図々しいのは女の特権
(き、筋肉痛が……)
翌朝、再び行商の人達に混じって歩き出す。最初昨日に比べて人数が減っているのには驚いたけど、昨日宿を取った街が元々目的地だった人達が居たみたい。遅刻しておいていかれた訳じゃなくて良かった。それに人数が減ったのなら、馬車に乗れる確率も上がるわよね。昨日の今日で早速筋肉痛になった私には有り難い話だわ。昨夜寝る前にストレッチしたけどその効果は薄いし。でも筋肉痛が直ぐに来ただけで喜ぶべきかしら。悲しい事に、歳を取ると二日後ぐらいに来ることが多いからね。
「大丈夫、チヒロ?」
「えぇ。まだ歩き出したばかりだもの」
筋肉痛だとバレバレかもしれないけど、変なプライドが邪魔をしていきなり馬車に乗りたいとは言えない。私は昨夜食事を共にした彼に笑ってそう答えた。
「ねぇ、今夜も夕食一緒にどう?」
「……それは構わないけれど」
「そう。良かった。女性が一人っていうのは心配だからね」
彼は満面の笑みで言う。どうやら知り合ったばかりの私を心配してくれているみたい。そこで私達の少し後ろを歩いているアラドと盲目の彼をチラリと見る。まだ行動を共にする事になるのだし、と思い一応尋ねた。
「ねぇ、貴方の事なんて呼べばいいのかしら?」
「アスでいいよ。昨日みたいに『さん付け』はいらない。敬語もね」
「……そう。分かったわ」
しばらくすると国境が見えてきた。一応関所はあるみたいだけど、元の世界のように入国審査や税関はない。
今居る翠の国は護国の中の一つ。護国は五つの国から成っている。それが白・黒・翠・赤・蒼の五カ国。分かれてはいるけど護国内なら国民の出入りが自由らしいのよね。まぁ、ヨーロッパのユーロ加盟国みたいなものなんでしょう。
関所を越えればいよいよ黒の国だ。
「ねぇ、アス達は黒の国のどの辺りに住んでるの?」
夕食の約束はしたが、行き先によっては関所を越えてすぐに別れる可能性もある。
「俺達は城下まで行くよ」
「そう。なら私と同じね」
「本当に? 良かった。まだ一緒に居られるね」
普通ならドキッとするような屈託の無い笑顔と台詞。だけど生憎私はそんな事でトキメク程若く無い。まぁ、これが十代だったら確実にやられているとは思うけど。
しかしアスはやけに人懐っこい感じだわ。居るのよね、会社でもこういう人。年齢も役職も気にせず懐く子犬のような後輩。世渡りの上手いタイプだわ。でもアスが私にしっぽを振った所で利益があるとは思えないのだけれど。それとも意外と紳士なのかしら。初対面の女性を心配してくれるくらいだし。
女性が一人知らない街をうろつくのは危ないだろうから、ここは一つ甘えておきましょう。私は城下に着いたら仕事を探すつもりだから、もしそれまでに仲良くなれたら仕事を紹介して貰えるかもしれないしね。
打算? えぇ、それが何か?