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chapter1-A 彼女

【5th Aパートスタートです】

【Aパートでは伊高 大輔、衣生、玲、魔理、八雲が登場確定しています】

「いらっしゃい、えーと久しぶりかな?」

「結城さん、お久しぶりです」

 彼女が家というか部屋に入ってくる、広くても集合住宅だから家って言うと何か語弊を感じるが今はそんなことどうでもいい。

 結城は彼女が行っていた奇妙な行為を知らない、というかアイツは絶対にそういうのに食いついちゃうタチだから言ったところでややこしくなるだけだろう。詰めれば三人がけできそうなソファに結城と彼女が座る。

「よぅし! 何する何する、大輔はコップ持ってきな!」

 なんでこんなに元気なんだろうな。

「大輔君……もしかして迷惑だった?」

「いや、迷惑なんてしてないさ」

 迷惑なのは今じゃなくて日常の方だからな、こっち心配するよりもそっちの方を改善してくれ。

 彼女は部屋をキョロキョロと見回している。友人の部屋に始めて来たなら当然のリアクションだが、日々の経験から僕はその行為を警戒して見つめていた。

「そういえば名前聞いてなかったね、なんてーの?」

 そういえば名前言ってなかったな、というか彼女はあの日以降は結城と接触していないのか…あんなに僕にはベタベタしてきたというのに。

「あっはい。えーと…衣生(いぶ)です。衣生」

「衣生ちゃんねー。大輔と仲いいらしいじゃん、よろしくね」

 日は傾いてきたはずなのに少し蒸し暑く感じる、台所に入りコップへ氷を落とし透明でくすんだ清涼飲料水を注ぐ。向こうからはカーテンを閉める音が聞こえた。

「ごめんね、うるさい妹でさ」

「大丈夫だよ。妹さんいい人だね」

「でさ。オカルト研究会っていうサークルがあるんだけど」

「おい……」



 そんなこんなで三時間程経ったかな、もっと短かったようにも感じたがそれなりに楽しい時間を過ごせた。あんなにしつこくなければもっと好きになれたのにと胸の内で毒を吐く。

 この都市はそんなに荒れていたり危ないような街とは思えないのだが、そろそろ暗くなる頃合、家の近くまで送ってやることにした。

 夕暮れでオレンジ色に染まったアスファルトを二人で歩く、空は紫色に近い色に変わってきて遠くの地平には一番星が見えた気がした。

「今日はありがとうございました。学校じゃあんなに嫌がってたのに…」

 少し距離を置いてただけなんだけど、どうやら彼女はそれに気づいていたらしい。

「別に嫌がってなんか無いよ、ただあんまりしつこすぎるとさ…」

「しつこい……ですか。でも、でもです」

 彼女はそこで口をつぐんだ。悪気がなさそうだと判断した僕は次に言いすぎてしまったかもしれない可能性にちくりと胸を痛めた。

「私のこと、嫌いですか?」

 嫌いじゃないさ、そう言いたかった。通り過ぎながら周りの風景を横目で流し見る。彼女の家は電車を使うでもなく自転車に乗るでもない、意外と近いところにあるらしい。

 素直に答えられなかったのは僕が悩んでいたせいだ、それでいいのかなと。辺りはもうオレンジというには薄暗すぎて空にはきらきらと小さい光が浮いていた。

「ごめん。今はまだわかんない」

「そう。ううん、別に良いんだ、これからもよろしくね!」

 彼女はそう言って明るい笑顔を作ると一瞬早く動き古い作りのアパートの前に止まった。五階建てで横に広いアパート、きっと彼女はここに住んでいるのだろう。

 時間も時間なので多くの部屋には明かりがついていた。駐車場にも車がいくつか止まっていて何処かレトロな感覚を覚えた。

「じゃあ休みあけにね、ばいばい」

 彼女は見えなくなるまで手を振っていた、それを背に家へ帰る道を辿る。そんなに遠くなかったのか歩いて十分ぐらいで家まではたどり着いた。

 あんなに長く歩いていたような気がしていたのだけど、人間の感覚なんてよくわからないものだ。







 次の日、目を覚ますとリビングには荷物をまとめ上げた結城がテレビを見て大きな笑い声をあげていた。まだ時間はあるといえど騒がしい奴だな。

 結局衣生をオカルト研究会に勧誘するのは失敗したらしいがそんな事を気にする様な性格じゃないし、これからもチャンスがあると思っているんだろう。

 何を見ているのかと顔を向けるとお昼時のバラエティだった、どっかの地方までロケに行ってわざわざ新鮮な野菜を丸かじりしている、笑いどころなのかそれ。

「いつ出るの?」

「んー、迎え来てくれるはずなんだけど。来たら行くよー?」

 昼まで寝てしまったのは夜にすんなり眠りに付けなかったから、そりゃ結城が近くにずっと居たけれど彼氏彼女の関係になんて近づいた事もなかったからあんな事になったら胸は落ち着かなかった。夜にまた思い出したのが一番悪かったな。

「メンバーはいつもの?」

 だいたい廃墟探検や良くわからないキャンプに出るメンバーはお決まりのオカ研メンバーなのだ、三・四人ぐらいで一泊程度する仲ってそうとう良いんだろうな、正直羨ましい。

「そうそう、あとゲストが二人。今回の廃墟はそのゲストさんがオススメしてくれたの」

「有名な廃墟なのか?」

「穴場だって」

「そのゲストってのはオカ研じゃないんだろ、勧誘しなかったのか」

「一人は先輩で忙しそうだったし、もう一人は先輩の友人で成人」

 どうやってその先輩と知り合ったのだろう。

「先輩なんだ、どっちの紹介?」

「廃墟は後者。えーと、先輩は医学部の通さんで、友人の方は卯月さんって言う」

「知らないな」

 適当に冷蔵庫から見積もって電子レンジの中へブチ込む。別に余分な電気も使っていないので心配もなくタイマーをセットし動かす。

 その間にとコップにミネラルウォーターを注いでいると玄関のチャイムが鳴る、結城がバックを肩にかけて玄関へ飛んでいく。

 すぐにドアを開けた音が聞こえそこからは談笑する声も聞こえるようになった。いつものメンバーの声は聞きなれているが一つ静かで丁寧な声が聴こえる、それがゲストさんなのだろうか。

 ぽっかりと広くなったリビングへ温まった食品を運ぶ、窓際に置いてあった扇風機の首が結城の居た場所に固定されているのに気づいた僕はすぐさま首を自分の方へと曲げた。

「じゃっ、行ってきます!」

「鍵はちゃんとかけていけよ」

「わかってるよー。勝手に連れ込んでもいいのよー?」

「何をっ!?」

 すでに扉は締められ鍵もかけられていた。アイツ、最後に…思わせぶりなことを言いやがった。

「落ち着け、落ち着くんだ。朝食を取ってテレビでも見てれば忘れちゃうさ」

 結城がいなくなった途端部屋は静かになった。さっきから相変わらずしゃべり続けているテレビでさえその雰囲気に呑まれている。僕は顔見知り(らしい)から独りじゃほとんど喋れない。

 まったく冷めていない冷凍食品を口に運び一日をだらだらと過ごすことにした、面白い番組もないが。

 ………多分、この時から居たんだろうなぁ…。


 三時間ぐらいたっただろうか、曖昧だけど時間は午後三時。

 某有名ロボットアニメを数話見終わり休憩がてらに締めていたカーテンを開け陽光でも浴びようかと思った僕はすくっと立ち上がりカーテンを勢いよく開いた。

 視界が開けベランダに置いてある趣味かどうかもわからない花壇が目に入った瞬間に、何かがエアコンの外付けファンの裏に動いたのが見えた。

 鳥か何かだと判断した僕は気にせずに空に向かって背筋を伸ばし気だるさを飛ばす。

 ガダンッ、何かが外付けファンの裏で響く。

「? 風が強いのか?」

 ガラス戸を開けてベランダに踏み入る、そこから見える木々は確かに揺れているものの風は強いとまではいかない程度たっだ。すぐにファンの裏手で鳴った物…多分、空の植木鉢でも落ちてしまったのだろう…それを直しにファンの奥を覗き込む。

「…………」

 頭が見えた。

「……………」

 丸まっている、女性が。

 見たことないってぐらい白い髪、この夏の日の暑さとはかけ離れたふんわりとした服装、合わせるような彩の長いスカート。

「……衣生さん?」

 ここは二桁ぐらいは高さがある部屋だ、お隣さんも住んでるし鍵もかけている。

「…おじゃまします」

「あぁうん……えっ?」

 彼女は恥ずかしそうにファンの裏手から植木用の小さなシャベルを持って影から出てきた。よく見るとファンの裏には空のペットボトルが捨てられている、三時間ここに居たのだろうか。

 そのまま彼女は靴を脱いで部屋に上がる。

 入るやいなやいつもより静かな部屋を不思議そうに眺めている。

「…結城さんは?」

「いないよ、昨日聞いてなかった? 研究会の友人とキャンプ」

 嘘を含まない程度に伝える、興味をもたれては困るからな。というより何自然に話してるんだ。

「じゃあふたりっきりなんだ」

「え?」

「なんでもないよ。ごめんね、突然押しかけたりして」

 この時点で僕の背中には冷や汗が流れていた、ちょっとつつかれれば不定の狂気にさえ陥ってしまいそうなぐらいに精神はまいっていた。警察に電話してしまおうかと思ったが、彼女に気圧されて身動きが取れなかった。

 昔ネットで見たことがある、二股をかけてしまった男子主人公をヒロインが包丁でざっくりやってしまうというアニメを。そのシーンが脳裏にふとよぎる。

「今日はどうしたの?」

 聞きたいことも聞けずに当たり障りのない言葉を口が発する。

「…泊めて」

 こう背中へとヒロインが包丁をぶっすりと……。冗談じゃない! 頭の中で僕はその発想を振り払う。

 でもそう言った彼女は悲しげで何か事情を持っている雰囲気だった。あんまり親と仲が良くないのかもしれないし、家で何かハプニングがあったのかもしれない。

「家で何かあったの?」

「うん…頼れる人がいなくて。明日、明日ついてきてくれる?」

 なんでだろう、いつの間にか泊める事を了承してることになってないか。彼女は玄関に靴を置いて戻ってくると何かを待つようにリビングのソファに座った。

 多分待っているのは僕の返事。

「わかった、いいよ。泊めるし明日送るよ」

 言ってやった、言ってやったぞ。取り返しのつかないことを…。

「ありがとう、大輔君を頼って良かった!」

 彼女はにっこりと笑う、何も知らんかったら彼女が部屋に来てくれて…ということなのだろうが、当事者としてはベランダから入ってきた時点で不可解極まりない。

 この住処には今のところ空き部屋は無い…というより物置化してしまう。中にはDVDや棚に纏められた本、それら全ては結城と僕の趣味の混合物だ。結城の部屋に泊めるのもなんだか悪いし、残った選択枝は僕の部屋だけということになる。

 食事風呂非常用の出来事大概…それらは用意できる気はあるのだが、寝床をどうするかだけでここまで悩んでしまうとは……。

「眠るところ…ですか?」

 彼女が心配そうな声をかけてきた。

 どうやら顔に出ていたらしい、首をブンブンと振ってぐにゃぐにゃになったイメージを払拭した。

「うん。決まらなくてさ」

「空き部屋とかって、ないの? 毛布だけでもいいから…」

 それはプライドが許さない、床には寝せれない。理由は不明。

 今まで除外していたが残っている選択肢がひとつだけある、これは絶対に彼女に言わせたくない。

「じゃあ…結城さんの部屋とか…」

「あの部屋はオススメできない。ごめん」

 だって壁一面がレッツ・スプラッタ!って感じだからな、うまく伝わらないかもしれないが常軌を逸した部屋なのだ。アイツこそ実はジャパニーズサイコパスなのかもしれない。

 あと部屋の中央に良くわからない像が置いてある、うねうねしたタコ頭の化物の、あれだけでもオススメできない。妙にテカテカしているし。

「じゃあ…大輔君の部屋、だめかな…」

 ほら来た。

 悪い勘違いかもしれないが彼女の狙いはこれでなかろうか。僕の部屋はロボットのプラモや様々なものが飾ってあり多少お金のかけたパソコンと机が置かれている。ベットは広いものを採用している、二・三人詰めれば寝れるかもしれない。

 …が、そうさせる訳にはいかない。

「いや散らかっててさ……そう、あまり女性にオススメできないっていうか」

「そうなんですか……、時間もあるし片付けれないかな? ね!」

 猛プッシュだ、断れない。すぐに僕は折れた。

 部屋の片付けうんぬんは昨日片付けていたのを忘れていた事にした、と同時に彼女が僕の部屋へと最初の一歩を踏み出した、多分彼女にとっては偉大な一歩となったのだろう。

 部屋のセンターに立って辺りをぐるっと見回す彼女、凝視してるよ。頼むから何もしないでくれよと心で祈る。あぁ、リラックスしたい。

 くんくんと彼女は鼻を動かすとプラモデルに食いつく。友人の家に始めて来た時ってあんな感じだったなとしみじみ思う、こんな時に思うもんじゃないけど。

 夕餉の時間が来るとリビングでふたり並んでバラエティを見た、食事は半レトルトだったがパスタを二人分…彼女がお好みらしい海鮮パスタを作った。バラエティを見ながら食べる夕餉は正直言って楽しかった、もう僕の思い過ごしってことで片付けてしまえばいいのかもしれない。

「ねぇ、このDVD何?」

「それ? コントだよ、俺の好きなコンビなんだ」

「見ていい?」

 こんな感じに夕餉も終わればこりあった悩みも胃袋に消え、気分はほどよくほぐれていた。大好きなコンビのコントを二人で見ながら笑いあった。

 ちなみに一人称が僕だか俺だか安定してないのは気にしないでくれ、よくあることだろ?

 こうして僕ら二人は何も大したアクションを起こさずに二人並んで眠った。






「八雲さん? あれ、いない?」

 あんな事があったのにも関わらず私は変わらないデスクワークに追われていた。肝心の上司は部署に居らず、ため息をついた。

「あぁ、玲さん。八雲ならすぐ来るよ」

 隣の部署のふくよかな体をした先輩がファイルで顔を仰ぎながら大声で言う、別に面識が深いわけではないのだが私の美貌と女っけのない職場の補正にかかれば私はここのマドンナなのだ。

 そんな事を内心思っているうちに上司はこちらの忙しさとは程遠いような冷静さを持ってやってきた。行動派の熱血漢のくせに何を気取っているんだか。

「八雲さん、これお願いします」

「おうおう任せろ…って何だ書類か、お前も内勤じゃ疲れないか?」

「いえ、クーラーが涼しいので」

 奴は「そう…」と呟くと書類をデスクにぽいと放って話を続けた。私だってずっと内勤しているわけじゃない、むしろ外勤ばかりして書類を押し付けている上司はどこのどいつだ。

「そういや、二日前入院した田代の代員が来てたぞ。さっき会ったからすぐ来るだろ」

 田代、八雲の電撃突入作戦の犠牲となって階段で足をくじいた憐れな後輩だ。こんなにすぐ補充が来るなんてこの署は暇人が多いんだろう。

 なんてことを……このパターンが多いな、私は何かに取り付かれているのだろうか…だとしたらあの屋敷が全部悪いのだろう。伊高氏には悪いけど。

「初めまして、補給人員としてきました…ぜ」

 顔は見ていない、だが誰かわかってしまった。確かにアイツなら八雲の趣味ともバッチリ合うだろうし、しかも「この部署には知り合いがいるんだぜ」とか言ったのだろう。そりゃ適当な上様の采配だとすぐに運ばれてくるさ。

「玲、また会ったな! これからは結構一緒だぜ」

「結構って何よ…結構って」

「知り合いらしいな、玲。そしてよろしくだ、えーと」

 きびっと姿勢を整えて自己紹介、第一印象は良いな。付き合いが長くなるとそうも言えない腐れ縁になるけど。

「霧斗 魔理、本日からよろしくなんだぜ」

 はぁと私はまたため息をついた。どうしてもまた厄介事に巻き込まれそうな予感がするからだ。

 どうも卯月木目丸です。なるべく定期更新にしたいのですが、ままならりません、中々どうして。

 Aパートでは大輔、Bパートでは結城の物語を展開していきたいと思いますので物語の進行は長めになるかも。

 それでは、またBパート一話でお会いしましょう。

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