状の物質を吐き出す。
背中を優しくさすられている感触、きっと今際が良くしてくれているのだろう。オカルト研究部の残り少ない良心である今際は口が少ないものの非常に優しく友好的だ、こんな不甲斐ない自分にも付き合ってくれるんだから間違いない。
「げぇっぼ……うぇぇ」
「……うっわ」
もう何を吐いているのかすらわからない。吐き終わったらサイダーでももらってからもう一回食事を取るとしようかな、ソーセージとかもっと食べたかったから結果オーライだったかもしれない。
流石に吐瀉物を直視するのを避けた今際はふっと視線をそらす、辺りにあるのは暗い森と真上に広がる満天とは言えないが綺麗に広がる星空、星空を眺め知っている星座を探し終えると次は森に視線を落とす。
何もない森、暗闇ばっかりの森。
そこで背中をなでていた今際の手が止まった。
「うぅー、ありがと今際! かーなり気分良くなったよ。 ん? どった?」
吐き終えた森も姿勢を直して今際の顔を見た。
明らかにどこかを見据えて口をパクパクとさせている、自然と今際の向いている方へと森も視線を動かす。
先にあったのは暗がりの森、その中にあったものを二人は見つけた。そこにはロングヘアーの人間が怪しくぼぅっと立っていた。
こちらに気づいていないのかそれとも首でも吊っているのか、その人間はふらふらとそこに立っているだけ。それが二人に不気味さと恐怖を与えた。
「今際、今際!」
「………ッ!」
「帰ろう、帰るよ!」
二人はお互いに手を取って皆がいるキャンプ場へと走った。たどり着くまでの事はよく覚えていなかったがあの幽霊だか人間が追ってきた覚えはなかった。
へとへとになって倒れ込んできた二人を見た三人は何事かと聞いたが先ほどあったこと以上は何も出てきやしなかった。
ただそれに対して私に芽生えた者は二人の恐怖とは真逆の好奇心だった。
「おーい、お茶……ってアイツ今日はいないんだっけな」
せっかくお客が来てくれたっていうのにお茶も出せないようでは失礼極まりないので、慣れない手つきで陶器にいれたての煎茶を注ぐ。
「すみませんね、慣れてないもので」
「い…いえ。探偵さん、なんですよね」
「そうですよ。コーヒーの方が良かったですか?」
「煎茶で」
久しぶりのお客さんにウチは浮気調査・事件協力・ストーカー被害・お手伝いなんでもアリだと説明してやると客は少し落ち着いて話をしてくれた。
どうやらこういう所は初めてらしい、まぁ常連なんていないけどな。
客はどうやら軽度のストーカー被害の相談に来たようであんまり表沙汰にしたくはないそうだ。相手さえおとなしくなってくれればいいそうだ、これは相手側と相談をしていくその手伝いだろう、アルバイトのアイツに丸投げしてもいい仕事だが生憎そのアルバイトがいない。
「それでお困りで…ストーカーですか」
急に現れて…などの話を聞くにストーカーではなく軽いドッキリみたいなものではないかと思っていたが後半だと家のベランダに忍び込んできたりなどの中々ハードな話が待っていた。
「はい。彼女が嫌いな訳じゃないんです、ただ…」
「もう少し大人しくして欲しい…ですか。そういった事をお話したことは?」
「あります。それとなくですが」
「そうですか、それじゃあ一度本格的に話し合ってみてはいかがでしょう」
順当な解決手段をとっていけばきっと穏便に済ませられるだろうと踏む、一応相思相愛のようだからあまり大きな事にもならないだろう。
「今日はこれぐらいで、一度当人とお話してからまたいらっしゃってください」
客人…もう依頼人と言った方がいいだろうか…まだ決まったわけじゃないが、依頼人が煎茶を一飲みして事務所を行儀よく出て行く。あれは普通の学生に見えるがきっと育ちのいい坊ちゃんだな、仕草からそんな気がする。気がするだけだけどな。
単なるストーカーじゃなくて相手方が好きすぎてベタベタしてきているという話を少し脚色してしまっているだけかもしれない、そうじゃなきゃ高層マンションのベランダにどうやって忍び込むんだ。
きっとそうだ、そういう問題ならちょっとお二人にお話すれば解決する、それで少なめに依頼料でももらうとしよう。あの年頃だ、金策には困り果てているだろう。
いや待てよ、良いトコ育ちなら裕福な暮らしをしているかもしれないな。まぁ恨んだり妬んだりはしないがこの街にそんなお金持ち…依頼人の名前を聞くのを忘れたな、名刺を渡しておいたから何事かあれば連絡してくれると思うが。記憶にあるお金持ちといえば伊高氏しか浮かばないな、元気にしているだろうか。
そんな事を思いながら少々汗ばんだシャツを換えるためにロッカールームのドアを開けた時だった。
「すみません、お邪魔していました」
女の子がいた、花音より年下に見えるぐらいの子が、ロッカールームの中に。
「えーと、迷惑をおかけしました。木原探偵事務所さん、すぐ出ていきますので」
「おい」
そそくさと出ていこうとする彼女を呼び止める。呼ばれるとすぐに体をくるりとこちらへ向けて何事かと首をかしげる。
「……あーとな…、ロッカールームで何をしていた?」
「申し訳ないです…、大輔君とのお話を聞かせてもらってました」
コイツが例のストーカー女か。
そう言って彼女は何かに気づいた素振りを見せると、目にも止まらぬ速さで依頼人の飲みかけの煎茶を喉に流し込んだ。ものすごく満足そうな顔だな。
「それじゃあ、ありがとうございました!」
「おい」
まだ何か? と彼女は再び首をかしげる。
「ウチの名刺だ、何か…相談でも良い…アテにしてくれ」
営業をすませると彼女は事務所を飛び出していった、事務所自体は二階にあるのだが……探偵事務所は二階にあるもんだ、それがロマンだろ?……そこから見下ろすと歩いて帰っていく依頼人の数メートル後ろを歩く彼女が見えた。
また厄介事らしいな。
どうも、最近気づいたのですが作品を分けずに章ごとでおおまかに分ける機能ってありますか、コレ?(説明下手だな)
今回の後半にあるシーンは時間軸がちょっと違います、TIPSとして見てもらえればありがたいです。
毎月20日前後の更新にしたいと思っていますが、ある程度不定期になってしまいます、書き溜めしないタチなので出来たら投稿しちゃうんですよ。
それでは、また次章お会いしましょう、卯月木目丸でした。