エレベーター心理戦
突如止まってしまったエレベーターに閉じ込められてしまった4人の男女。
1人は中肉中背でメガネをかけている20代の男。
1人は少し肉がついている40代の男。
1人はスーツを着た20代の女。
1人は買い物帰りの30代の女。
そんな中、突然感じた異臭に顔を歪ませた。ただ一人を除いては。
それはメガネをかけた男だった。
(ま、まずい。オナラをしてしまった。しかも音が出ないクサイやつだ)
そう。異臭の正体は、メガネの男がしたオナラだった。
しかし、エレベーターが止まってしまったためにこの空間から逃げ出すことはできない。
先ほど40代の男の
『大丈夫です。今連絡をしたのでもう少しで動きます。落ち着いて待ちましょう』
と言う言葉で、初対面ながらもみんなで頑張ろうという気持ちが芽生えたはずだ。
(なのにここでオナラって…)
横目でチラッとスーツを着ている女を見るメガネの男。
誰のオナラの臭いなのかを確かめるかのように3人の顔をさりげなくキョロキョロと見ている。
30代の女も40代の男も同様にキョロキョロとしている。
そこでメガネの男は思いついた。
(そうだ! このまま誰が発生源なのかうやむやにしてしまおう!)
そう思いついたメガネの男は、自分も同じようにさりげなく3人の顔をさりげなく見た。
「オホンッ」
そして軽く咳払いを1つすると、鼻をいじって『自分も臭いと思う』ということをジェスチャーで表現した。
オナラはした本人はあまり臭くないという場合がある。とりあえずはその候補から抜け出すことに成功したメガネの男。
そしてそのまま無言が続く。
エレベーターが止まってしまったのが、一時的な停電によるものだということで、電気の復旧が終わり次第動き出す。それまでの間、このオナラの香りが密閉された空間で、4人は待った。
しかし圧倒的なオナラの香りの前に、20代の女がしゃがみこんでしまった。臭いに耐え切れなくてめまいを起こした模様。
それを見たメガネの男は少し慌てる。
(えっ? 俺のせい?)
しかしそんなことは顔には出さずに、心配そうに20代の女を見る。
その20代の女に30代の女が隣にしゃがみこんで声をかけた。
「大丈夫? もう少しだから我慢しましょう」
「はい。ありがとうございます…」
その時、ガゴンッという大きな音と共にエレベーターが揺れた。
何事かと思ったが、ウイーンという音が聞こえたので、エレベーターが動き出した音だということがわかった。
(やった。これでやっと出れる)
メガネの男がそう思ったとき、エレベーターは動き出し、停止してから10分後に1階へと到着した。
開いたドアを40代の男が押さえ、30代の女に介抱されながら20代の女が出ていく。
その様子を見届けてからメガネの男もエレベーターから出る。
エレベーターの中とは違い、新鮮な空気が心地よかった。
(空気がうまい!)
外に出たことによって気分も落ち着いてきたらしい20代の女は、立ち上がって30代の女にお礼を言うと、自動ドアを通り、外へと出ていった。30代の女も40代の男も続くように出ていった。
それに続いてメガネの男も外へ出て、前を歩く3人の後ろ姿を見た。
その時3人がほぼ同時にふり向いて、俺のことを見た。
その目は語っていた。
『勘弁して欲しい』と。
メガネの男はしばらくその場で立ち尽くした。
そして後ろからやってきた警備員の人に、エレベーターが止まってしまったことのお詫びを言われましたとさ。
なんかごめんなさい