chapter0 前日談
【これを読んでいただく前に私の前作を読んでください、続きものです】
【今回は前日談ということで2000文字程度ですが、次からは6000文字前後で区切っていきたいと思います】
夏真っ盛りのせいで体中がベトベトになる、そんな時に冷水シャワーは本当にすっきりする。あんまり長く浴びていると夏風邪を引いて授業どころか寸暇さえも失う事になるので足早に風呂場を去る。
冷えて体中の毛穴が縮み込む。さっさとタオルに雫を染み込ませて部屋着に着替える。
僕…いや俺? 一人称なんて気にしていないので省く、何処に説明しているのかよくわからないが、僕の名前は伊高大輔。現在は勉学の為にS市のアパート…というか部屋の広さならそこらの家より絶対に大きい場所で暮らしている。独りで住んでいるわけじゃない。
「何、またどっか行くの?」
リビングで遠出用のカバンに新品のカメラやら替えの電池やらを詰め込んでいるのは、僕の双子の傍らである伊高結城だ。同じところに通っているが学部は別だ、福祉だか医療だったか正直どうでもいい。
「うん、山の方にさーなんか廃墟あるらしいんだよね。オカ研の皆で行くことにしたの」
オカルト研究会に所属しているコイツは廃墟や心霊スポットに所構わず直行してはビデオを回しシャッターを押す風情もへったくれもない奴だ。それどころか昼と夜に二回行くために近くに野営地を気づくレベルだ。
「アンタは? またプラモデル作るの?」
そして僕の趣味は言われたとおりプラモデル…というかメカ。機械工学部にだって趣味がこうじて入れたし、プラモデルを作る事自体は手先の訓練になる。
棚に並べられたプラモは数十体…壮観だ。これもどれも親が裕福な恵まれている境遇だから出来ることのだろう。僕らの親は実業家でもあり母方の会社の重役も任されている、呆れるぐらい恵まれている。
「うん。気をつけて行きなよ」
「あんたも来れば良いのに。楽しいよー? 崩れたコンクリート…茂みから感じる視線……嗚呼…」
オカルトは信じてないから言っている意味がわからない、霊とかに突如襲われるよりもワニとか実在するヤバイものに襲われる方が現実的だし怖いじゃないか。
「アンタの好きなマシーンだって実在しないじゃない」
「スペースシャトルより簡単なのだってあるよ、兵器だから作らないだけ」
「次は付き合いなさいよ。明日私朝早いから」
冷蔵庫に手を伸ばし中から清涼サイダーを取り出す。同じタイミングで結城がコップを二つ取り出して机の上に並べる。
二卵性の双子だが両方察しが良い為に「やっぱり双子だね」とも「双子なのに似てないね」とかを言われる、慣れたけどね。最近はほとんど言われる事がなかった。
なかった。つい最近に一回だけあったのだ、食堂で二人向かい合いながらカツカレーと同じペースで食べていたときに。見知らぬ女子生徒が「やっぱり双子だね」と上記の台詞をそのままで話しかけてきた。
どうやら僕と同じ学科らしく一度も話したことはなかったのだが、何者も拒まぬお喋り野郎の結城が簡単に隣の席…僕の隣に彼女を座らせたあの時から僕を汗でベトベトにするようなアレが始まったのだ。
「そういやさ、先週だっけ。父さんの誕生日」
「あぁ、テスト期間で行けなかった。それがどうしたんだ?」
「何か、それがらみでなんかさあったらしくって…」
「事件とか? それともあの中国系の…えっと…」
「ホウさんでしょ。そこの会社に頼んで地下にワインセラーとか作るらしいわよ」
なんだそりゃ。ウチに地下なんてあったのか、それとも今ある下にさらに地下を作るのか。どっちにしろあんまり大きいニュースでなくて張っていた気が緩む。緩んだついでにコップを口元へ運び空にする。
ふっと足元から微かな悪寒が体を伝う。覗き込んでもあの忌々しい黒光りした虫はいない、立ち上がってベランダへ出るとその原因が見つかった。
連れられたようにベランダに出てくる結城もそれを見つけたようだ。
「アレって、あのときの?」
そう少し小さく見える下の駐車場にはさきほど話した同じ学科の女学生が立っていた、あの時から彼女はすさまじい数のアプローチを仕掛けてきた。実習も高確率で同じ班になり、自由に席が選べるとなれば友人と話していても絶対に近くにいる。ロッカーを開くと手紙が入っていたり、初日は僕だって心踊ったさ…ついに来たかって。
調子に乗るんだったら冗談だけにするんだったな。
呼び出しの内容が書き込まれた手紙を読んだ僕はそこに行って一連を聞き、「友達からでいいかな?」と返事をした…確かに友達からって言った。断る術もなく逃れられなかったのだろう、この現状から。
「来るわね。約束とかしてたの?」
「うん。遊びに行ってもいいかなってさ、構わないだろ?」
「オカ研に来てくれればもっと良いね」
友人達も最初は「彼女かよ! 裏切ったな」とか言ってきたのだが、最近は「大丈夫か? 刺されてねぇよな?」と心配の声をあげている。
つまりは彼女のアプローチが加速しているのだ。そしてついに彼女はこの空間まで到達することに成功したのだ、友人という立場の特権で。
嫌いなわけじゃない、友人からで楽しくやってゆくゆくは…とか考えてたさ、でも愛が重すぎた。本人に何かの因果でもあるのかと聞いたところ縁があるとか一目惚れだとか…。
これから僕と結城、それぞれに別々の問題が起こる。何かそんな予感がする、僕は彼女絡みで結城はどうせ行った先で変な幽霊に付き纏わられたりするんだろ。無礼極まりないからな。
「じゃあコップもう一つ必要か。あ、あとアレやるなら私にもやらせなさい、レースゲーは大人数で楽しむもんだからね」
霊にとりつかれたら少しは静かになるのかと僕は考えた、そうなればこの双子は双方奇妙なモノに付きまとわられることになるのだ。
彼女との問題はきっと付き合っていくうちになんとかなるだろう、僕がYESといえば収まるのかもしれないけど。
そんなことを僕は考えていた。この先、厄介事に巻き込まれるとも微塵に思わないで。
そんなお久しぶりでもないですが、お久しぶりです。卯月木目丸です。
予定していたよりも早くに5thの前日談が出来上がりました、誤字脱字などは気にしないようにしているので、ご指摘されても冷や汗しかでません。
この作品はchapter_A(伊高大輔)とchapter_B(伊高結城)に分けての進行が予定されていますので、少しばかり長引くかもしれません。
それではまた。